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プロローグ


 「どうも皆さん、私はチェシャ。こちらの世界の案内役のようなものです。猫です。この物語の3人の主人公は、旅が始まってすぐ、ある事件に巻き込まれちゃいます。先行き悪いですねぇ。ところで、そちらの世界は魔法が存在しないそうですね。そいつは実に面倒だ。魔法があれば、家事は楽々、移動も簡単、仕事だって余裕です。それから殺しも…。まぁ痕跡は残りますがね。」


 チェシャ猫はニタニタ笑っている。


 「さて、そろそろお別れです。えっ、私?そのうち出てきますよ。近いうちに。ではご機嫌よう、彼らの物語をお楽しみください。」


 チェシャ猫は笑いながら消えてしまった。



  ―――――――――――――――――――――――――



 ある朝、リアムは街の掲示板に気になる書き込みを見つけた。


 「旅の仲間、募集中。明日の正午、センベルド宅まで来られたし。か・・・。」


 特に目を引くものでもなかったが、リアムはなぜだか、その書き込みが気になって仕方がなかった。


 「明日、行ってみようかな、とりあえず…。」



  ―――――――――――――――――――――――――



 翌日、正午。


 「地図にあった家はここかな。」


 リアムが着いた家の前には誰もいなかった。


 「間違えたかな…。」


 リアムが引き返そうとしたとき、その家の扉が開いた。


 「やあ、待っていたよ!とにかく入ってくれ。」


 リアムはその青年に言われるがまま、家に入った。


 「おじゃまします。」


 「そこに座って、遠慮しなくていい。まぁとりあえずお茶を。」


 そう言うと彼はリアムの正面に腰掛けた。


 「さて、早速だが本題に入ろう。来てくれたということは、旅に同行してくれるんだね?」


 「それは旅の内容によります…。だいたい僕、なぜだか無性に気になってここに来てしまったんです。自分でもよくわからないうちにここに…。」


 「それはオレのせいだ。実は君には前から目を付けていてね、掲示板に魔法で細工をしたんだ。君にだけ見えて、心を惹かれるようにね。」


 「それってどういうことですか…?まさか僕に何かしようっていうんじゃ…」


 リアムは少し身構えた。


 「まさか!これはオレから君へのオファーさ。君が旅に同行してくれれば、こちらとしてはすごく都合がいいんだ。君には人を惹きつける才能があるし、他人に尽くすことが好きらしい。あまり自覚はしてないようだが。」


 いつもあまり人とかかわらなかったリアムは、自分に人を惹きつける才能があるなど夢にも思わなかった。


 「僕のことはどこで?」


 「学校さ。君は気付かなかっただろうが、オレもよく図書室に行っていたんだ。そのたびに君の姿を見つけたよ。」


 「本が好きで、よく入り浸っていましたから…。ということは同じ学校に?」


 「ああ。もっとも、私用でほとんど校内にはいなかったんだけどね。ところでその敬語はやめてくれないか、一応同学年なんだ。」


 「じゃあ、旅の目的と、僕を選んだ理由を聞いてもいい?」


 彼は一度咳払いしてから話し始めた。


 「まず、旅の目的だが、実はオレの妹が行方不明でね、彼女を探しに行く。名前はアリスだ。まだ14才の小さな女の子で、超絶かわいい妹だ。それにアリスは……」


 妹のことを話し始めた途端、止まらなくなってしまった…。


 「そ、それでこのあたりにはいなかったんだね?」


 リアムは遮るようにして質問した。


 「その通り。昨日も街中探したんだが、アリスを見かけたという人は一人もいなかった。だからこうして旅支度をしてるってわけだ。」


 そう言うと彼はそばにあったカバンをポンと叩いた。


 「それから君を選んだ理由だが、君は本が好きなんだろう?」


 「うん、読むのも好きだけど、実は物語を書いたりもするんだ。」


 リアムは照れくさそうに答えた。


 「そこでなんだが、君には旅の記録を書いてほしい。」


 「旅の記録?」


 「そう。さっきも言ったが、君には人を惹きつける才能がある。それは君が書くものにも影響する。だから旅の記録を書いて残してほしい。アリスのために…。」


 彼は少し寂しそうな顔をしていた。


 「アリスちゃんのため?」


 「ああ、アリスはあまり体が丈夫じゃなくてね、街の外を見たことがないんだ。いつも街の外の話をすると喜んでいたよ。だから旅であったことを話してやりたいんだ。恐らく、長い旅になるだろうしね…。」


