第1章 最初の事件 3
「いかにも刑事さんって感じの見た目だったわね。」
キールの部屋に向かいながらエミリーが言った。
「確かに。」
リアムも賛同した。
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リアム達が部屋に着いてから暫くして、キールが部屋に戻って来た。
「待たせてすまない、荷物はこれでよかったかな?」
キールは3人の荷物をリアムに渡すと、カイルに事件についてわかったことを話した。
被害者はゴードン・ブレイグ34歳、男性。一代でブレイグ・ブランドを築き上げた、若き経営者だ。休暇で故郷のベレニアに向かう途中、ルラフに立ち寄ったらしい。検死報告によると、胸と腹に刺し傷が数ヶ所あり、その傷からの大量出血による失血死だった。
「よく名も知られていて、成金だが周りからの評判もよかったそうだ。遺体に争った形跡は無かったし、魔法の痕跡もなかったから、拘束魔法を使ったとも考えにくい。今は顔見知りの犯行とみて捜査している。凶器になりそうな物も部屋には無かった。」
容疑者は、死亡推定時刻にその宿にいた4人。
マルセナ・タビ
29歳、女性。ブレイグのメイドで、今回の休暇に付いてきていた。遺体の第一発見者で、死亡推定時刻には、二階の別室で荷物の整理をしていた。犯行現場のちょうど真上の部屋で、下の部屋から声は聞こえなかったと証言。
ザラフ・ホーン
49歳、男性。ルラフには、取引先との会議のために来ており、犯行現場の隣の部屋に宿泊していた。事件当時は部屋で寝ていて、警察が来て部屋から出た。昨晩からその時まで、一歩も部屋を出ていない。隣から物音がしたかはわからないと証言。
ラントス・メイヤー
27歳、男性。建物の解体や建て直しをしている。近くで解体作業をしており、先週から宿泊している。犯行現場の向かいの部屋にいて、今日は休みでずっと部屋にいたが、物音は聞いていないと証言。
テレス・リーセリア
20歳、女性。ここ、「宿場リーセリア」の店主、ダムス・リーセリアの娘で、受付をしている。彼女の証言から、死亡推定時刻に宿にいたのはこの4人であることがわかっている。
「全員揃いも揃ってアリバイがない。被害者との接点も今のところメイド以外はわかっていない。となると犯人はメイドの可能性が高いが、確証もないし証拠もない。何か引っかかるんだ。そこでだが、カイルにまた捜査を手伝ってもらいたいんだ。」
「“また”ってことは、前にもカイルが手伝ったことがあるんですか?」
リアムが聞いた。
「ああ。君達も気付いているだろうが、カイルの観察力は目を見張るところがある。だからよく捜査を手伝って貰っているんだよ。」
なるほどと、リアムとエミリーは納得してしまった。
「わかった。なら明日、現場に入れてもらえるかな。」
「ありがとう、カイル。もちろん話は通しておく。2人とも、巻き込んでしまってすまないね。カイルも世話になっていることだし、お礼と言っては何だが、うまい物をご馳走しよう。料理には自信があるんだ。」
そう言ってキールはエプロンをつけた。
「ありがとうございます。もうお腹ペコペコだわ。」
「僕もだよ。」
「オレもだ。」
3人とも腹の虫がなって笑いがこぼれた。その夜、皆は平和な一時を過ごした…。