3話「罰として除霊したつもりが、なんか増えたんですけど」
私は武器屋を出て隣の建物を見る。例の"ぼうぐや"とこの武器屋の間にそびえ立つその建物はかなり大きかった。
そして黒い棺の上の赤い十字架が太陽の光に照らされていた。
その建物の扉の前で立っていると、後ろの彼女が声をかけてくる。
「あの……まさかとは思うんですけど中に入るんですか?」
「あぁ、お前の罰としてな?」
「そんなにカリカリしているとカリカリ梅のようにシワがしわくちゃになって種だけになりますよ」
「そうだな、じゃあ、そのカリカリの原因を癒して貰おうか。ちょうどここに教会らしきものがあるから」
「あの?ホントにそれでいいのですか?」
「あぁ」
私は罰として彼女を除霊として驚かせるつもりだった。彼女は自分がいなくなったら戦闘力的にも案内的にもヤバいだろうと心配してくれたのだろう。
私は扉を開いて歩いて行く。
「ようこそ、迷える子羊よ」
神父……神父って何だっけ?棺を持った黒い服を着た人だっけ?いや、そういう設定なのか。
「オールド・マリースター・エネルド・ハング・アルファード・ホールド・カナリアと申します」
いや、長いわ。どれ言えばいいんだよ。
「長いのでぜひとも略して"オマエハアホカ"ってお呼び下さい」
呼べねぇよ。神父さんに「お前はアホか」なんて言えるか!!
「では、迷える子羊さん。あなたの頼みは何でしょう?」
「あなたにも見えますよね?彼女をどうにかしてください」
「ふむ。それは簡単ですよ。では、始めましょう。ハナバウナー!!」
何だよ、ハナバウナーって。そんなんで消えたら苦労しないは。というか両手広げて膝を折っては戻しての繰り返しを三回くらいして恥ずかしくないのか?
ん?上からなんか降ってきたー。
「いたたたた。マジなんすっか?」
いや、なんか灰色の羽根の生えた女の子降ってきたんですけど。しかもちゃんと服着てるし。
「あれ?あっちゃん?」
「えっ?あっ、楓やん。マジぃ?ウケるんすけどー」
あぁ、これはアレだ。こいつら知り合いだ。っていうか除霊されてないし。まぁ、それはそれでよかったが。
「どうじゃ?この天使、気に入ったか?」
「天使って羽白いですよね?」と私は聞いた。
「なーにぃ、このあんちゃん。そんな細かいこと気にして?マジ超ウケるんですけど」
あー、悪かったな。
「それにしても二人が知り合いだったとは……」
「いや?知り合いではございません。この世界に着く前にあのおっさんの前に現れただけの仲ですから」と花咲さんは言う。
「つーわけなら、この人が……ふーん。そうかぁ。うん、運名だね。ヒューヒュー」
いや、何だよ。囃し立てるな。
「あぁ、おっさん、ありがとうな」
「またのご利用をお待ちしております」
二度と来るか!!、という言葉は心の中で唱えておこう。私は彼女二人を連れて扉から外に出る。こんな感じではあるが、新たに"あっちゃん"という天使を手に入れた。
いや、訂正。その天使は『有川なつみ』というらしい。ステータスにそのように表示されていた。
まぁ、ともかく一人仲間が加わっただけでもありがたいのは確かである。
「あのぅ、これからどうします?他の町に行くのもいいですが、ここでゆっくりしてもいいのでは?」と花咲さんは言う。
「それ、さんせーい。私もお洋服見てみたいし」と有川さんは答える。
二人の熱い視線が私の方に向けられる。確かに私もそこら辺を見て回りたいと思う。しかしこの町で買い物はしたくない。もしここでこいつらの思い通りにさせたら絶対何か買わされるだろう。花咲さんの行動を見ていれば大抵わかる。
「他の町に行こう」
「えっ、やだ。女心分かってないなぁ。レディーファーストって言うじゃない?ねっ、楓」
「私は別にいいのですよ。服なんかどうせ、血泥に汚れるものだから歩くたびに笑われちゃえばいいんだわ、私なんて。お風呂も入らないってことになると匂いもきついだろうしなぁ」
