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プロローグ

『小説家になろう』の初投稿作品です。生温かい目で読んでいただければ幸いです。

4つ下の弟と二人兄弟の私は昔から自分より年上の兄や姉に憧れを抱いていた。幼い頃弟と物の取り合いになると、親は決まって「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」と言う。あの時「年功序列」と言う言葉を知っていれば少なからず私の勝率も上がっていた事だろう。でもそんなのは遠い昔の話であって今さらそんな事は気にしていない。ただ「私にも兄や姉が居たらな」と、今でも時々ささやかに思うだけだ。


6年前、大学入学を機に実家から東京に引っ越した私は、卒業した今も東京で独り暮らしをしている。しかし決まった定職に就いておらず、ここ2年間はだらだらとアルバイト生活をしている。大学に入り何となく始めたお芝居にお熱になり今も役者を細々と続けているが、別段どこかの劇団に所属しているわけでもない。卒業時にちょっとしたコネが出来て、その人の主宰する舞台にちょこっと参加している程度なのだけれども。


ある時夢に両親が出てきて何事かと思えば「この親不孝ものが!」と怒鳴られ飛び起きた経験がある。偶然なのか、親のテレパシーなのか。確かに私は親不孝ものと言われても仕方ない。昔から親の誕生日を祝った事もなく、父の日や母の日にプレゼントをあげた記憶もない。そもそも親の誕生日もうろ覚えで、正確な日付までは記憶していない。確か父が10月下旬生まれ、母が2月頭生まれとしか分からない。


それに比べて弟はしっかり者に育った。こんな兄を持てばしっかりせざる負えないのだろう、高校を卒業後地元の優良企業に就職しバリバリ働いている。聞くところによると、古くなった家のブラウン管テレビを2台ほど薄型液晶テレビに買い替えてあげたらしい。なんて素晴らしい親孝行なのでしょう。私はそんなテレビなど買ってあげるほどの資金力など無く、今も親の仕送りを当てにする始末。


そんな松元家の「親不孝長男」の元に一通のメールが来た。送り主は母親。内容は相変わらず【元気ですか?ちゃんと食べてますか?】と私への安否確認メール。だいたい月に一度はこういったメールが送られてくる。「またいつもの事か」とメールを携帯を閉じようとした時、妙に気になる文章が目に入って来た。


【追伸、あんたにお兄さんが出来ました。紹介したいので近々帰って来て】


ん?お兄さん?私はこのメールの意味が全く分からなかった。例えばもし【弟が出来ました】ならまだ話は分かる。もう両親とも高齢なのでそんな事が無いことくらい百も承知なのだが。しかし【お兄さんが出来ました】は全く持って理解が出来ない。一体どこからやって来たお兄さんなのか?もしかして私と生き別れになったお兄さんなのか?謎が謎を呼び、一向に深まるばかり。


さらに私を驚愕させたのはそのメールに添付されていた写真だ。実家の居間のこたつに入ってくつろいでいる父親と弟、そして2人の横でまるでモデルの様なポーズで立っているマネキンが写っていた。そしてそのマネキンの所に【お兄さん→】とご丁寧に手書きの文字が挿入されている。2人がカメラ目線で笑顔を見せているが、マネキンは首ごと右斜め上を向いている。なんてシュールな写真なんだろうか。と言うよりマネキンと写っている写真で笑顔を見せている父親と弟に若干の恐怖心を覚えた。これはすぐさま事実確認をしようと思い、私は急いで母親の携帯に電話をかけた。


「もしもし、ユウキだけど?…あれ?もしもし?電波悪いのかな?」


確かに電話は繋がったはずなのだが向こうの反応が一切無く、遠くでウィーンッという掃除機をかける音がするのが聞こえる。「なんだ今掃除中か」と思いまたかけ直そうと私は一旦通話を切った。すると少ししてから今度は母親から電話がかかってきた。


「もしもしユウキ?掃除機かけてて気づかなかったわ、ごめんね」


「あのさ、あの写真何?冗談?」


「冗談なんかじゃないわよ。あんた昔からお兄さん欲しいって言ってたじゃないの。あの写真この間お母さんが撮ったのよ。よく撮れてるでしょ?」


確かに兄や姉が欲しいとは思っていたが、それは子供がウルトラマンになりたいとかそういう次元の願いであって、そもそも私が長男として生まれた時点でこの願いは叶う事無く儚く散った夢物語なわけで。しかもあれは冗談なんかではなかったと言うのか。しかしあんなマネキンがお兄さんと言われて、さすがに24歳の私でも「はい、そうですか」なんて素直に言える訳がない。まだ「あんたは私達の本当の子供じゃない」と言われた方が素直に飲み込める。さらに写真に撮れ高を自慢されるとは思っても見なかった。もうあのマネキンが家に居ること自体何の不思議でもないと言うのか。


「あとさ、さっき電話した時に一回繋がったんだけど」


「さっきダビデが勝手に電話出たのよ。もう話せもしないのに出て困っちゃうわ」


「ん?ダビデ?」


「お兄さんの名前よ。松元ダビデ」


とりあえず今分かった事は、あのマネキンの名前が松元ダビデという事。そしてあのマネキン、もといダビデさんはマネキンなのに勝手に電話に出るという事。ダビデさんは動くのか?学校七不思議の動く人体模型みたいなものなのか?ますます謎が謎を呼ぶ謎の兄、ダビデさん。私は早くこのダビデさんに会いたくなり、今週末実家に帰る事にした。

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