デコピン
「新屋君、構えがなってないですね。 こうです、こう一気に力を解放して弾くんですよ」
「こ、こうかな」
「駄目駄目ですね、何度も言ってますが、こう人差し指を親指に添えるような感じで」
「こうか!」
「違います、こうやって...こう!」
「どれも一緒でわかんねーよ!!」
俺は現在、メフィストに上手いデコピンの仕方を教えてもらっていた。
何故デコピンの稽古をつけてもらっているのか?
その理由は数分前の事...、
「では始めます。まず、新屋君は自分の力についてどれほど知っていますか?」
「自分の力ってどういう感じの?」
「スキルだけでいいですよ、ステータスはもう強いんでどうでもいいです」
「そうか、えーっと...主に抜刀を繰り返して戦う感じかな」
「そうですね、とてもシンプルです。 じゃあ次です、あなたはその力を使いこなせていると思いますか?」
「まぁ大体使えてるかな」
「フーン...そうですか」
「何だよ、フーンて」
「いや失礼、ではスキルの隠し判定は知っていますか?」
「隠し判定?」
聞いたことがない。
格ゲーとかの隠しコマンドみたいなもんか?
「例えば、『高速抜刀』についてです、どんなスキルか分かりますか?」
「剣の抜刀スピードをあげるスキルだろ?」
「そうですが、それだけではありません」
「どういうことだ?」
「剣でなくても使えるスキルなんですよこれ」
「え? 抜刀って書いてるから剣だけじゃないのか?」
「固定観念に囚われているからそう思っただけです。 実際は剣が無くても使えます」
「どう使うんだよ?」
「私の真似をして下さい」
そう言うと、メフィストは左手で輪っかを作り、右手をその中に入れる。
そして、左の方の腰の辺りに両手をそのまま下ろす。
「これで、こう!」
メフィストの右手が、左手で作った輪っかの中から飛び出す。
うん、なるほど。
よーするに剣を使っているときの真似をするわけか...って、ええ!? そうなんでいいの!?
小学生が侍ごっこするとき、新聞紙とか無い場合にやるやつだよね!? それ!
「他にもありますよ」
さらにメフィストは続ける。
人差し指を親指に引っ掛けて...ん? デコピンだよね? どっから見てもデコピンだね。
引っ掛けた人差し指を、勢いよくピンッと弾く。
「デコピンでも使えますよ」
「『高速抜刀』の隠し判定ガバガバすぎんだろ!!」
「では、私がやった2つの内のどちらをマスターしたいですか?」
「デコピンの方がましだからデコピンで」
「分かりました、ではまず人差し指を...」
こうして、今に至った訳だ。
「こうやってこうか!」
「そうですそうです! いい感じです」
うん、いい感じって言われても最初とあんま変わんないなこれ。
「デコピンマスターになれますね!」
「ならねーよ」
ポケ〇ンマスターかよ。
「じゃあ実際に使ってみましょうか、デコピン」
「使うって、誰に?」
「この空き瓶を使いましょう」
そう言って、メフィストはローブの裾をはたく。
すると、ドサドサと多くの空き瓶が出てきた。
「お前のローブの中はどうなってんだよ」
「え? 夢と希望と明日と正義が入ってますが何か?」
「嘘つけぇ! 本当に何で知ってんだよ!」
「エ〇カ推しです」
「どうでもいいわ!!」
話が噛み合わないので、俺は諦めて本題に戻した。
「で? 空き瓶をデコピンすればいいのか?」
俺はデコピンする態勢に入る。
「あ、ちゃんと『高速抜刀』をデコピンとリンクさせてからやるんですよ」
「は? リンク?」
「はい。 簡単に言えば、デコピンする時に『高速抜刀』と念じればいいんですよ」
「分かった、やってみるよ」
落ちている空き瓶を適当な所に設置し、手を空き瓶に近づけてデコピンの準備をする。
そして、『高速抜刀』と念じながら指を弾いた。
すると、目の前にあった空き瓶が盛大に弾け散った。
しかし、音がしない。
あれ? と思ったそのとき、
パァァァァァァァァァァァァン!!!
直後に、耳をつんざく凄まじい音が鳴り響いた。
一瞬ポカーンとして、すぐに正気に戻る。
「おいメフィスト! 何が起こったんだよ!?」
「あなたのデコピンが音の壁を越えた。 つまり、音速を越えたんですね」
音速を越えるデコピンて。
デコピンしたら、死ぬどころかされた相手の体すら残ってないなこれ。
「じゃあ次は『制御』を1%から100%に解放してデコピンしましょうか」
「はい? でも『制御』の使い方を知らないんだけど」
「え? 知らなかったんですか?」
小馬鹿にしたような目で見てくる。
超ムカつく。
「『制御』の使い方は、『高速抜刀』をリンクしたときと同じように、解放したいだけの%を念じれは使えます」
俺は言われた通りにやってみる。
『制御』...1%から100%へ解放しろ!
強く念じる。
すると、力が沸き上がってくる感じがした。
「出来たっぽいぞ」
「では、もう一度デコピンを空き瓶にしてみて下さい」
俺はさっきと同じように空き瓶を置き、デコピンの準備をする。
忘れずに『高速抜刀』と念じ、人差し指を解き放った。
その瞬間、俺の人差し指は消えた...いや、超スピードで動いたからそう見えた。
俺の人差し指は完璧に空き瓶を捉える。
だが、空き瓶は割れない。
「メフィスト、空き瓶が割れないんだが」
「ええ、あなたのデコピンは速すぎて、空き瓶がデコピンされた事に気付いてないようですね」
「バケモンすぎるだろ俺のデコピン!」
「ハハハ、じゃあそろそろ教えてあげてください、あなたはデコピンされたのだと」
「え? 誰にだ?」
「もちろん空き瓶にですよ」
「...頭大丈夫か? あれは無機物だぞ?」
「失礼ですねあなた! いいからやってみてください!」
「え~」
俺は空き瓶に話しかける。
「お前はさっきデコピンされたぞー」
「・・・」(←空き瓶)
まぁ返事もクソもないわな。
そう思った次の瞬間、空き瓶を構成している粒子が溶け出すかのようにサラサラと形が崩れて消滅した。
「一体何が起こったんだ...?」
「世界に消されたんですよ、辻褄を合わせるためにね。 ようするにタイムパラドックス的なやつです」
「つまり、俺がさっきデコピンしたときに空き瓶は割れていなければいけなかったのに、速すぎて空き瓶は認識できず、残ってしまったから消されたってことだな?」
「そういうことです」
世界の力って怖えぇ!
「まだまだデコピンを続けますよ新屋君」
「まだやるのか? もう十分じゃないか?」
「そんなこと言ってたらデコピンマスターになれませんよ?」
「ならねーって言ってんだろ! しつこいわ!」
「冗談です、じゃあ次は魔法の知識を学びましょうか」
「おお! いいねそれ!」
異世界に来たら魔法は使いたいね!
ドキドキが止まらなかった。
読んで頂き、ありがとうございました。