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天空塔は何処に希望を求む  作者: 白小豆
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001 浮遊塔

夢を見ていた。

それが夢だと分かったのは、実に何十回と見てきた内容だったからだ。

自分の視界にうつる自らのものであろう手は小さく、絞り出そうとする声は言葉になっていなかった。

不思議な五芒星と十字架を掛け合わせたかのような形の紋様が天井に彫り付けてあった。

それは緑色に輝き、暗い緑から明るい緑へとまるで星のように瞬いていた。

吸い込まれるような美しさはそれと同時にどこか恐怖心を感じさせ、赤ん坊である自分は言葉にならない泣き声叫び声をますます大きくあげるのだ。

そう、赤ん坊である。

自分の手や声から推測するにこれは赤ん坊で間違いない。

今年で18になる自分がなぜそんな夢を見るのかこの夢を何回体験しようとも理由はわからなかった。

父や母にも何回か聞いたことがあるが、心当たりはないという。

そしてやがてこの夢は終わりに近づいてくる。

光の瞬きのテンポが少しづつ遅くなり最終的に、部屋は真っ暗になる。

最後に幼い声が自分の名前を呼ぶ。

「起きて、ラテル。」



瞼の裏にかすかな光を感じて目を少しづつ開く。

見えるのは屋根裏部屋の木材でできた斜めの天上。

右には小さな窓があり、瞼の裏に感じた光はこの部屋唯一の窓から差し込んでいる。

動くたびに少し軋む音を鳴らすベッドの上で体を起こす。

そこで初めてベッドの足元の方に女の子が一人座っていることに気が付いた。

「おはようラテル、朝だよ。」

「ああ、おはよう。相変わらず早いね。」

「えへへ。あ、おばさんがご飯できたよーだって。いこいこ!」

さっきの夢の最後の声はユリの声だったのか。

そう思いながらベッドから起き上がり、部屋から出て階段を降り始める。

ユリは後ろから鼻歌を歌いながらついてくる。

彼女はラテルの家族とハウスシェアをしているもう一方の家族の一人娘だ。

ラテルとは幼馴染で同い年ということもあって兄妹同然に過ごしてきた。

背はそんなに高くないが黒髪のショートボブで大きめの目が特徴的な、幼馴染で贔屓目に見てしまうことを抜きにしても美少女の部類に入る容姿をしている。

人の肩をつかみながら階段をつま先立ちで二段飛ばしで降りるというようななかなか破天荒な性格をお持ちではあるのだが。

若干長めの階段を降りきると魚の焼けるいい匂いと一緒に心地よいリズムの音楽が聞こえてくる。

広めのリビングには大きな机二つが並べられ椅子には4人のお互いの家族たちが座っていた。

お互い朝の挨拶をしながらユリの隣のいつもの席に座る。

座りながら自分の右の席が空いてることに気付く。

「お母さん、リム姉は仕事?それともまだ寝てるの?」

「仕事よ、今日は朝早くから患者さんがくるみたいでね。」

「なるほど。」

「忙しいんだねー。」

ラテルの姉はリムシ―という名である大きな病院で精神科医をしている。

彼女の超能力は精神科医に非常に適しているのだ。

飛行島が飛び立ってからきっかり60年目、それが人類の超能力発現が始まった年だと言われている。

はじめ人類は非常に戸惑い、新しく生まれてきた彼ら、いわば超能力者たちは処分すべきではないのかという意見まで出る始末だった。

しかしその子どもを産んだ親たちの必死の努力とそれから生まれてきた子ども達全員が発現してしまったため、別の対応策を考えなければならなくなったのである。

その結果超能力は研究され、それから30年後には学校のカリキュラムに超能力を学ぶカリキュラムが組組まれるようにもなった。

それからさらにたった現代では超能力は人々にとって当たり前のものとなった。

むしろ仕事などに使う分には便利なものだという認識になりつつある。

ただの不気味な力だったものが社会の役に立つようになった現代、ラテルの姉は自らの精神干渉系統の能力を精神科医という仕事に使っているというわけである。

実はラテル自身にも姉の能力について詳しいことは知らないのだが、何でも精神科医にとって非常に便利なものらしい。

頼みごとがあったのだけれどなあと思いながら塩焼の鮭を白米と一緒に頬張り、みそ汁を啜っていたラテルに、母が話しかけた。

「ラテル、今日は家の壁紙張替の業者さんが来る日だから、代わりに今日のお夕飯の食材買ってきてくれない?お昼ご飯はユリちゃんと外食してきていいから。天気もいいし散歩がてら、ね。」

「うーん、まあいいよ。今日は何もすることないし。」

「気を付けていくのよ。」

「ラテルのことは任せて、シャルおばさん!」

任せましたよーといいながらユリの頭を撫でてる母とニコニコしながら嬉しそうにしているユリを見て苦笑いしながら、ラテルはリビングの外についたベランダの方に視線を向ける。

確かにいい天気だ、快晴の空は澄み切っていて自然に気分が開放的になる気がした。

彼の笑みは苦笑いからいつの間にか自然な笑みへと変わっていた。



ラテルの見た外の景色は非常に眺めがよかった。

何といっても彼らの家は大きな塔の32階にあるのだ。

居住区は真ん中の大きな塔の中にすべてあり――1階につき平均的な大きさの日本家屋が50は入り、それが113階まであると言えばその大きさがわかるだろうか――その周りにショッピングセンターや病院、学校といった様々な施設が周りに広がっているのである。

これが他の11の飛行島に対しこの島だけが飛行塔と呼ばれる所以であり、この島がラテルたちが住む元東京と言われていた大地を切り取ったものなのである。

飛行塔は今日も危険な地表とは対照的な平和な空を飛ぶ。

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