宇宙人の提案
「星が見えてきたぞ」
その声を聞いて、宇宙船の窓から外を覗くと、暗闇の中から青い星が近づいてきているのが見えた。
「文明のある星なのか?」
俺が誰にともなく尋ねると、
「待ってくれ。今、データベースにアクセスしてる。……あった。太陽系の第三惑星、地球。文明はあるようだが、まだあまり発達はしてないみたいだ。人口は約七十億。かなり多いですね」
液晶パネルに表示された文字を船員が読み上げる。
「この星ならいいだろう」
船長が頷いた。続いて通信士に指示する。
「この星の言語を解析して、コンタクトをとれ」
通信士は相槌を打つと、通信機に向き直った。
先程まで静寂に包まれていた船内が、徐々に慌ただしくなり始めた。
「アメリカ政府が、通信に応じました」
別の通信士が報告する。
他の船員の話を聞くと、アメリカというのは地球で1、2を争う大国らしい。
船長は再び冷静に指示を下す。
「着陸許可を要請しろ。他の船員は、着陸に備えるんだ」
船員たちが、慌てて動き始める。
「着陸許可取れました」
「よし、着陸しろ」
操縦士に速やかに指示をする船長。流石はベテランだ。
「パニックを防ぐため、人目のつかないところに着陸してほしいようです」
「望遠カメラで人気の無さそうなところを探せ」
「ありました。着陸体制に入ります」
そんなこんなでようやく着陸することができた。地面を踏むのはかなり久しぶりのことで、遥か彼方の自分の星を思い出し、懐かしんだ。
宇宙船の周りには既に、数人の地球人たちが並んで出迎えていた。身体は俺たちよりも少し小さい。頭は更に小さいので、あまり知的には見えなかった。おまけに手足が4本しかない。生活が不便ではないのだろうか。
「地球へようこそ。私はアメリカ空軍のリック=オルソン大佐です」
「初めまして、オルソン大佐」
先程解析したこの国の言語――地球では英語と言うらしい――を船長が流暢に喋りながら、手を伸ばすと、大佐は驚きながらも笑顔で握手に応じた。
「私たちは、あなた方に技術を教えに来たのです」
大佐は船長が言った言葉を訝しんでいる様子で尋ねた。
「それだけのためにわざわざ?」
「無論、タダでとはいきません。幸い、この星には、私たちの欲する資源が多くあるようです。そこで、ここを私たちの宇宙船の燃料補給地とさせていただきたいのです」
「なるほど、そういうことですか」
「ええ、悪い話だとは思いませんが」
「……私一人では答えかねます。少々相談させてください」
「どうぞ」
大佐はその場を離れた。他の地球人たちは、相変わらず奇異の目でこちらを見ている。
「お待たせしました」
大佐はすぐに戻ってきた。
「それで?」
「アメリカ合衆国はあなた方の提案を快諾します」
「おお、どうもありがとう」
こうして俺たちは、地球人に様々な科学技術を教えていった。
そして、燃料補給も終えて、5日後に地球を離れた。
「どうにかうまく行きそうですね」
俺は窓から地球を眺めている船長に話しかけた。
「ああ、計画も一歩前進だ」
「文明が発達すれば、さらに人口も増えていきます。私たちの食糧問題もようやく解決しそうですね」
「こんな提案、呑んでくれるか心配だったが、どうやら我々の真意には気付かなかったみたいだな」
「彼らがそれを見抜けるほど、キレる存在には見えませんでしたし」
「確かに」
船長は笑った。再び外を見ると、地球の姿は既に見えなくなっていた。
それから、50年の月日が流れた。食糧問題は限界まで悪化し、世界中が飢餓で苦しんでいた。だが、それももうすぐ終わる。
俺たちは再び地球へと向かった。豊富に育った食糧を収穫するために。
意気揚々と地球に降り立った俺たちだったが、そのあまりの変貌に愕然となった。
地球人は俺たちが教えた知識を戦争のために使い、絶滅していたのだった。