「分かった分かった。ひとまずここでゆっくりしよう。ごはんとか食いたいからね。だから花咲さん、そこまでみじめなこと言わないで。心が苦しいよ」
私は後ろにいる彼女たちを見ながら歩いていたため、前に人がいたことに気が付くのが数歩だけ遅れた。なので当然、私の体は何者かにぶつかってしまった。
『野生の人が現れた』
私の目にそのシステムメッセージが現れる。私は無視して前の人に謝る。
「痛っ……。ごめんなさい」
「あん?ごめんなさいだとぅ?ふむ、最近の奴は謝ってくれない奴が多いからそこは半分で許してやろう。だがな、お前の後ろにいる灰色の羽付きの美少女を連れて歩くなんて俺は許さねぇ。そうだ勝負しろ!!俺は今、使用したい武器があったからちょうどええわ」
目の前にいた男性は短髪で目は鋭く、深緑をベースとした上着と黒い長ズボンを身に着けていた。年は私と同じぐらいか。彼の話の最中に後ろで彼女たちはこう話していた。
「やだ、美少女だなんて。照れてしまうわぁ」と私の時とは違い、何か初々しい感じで言う。
「ねぇ、私は?……あれ?見えてないのかな?おーい、ダメだこりゃ」と花咲さんは言う。
彼はこちらを見るなり、笑い出しながら言う。
「ぶはは。お前、そんなレベルと攻撃力でやっていけるのかよ?防御力もやばいじゃん。なるほど、灰色の天使の彼女に守られているというわけか。お前、単独ならザコだな。親父からもらった、俺のこの剣がお前を泣かしてやりたいって震えてやがるぜ。あ?お前、彼女に何教えてんだ?」
私は後ろを振り返る。なるほど、こいつらのせいで俺が変な目で見らるのか。
彼が話し出す前に時は遡る。後ろの彼女たちの声が嫌でも入ってくる。
「こう胸を上下に揺れ動かすと気が付くんじゃない?」と有川さん。
その直後、花咲さんの悲鳴が後ろから聞こえる。何事かと思い、私は後ろを振り返りたくなった。しかし私は振り返ることができなかった。不自然だと思われるからだ。
しかしちょうどよく彼が私を振り向かせてくれた。そこにいたのは花咲さんの小さな胸を下から両手に乗せて揺らさせている有川さんの姿があった。そしてその光景を彼の目からでは有川さんが両手を自分の胸の前に出して上下に動かしてるという姿だろう。どちらにせよ、こいつらにはお仕置きが必要なようだ。
「よし、お前を倒す。食らえ、新たな武器”ハッター”の威力を」
彼がそう叫んで私に向けた武器はあの武器屋の銃だった。だから当然、その銃口からは旗が出てくるだけだった。
「なんだこれ?」
知らないで買ったのかよ。あの武器屋で見て思ったが、マジで使う奴がこんなにも早く会うなんてな。その直後に後ろから声がかかる。
「ゴーストビッグバン」
『ゴーストビッグバンを繰り出した。相手に直撃することなく、驚かせた』
野生の三つ目ウサギの時のように『幽霊は』というシステムメッセージは省略されていた。巨大な白っぽい手が彼の目の前に落ちた。
「は?何だよ、それ。チートやん。レベル五のくせになんでそんなに強い攻撃してくんだよ。わけわかんねえよ。攻撃だってねーじゃん……は?なんだよこれ、プラスって」
「それはね……これで分かったかな?」
いつの間にか彼の後ろにいる花咲さんは泣きべその彼の手を軽く握って聞いてみる。
「ぎゃあ!!俺の目にゆう……ボハッ……」
「あらあら、泡吹いちゃったわね?どうする、このザコ?」
有川さんはみじめなものを見るかのように気絶して泡を吹く彼を見るなり、私に聞いてきた。
「このまま放置するのもなんだし……今日泊まる宿を探しに行くか」
「そう思って宿の場所を見つけました。案内します」
「さすが花咲さん。よろしく。あれ、耳真っ赤だよ?」
「そんなことないです。行きますから彼はあなたがよろしくお願いします」
「やはりそうなるか」
「レディーファースト」と有川さんにも後押しされる。
「はいはい」
「はいは一回ですよ」と有川さんに軽く注意される。
「はい」
私は彼を背中に背負うなり、先頭を歩く二人の後ろを宿に向けて歩くのだった。