味噌汁(miso soup)
...また声が聞こえる。
懐かしい声...俺を呼ぶ声...。
何度も、何度も...そうか、思い出した。
あれは...*ヰ℃&∀の声だ...。
翌朝、俺は目が覚める。
グゥゥゥゥゥゥ。
「腹へったなぁ...」
昨日は、メフィストの野郎がハンバーグを種からグチャグチャ練り始め、その練った種が気持ち悪い『追跡者』を連想させるので食欲が失せ、添えてあるキャベツと人参しか食べていなかった。
「ん? この匂いは、スンスン」
後ろから味噌の香りがする。
振り返ると、少し離れたところでメフィストが鍋をかき混ぜているのが見えた。
俺は近づいて声をかける。
「味噌汁つくってんのか?」
「おや、お早いお目覚めで。 ...それより味噌汁とは何ですか?」
「え?」
あれ? 味噌汁つくってんじゃないの?
鍋を覗き込むが、どう見ても味噌汁である。
「じゃあ何つくってんの?」
「miso soupですよ」
「それを味噌汁っていうんだよ!!」
「ハハハ、ジョークですよジョーク」
「最初から味噌汁っていえよ...具は何いれてんだ?」
「お腹が減ったのですか? じゃあよそってあげましょう」
そう言って、メフィストは鍋の横にあった器を取って、味噌汁を淹れる。
「どうぞ」
「ありがとう、旨そうだな」
とても良い香りがし、中にはじゃがいもや人参、豚肉等が多く入っていて具だくさんだ。
豚汁なのか。
「じゃあいただきまーす」
汁を啜ると、とても美味しく、日本で食べていた時と何ら変わりはない味だった。
「旨いな! これ!」
「そうですか、それは良かった」
どんどん食べていく、すると、
「ん? 何だこれ?」
食べ進めていくと、汁の中に少し大きめの丸い団子のようなものが入っていた。
「??」
かじってみると、つみれでもない、肉団子でもない変わった味がする。
強いて言うなら、なんか濃厚なホタテっぽい味がする。
「なぁメフィスト、何なんだこれ?」
かじりながら聞いてみる。
「え? ああ、それはイノシシから取れた美味しい部分ですよ」
「へぇー、イノシシなのか...ちなみにどの部分なの?」
「・・・」
「...メフィスト?」
メフィストは下を向いたまま答えない。
肩がプルプルしてるように見える。
「メフィスト? 何なのこれ? メフィスト?」
「後悔しませんか?」
後悔? 意味が分からない。
「? しないよ? 教えてくれよ」
「睾丸です、それ」
「へ? 睾丸?」
「はい」
睾丸っていうとあれか、確か金...ってハァァァァ!? 睾丸!?
「ウオェェェェ! なんちゅうもん食わせてくれとんじゃーワレェェ!!」
「だ、だから...言ったんですよ...アッハッハッ!」
「うおおお!! 美味しいと思ったからなお最悪だぁぁぁぁ!!!」
俺が嘔吐きながら苦しんでるのに対し、メフィストは俺を見ながら暫く笑い続けていた。
その後、エルが起きて来て、三人揃った。
「さて、皆起きました事ですし、今後の事をクフフ...話したいとフフフ...思います」
「テメェいつまで笑ってんだコラァァ!!」
まだ笑いが止まらないメフィストを殴る。
...が、軽々と避けられる。
「フフフ、すいません。 では、真面目に」
「なーなー、何があったんや?」
「...いや、何にも」
興味津々で聞いてくるエルを誤魔化しておく。
「そろそろ本題に入りましょう。 これから『追跡者』が来ても対抗出来るように、そして今後のダンジョン探索が楽になるようにするために、新屋君にはさらに強くなってもらいます」
「どうやって強くなるんだ?」
「私が直々に稽古をつけましょう」
「マジでか」
「はい、マジです」
確かに俺より強いやつは多くいる。
メフィストがその例か。
「いつやるんだ?」
「何いってるんですか? いつやるかと聞かれたら答えは一つでしょうが...今でしょ」
「古いわ! てか何で知ってんだよ!」
「フフフ、瑣末な事ですね。 さぁやりましょうか」
「ウチは何しとけばええんや?」
「そこらで遊んどいて下さい」
「扱いが雑になってきてないか!?」
「気のせいですよ」
エルが遠くへ駆けてく。
普通に寂しいだろ。 一人遊び。
「まずは基礎知識からですね」
そうして、メフィストの稽古が始まった。
読んで頂き、ありがとうございました。