101回目の土産話を探しに
15分短編です
昨今、墓参りをする人間はめっきり減って、そもそも寺や墓というものも減ってきたこの頃。一年ぶりに妻の墓参りに来た。
「久しぶり。今年もなかなかにハードな一年だったよ」
彼女が好きだった、酒造が最後に作った日本酒を瓶ごと墓石の前に置く。
「最後なんだって。譲り受けちゃった!すごくおいしかったよ」
今日は彼女が亡くなってちょうど百年目になる。海の見える小高い丘の上にある彼女のお墓は、植物に覆われて汚れてしまっていた。
この一年で何があったのかを話しつつ、彼女の墓を綺麗にするのが、僕の一年に一度の大仕事だ。植物の力はすごい。たった一年で、彼女の墓はジャングルになってしまう。ま、彼女植物好きだったから、喜んでるかもしれないけど。
「今年はもう、3月に入った時点で気温が30度近くまで上がってさ。焼け死ぬかと思ったよ。まぁ僕死ねはしないんだけど」
不老不死ジョーク。でも笑ってくれる人はいない。
なんで僕が不老不死になったのか、なんてのは、もう遠い昔で、ほとんど覚えていない。でも事故に遭っても、自分で体を傷つけても死ぬことが出来なかった。
友人たちが老けていく中で僕だけ見た目が変わらないってのも、正直不安だった。でも、生まれてから不老不死になるまでに知り合った人間は、ほんの百年もすればほとんどいなくなってしまった。不老不死になると時間の感覚がぼやけていくのが、唯一の利点かもしれない。
両親が亡くなった後、僕は放浪の旅に出た。死ぬための方法を探して。
その最中に出会った、不老不死と知っても変な顔をしなかった彼女が、僕の最愛にして唯一の妻だ。彼女にもう一度会いたい。そんな一心で、未だに不老不死を終わらせる方法を探っている。でも、彼女が死んで百年経った今でも、その方法は見つかっていない。ホント、困った体質だよ。
君が面白がってくれたから、僕は“死ぬ方法”じゃなくて、“不老不死を終わらせる方法”を探せるようになったんだ。
「ま、未だに見つけられないんだけど。あ、そう言えばね、君が好きだって言ってたパン屋さん、もう閉店していたんだ。お孫さんの代まで頑張ってたんだけどねぇ。他に美味しいお店があったら買ってくるからね」
代わりに買ってきた、新しく見つけたケーキ屋さんのケーキを置いた。
「君と食べたかったなぁ。僕には必要のないモノではあるんだけどね。でも君が誰かと食事をする喜びを教えてくれたから、旅先で知り合った人たちとは、出来るだけ一緒に食事をすることにしてるんだ。おかげでまた友達が増えちゃったよ」
笑っても、笑い返してはくれない。でも、そんなのはもうずっとわかってることだ。今更寂しくなんて、ない。
「でもやっぱり、君に会いたいなぁ」
溢した弱音を聞いている人は一人もいないから、今日は一年分、わんわん泣いた。一年間、ずっと笑顔を絶やさずに生きてきた。もちろん泣きたい日がなかったわけじゃないし、無理に泣かない様にしていたわけじゃない。でも君が、死の間際「笑ってるあなたが好き」って言ってくれたから、僕はなるだけ笑って過ごすようにしてるんだ。おかげで人にも恵まれて、旅先でも僕を助けてくれる人が沢山いるんだ。ありがとう、君と夫婦になれて、僕は幸せだった。
「さて、そろそろ行くね。また来年、会いに来るよ」
——また色んな土産話、持ってくるからね——
お土産話、楽しみにしてる。




