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エピローグ・2

 桜が舞う季節。窓の外には美しいピンク色の景色が広がっている。

 華やかな外の風景とは真逆の、虚しい現実を突きつけられている風景がそこにはあった。

「これ以上、片付けた所でさらなるスペースを確保できるとは思わないんだよねぇ。」

「断捨離しかないですね。しましょう、断捨離。」

「や、やめてくれたまえ。断捨離だけは苦手なんだよっ。」

 モタロー探偵事務所のワークスペースはさらなる場所を必要としていた。

 地面に這いつくばっているモタローが、何かを思いついたようで、すぐに立ち上がり、どこかに電話をかけた。

 電話をかけ終えた後に「もしかしたら何とかなりそうだ」と一安心していた。

 そこに一人のおばあさんがやって来た。

 見た目的にも還暦が違いだろうと推測できる。

「明後日から我がモタロー探偵事務所に入社する二人のうちの一人だよ。因みに、この上の階にあった空きテナントを買い取って、そこに住み込むようなんだ。そこで無理を言って、ここの荷物をその部屋に置かせて貰おうと思ったんだよ。」

 無理を言えば道理が引っ込む。まさに引っ込みそうな話だ。

「こんなに多いんじゃ世話ないね。この半分までなら、置いてやってもいいわ。」

 彼女は先に部屋を整理すると言って、そこから出ていった。

「やっぱり断捨離ルートですね。」

「そ、そんなぁ。」

「ったく、断捨離如きで騒ぎすぎじゃねぇの?」

 ダンボールの中に入っていたものを全て取り出して、空いているスペースに置いていく。

 その合間に袋にそれぞれ『いるもの』『いらないもの』という文字を書いた。

「一応『使うかもしれないもの』も書いておこうか。」

「やめとけ。『使うかもしれないもの』なんて、実際には使わねぇんだから、書くだけ無駄だ。」

 三つ目の選択肢は却下することになった。

 探偵事務所社員総出で物を広げていく。

 そして、その物を二つの袋に分別しながら入れていった。

 パンパンに膨れた袋。

 外に『いるもの』と書かれた袋の物をダンボールに移し替える。そのダンボールを猿渡が上の階へと運んでいった。

 何とか荷物は半分となり、その半分を新しい社員の家へと移動させた。また、残り半分はゴミ行きとなった。

 全員が揃い、客室で少しくつろいでいく。

 全員が何らかの飲み物を飲んでいく。

「今回はおばあさんに助けられたねぇ。本当に空きテナントを購入してくれて助かったよ。」

「しかし、凄いな。空きテナントを購入して家にするなんて。意外とお金を持っていたりしてな。」

「驚輝くん。正解だよ。あの方はお金を持っている方なんだよ。働かなくても老後生活を楽しめるぐらいはあるんじゃないかな。」

 その話を聞いて疑問が現れる。

「いやいや、じゃあ何でこんな所でわざわざ働くんだ?」驚輝の言うことはもっともである。

「入社する一人がおばあさんの孫娘なんだよ。あまりにも心配で、空きテナントまで購入したらしいんだ。それでも心配だからってことで、ここでパートタイムで働くことになったんだよ。」