 「ということは、何か手がかりがあるの?」


 「少しだけどね。」


 一通り話し終えたところで、リアムはふと気が付いた。


 「そう言えば自己紹介がまだだったよね。僕はリアム・ベイラルフ。まぁ君はすでに知ってたみたいだけど。」


 リアムは少し苦笑いした。


 「これは失礼、一番大事なことを忘れていたようだ。」


 そう言うと彼は右手を差し出した。


 「オレはカイル、カイル・センベルドだ。これからよろしく頼むよ。」


 「まだ行くとは言ってないけど?」


 と、リアムは少し意地悪く笑ってみた。


 「だが断ってもいないだろう?」


 カイルも笑って答え、リアムも右手を差し出した。


 「ところで、さっき掲示板の書き込みを“君にだけ見えるようにした”と言ったが、あれは正確じゃない。実は君の他にもう一人招待していてね、そろそろくる頃なんだが…。」


 と、その時、扉が叩かれて声がした。


 「ごめんくださーい。」


 リアムは聞き覚えのある声に驚き、カイルの方を見た。


 「驚いたかい?戸を開けてあげるといい。」


 「なんでも知ってるんだね。」


 「君は実にわかりやすいよ。」


 と、カイルは笑い、リアムを戸に向かわせた。

 リアムは戸の前に来ると、一呼吸おいてから戸を開けた。


 「やぁエミリー、君も旅に同行するの?」


 出てきたリアムを見てエミリーは目を丸くしていた。


 「リアムじゃない、“君も”ってことはリアムも?」

 

 「うん、昨日掲示板を見てココに。」


 「私も昨日掲示板を見て、それと今朝カイルに、アリスちゃんがいなくなったって聞いて来たの。その時“もう一人同行者がいる、君もよく知っている人だ”って言ってたけど、リアムのことだったのね。」


 断らないとわかってたのかと、リアムはカイルを見た。カイルは笑っていた。


 「いやぁ、君たちは実に面白い反応をするね、見ていて飽きないよ。」


 リアムは少しムッとして、それからカイルとエミリーの関係が気になった。


 「気になるなら教えてあげよう。」


 カイルはニヤニヤしていた。


 心を読まれた。


 「オレとエミリーは学生会のメンバーでね、以前から顔見知りなんだ。ホッとしたかい?」


 「べっ、別にどうも思ってないよ。」


 リアムは少し顔を赤くした。


 「まぁ君達の邪魔をするつもりはないが…」


 「邪魔ってなによ。」


 「エミリー、君はいつもリアムのはなsムグゥ」


 「それ以上言ったら殺すわよ。」


 カイルの口をふさいだエミリーの目が据わっていた。


 「まぁとにかく、2人とも来てくれて助かる。1人旅は大変だからね。」


 カイルは改めて礼を言うと、地図を広げてこれからの計画を話し始めた。


 「まずはここ、コルドレン地方を捜索する。この辺りにはいなかったから早速隣町に行く。そこに知り合いの情報屋がいるから、そいつを訪ねてみようと思う。後はその情報次第だな。」


 リアムとエミリーは「わかった」と頷き、旅支度のためひとまず家に帰った。



  ―――――――――――――――――――――――――



 その夜


 「やぁ、来たね。それじゃあ行こうか。」


 こうしてリアム達3人の旅が始まった。この先多くの事件に巻き込まれることを、彼らはまだ知らない…。



         プロローグ ―終―



 「どうも皆さん、またまたチェシャです。猫です。どうでした?彼らの出会い、旅立ち。青春感じちゃいますよねぇ。」


 相変わらずチェシャ猫はニタニタ笑っている。


 「そうそう、この前“魔法は使うと痕跡を残す”と言いましたが、あれって指紋のようなもので、人それぞれ違うんですよ。えっ?指紋なら拭き取って消せるって?いいとこつきますねぇ。まぁその話は追々。これから彼らは行く先々で事件にあっちゃいます。それはもう、例の小さくなった名探偵ばりに。もうお前黒幕だろって言われるくらいに。事件と言っても殺人ばかりが事件とは限りませんがね。まぁあんまり喋りすぎるとネタバレになっちゃうんで、そろそろ戻りますね。ではご機嫌よう、次回をお楽しみに。」

 チェシャ猫はまた、笑いながら消えてしまった。




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