 少しだけ疑問が解れていく。

「その孫娘ってどんな奴なんだ?」

「履歴書で確認した所、中卒の子だねぇ。」

 それを聞いて、猿渡は飲んでいたコーラを吹きかけた。

「おいおい。今のご時世、大卒、ないし高卒が普通じゃねぇか。そいつやべぇ奴なんかじゃねぇか?」

 彼は再び残っていたコーラを飲み始めた。

「一応、面接もしてみたんだよ。半年以上、引きこもりだって。」

 コーラが吹き出された。

 その後は零れたコーラを拭き取る作業に追われていた。


 次の日、業者によってデスクなどが持ち運ばれた。

 物置だったスペースに近い所にパートのおじいさん、そしておばあさんが対面してデスクが配置された。

 そこに詰めるように、モタローの席がドスンと構える。

 その横に新卒の子と猿渡のデスクが対面して配置。そこにくっつけるようにルインの席が配置された。

「これで明日を待つだけだね。」



*



 パートのおばあさんが自己紹介をし、その後、席へと案内された。

「おー、よろしく。」

「こちらこそ、よろしくですわ。」

 パートのおじいさんとおばあさんがお互いに会釈をして椅子に座った。

 まだもう一人の中卒で、新卒の子は来ていない。

 数分後、扉が開いた。

 入ってきた一人の女の子。バターブロンドの長髪が目立つ背の低い女の子だった。

 その姿を見た猿渡が誰にもバレないように、と気を遣いながらルインにツンツンと手を指す。

 こそこそと「この子、もしかして」と言い、それに対して「その通りだと思いますよ」と返す。

 二人は彼女のことを知っていた。いや、彼女の大人の姿を知っていたのだ。

「雉鼻徠凛です。リュウダ会社の焼失事件を解決したモタロー探偵事務所で働きたいと思い、ここに就職しました。よろしく……です。」

 たどたどしい挨拶。そして、彼女は当然ながら二人のことを知らなかった。初めまして、というお辞儀をしていた。

「彼女には事務作業メインで、所々実務も経験して貰おうと思ってるんだよ。」

 つまり、彼女のデスクはある程度の大きさがあった。

 しかし、椅子に文句があるようで「少し座り心地が」と小さく文句が垂れていた。

「俺のと交換するか?」

「いいんでしょうか?」

 猿渡のアンティーク調に似合うウッドチェアと徠凛の事務椅子が交換される。木製の椅子に座る彼女の姿は、どこか人生図書館での姿を思い出させていく。

 椅子を少し揺らしながら座るその姿は少し微笑ましいものがあった。

 新しい社員を加えて仕事に取り組んでいった。



 そして、一年が経った。

 皆、この仕事に少しずつ慣れ始めていくこの頃。前よりも賑やかな景色がモタロー探偵事務所に広がっていた。

 相変わらず自由人で、今年もモタローは賑やかなオーラを振りまいている。

「今日は俺は席を外すよ。鬼怒川警部から頼まれ事があってねぇ。」くるくると回ったり跳んだりしながら外へと出ていった。

 パートのおじいさんとおばあさんが事務作業に打ち込んでいる。金回りについての仕事を引き受けていて、頭が上がらない。また、掃除も兼ねて行ってくれるため、さらに頭が上がらなかった。

「次の仕事は徠凛も……あっ、私も実務の仕事に参加します。」

「えぇ、モタローさんから聞いていますよ。ただ、参加させられるのは難易度が簡単なものだけですけどね。」

「おいおい。足引っ張るなよ。」

「足を引っ張るのは、そっちじゃないかしら?」

「はぁ? なっ、こいつっ。歳上には敬語を使うんだぞ。」

「えっ、そんなこと言える立場でしたっけ? 自分は歳上に敬語も使えてないのに?」

「な? この糞ガキぃ。」

「はぁ……。」二人の言い争いを見て、ため息をついた。

 仕事に慣れていく度に、日を重ねる事に、二人の仲が悪くなっていく。しかし、邪険な関係ではなく、友達同士の口争いに似たものを感じていた。

 実務メインの猿渡驚輝と事務メインの雉鼻徠凛は、しっかりと仕事に着いてこられる人材である。意欲もある。

 そして、一人前の探偵として、前へと進む一人の探偵がいた。その名も犬島ルイン。彼は一人前の名に恥じない活躍をしていった。

 以上、六名。

 モタロー探偵事務所は賑やかで、仕事となればしっかりとこなす探偵事務所である。怪事件すらも解き明かす。そんな幅広い依頼を受ける探偵事務所である。

 事務所の扉が開いた。

 来客だろう。

 そこに、ルイン、猿渡、徠凛が向かった。アンティーク調の来客の部屋に待機する。

 開いた扉から爽やかな風が事務所に入ってきた。事件の匂いのする不思議な風だ。

 明るい日差しも入ってきている。 

 そこにいる三人が同時に口を開いた。



「「「ようこそ。モタロー探偵事務所へ!」」」



Fin.

ご愛読ありがとうございました!

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