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第8話 混乱怒涛の入学式!!

 地獄の合格発表から2週間が経過した4月上旬。ついに王立学園高等部の入学式が挙行される。この日に備えて準備してきた京子もいよいよ始まる第二の高校生活に向け、気合が入っている。ただ、本人は桜ヶ丘高校の制服で通いたかったのだが、普通に制服が指定されキャメロン市内のデパートで購入したものを着ていた。


(まあ、これはこれで可愛いと思うよ)


 制服は白いブラウスに赤のリボンネクタイ、薄いピンクのスクールカーディガン。青地に白いラインのチェック柄のプリーツスカート。白いソックスにエンジのエナメル靴。見た目には日本の女子高校の制服によく似ていて、京子が着ても全く違和感が無い。


『良く似合ってて可愛いよキョウコ。でも、あまりにも普通過ぎかな。ボクだったらこれにするかな』


 大型モニターに映し出されたのはドリフの雷様。全身緑のタイツにだぼだぼの虎模様パンツ。着用しているのは当然京子。


「なんで雷様!? いやよ。こんなん着て歩いたら頭おかしい女って奇異の目で見られるだけじゃない。おまわりさんに捕まって病院にぶち込まれるわよ」

『映像見てよ。これ以上無い位良く似合ってるじゃないか』

「似合っとらんわ! しかもチョイスが謎。なんでドリフなのよ!」

『アダム様が収集した映像記録で見つけて。最近ハマッてて』

「あんたね…」


『それより時間だよ。転移装置に乗って。忘れ物は無い? ハンカチ持った? パンツは穿いてる?』

「ハンカチ持ったし、パンツもちゃんと穿いてます! なんでコンピュータにパンツの心配されなきゃなんないの!?」


 朝からHALにからかわれ、早くも疲労気味の京子であった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 桜に似た並木道の坂を上り、校門の前で待っていたリーシャとフィンに合流して一緒に登校する。春の暖かな日和と穏やかな風は最高に気持ちよく、日本では味わえなかった新たな生活への高揚感に期待が高まる。


(そういえば、この国の新学期って4月なんだね。日本と変わらないんだ。不思議…。でも、その方が新生活って感じがしていいと思うな。桜に似た木の花も満開でとても綺麗だし、太陽の光も暖かな風も新入生をお祝いしてくれる感じがして素敵だわ)


(アダムさん。新たな人生をわたしに下さってありがとうございます。まあ、ナイスなボディが機械なのはしゃーないけど。でも、最近はこの体にすっかり慣れてサイボーグってのを忘れちゃうんだよね。ある意味凄い技術だよ。エデンの機械技術って)


「キョウコ、どうしたの? 考え事?」

「えっ、なんでもないよ。お天気が良くて気持ちいいなぁって思ってたの」


 生れて初めての友人であるリーシャ、フィンと他愛もない話をしながら並んで歩く。このシチュエーションもまた、京子にとっては得難い宝物のようであった。話をしていると校舎の玄関口まであっという間に到着した感じがする。玄関に入ろうとしたところで、不意に後ろから名前を呼ばれた。


「キョウコじゃないか。合格したんだね、おめでとう」

「はい…って、ジ…ジークベルト様!?」


 京子が振り向くと、上下紺色のブレザーの制服を着たジークベルトがにこやかな笑顔で立っていた。ジークベルトの背後では京子達と同じ制服を着た護衛のアデリナが凄い顔で睨んでいる。


「お、おはようございます!」


 深々と頭を下げる京子と、声を掛けたのはこの国の王子と気づいたリーシャとフィンの兄妹も慌てて頭を下げた。ジークベルトは少々苦笑いしながら顔を上げさせる。


「そう畏まらなくても良いよ。キョウコも君達も。僕も今日からこの学校の1年生で君達と同級生という立場だ。普通に接してくれると助かる」

「とは言いましても…」


 京子はちらっとアデリナを見る。理由は不明だが、どうも彼女は京子を敵視しているように感じる。確かにアデリナは容姿は十人並み。お胸の大きさもAか良くてB。京子の方が容姿、胸の大きさとも勝っている。


「立場を気にされると返ってやりずらいよ。そこの君達もいいよね。僕達は同級生なんだから。アデリナもわかったね」

「えっ!? は、はい王子…」


 京子達を睨みつけていた事に気付いていたジークベルトに注意されたアデリナはしゅんとなった。ジークベルトは京子達に手を振ると、颯爽と校舎の中に入って行った。その後ろ姿を見ていたリーシャが少し頬を赤らめながら京子に尋ねてきた。


「さすが王子様、振舞いや笑顔がとても素敵です。王子様は、キョウコの事を知っていたようだけど、何かきっかけがあったの?」

「きっかけというか、実はかくかくしかじかで…」


 ジークベルトとの出会いの経過を説明していると、時計を見ていたフィンが入学式の時間が迫っている事を知らせて来た。見るとほとんどの生徒は大講堂に行ったらしく、人影が無い。3人は慌てて上履きに履き替えて急いで大講堂に向かったのだった(通りすがりの先生に廊下は走るなと怒られた)。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 入学式というものは、基本どこの世界でも似たようなもので、校長先生の有難くも長ったらしい話と、教育関係者のどーでもいい祝辞、上級生代表(生徒会長)からの歓迎の言葉、新入生代表の挨拶と続いた。

 なお、新入生代用の挨拶はジークベルトが務めた。王族でイケメン、堂々とした態度で挨拶を述べる彼は他の男子とは一線を画す格好良さで、あっという間に新入生女子のハートを鷲掴みにしたのだった。


 最後に各クラスの担任が紹介された後、入学式は無事終了した。新入生は担任の先導で各クラスに移動する。見るとジークベルトとアデリナは最も優秀な生徒が集まるSクラスだった。次いでAから順番にDまで移動する(1学級は40人なので全部で5クラス)。最後に、補欠合格の生徒のクラスである1-Eに所属する20人が椅子から立ち上がって移動し始めた。その中にプリムヴェールの姿もあったが、何となく元気が無いように感じる。


(まあ、絶対合格と思ってたのが補欠だからね。気落ちするのもわかるよ。わたしの場合は入学出来てホッとしたけど)


 クラスメイトはどんな人達なのだろうか。期待と不安が入り混じると同時に、イジメななんかに遭いたくないなと思う京子だった。


 1階の1年生教室の一番外れにEクラスはあった。中に入って各々決められた席に座る。教室は日本の大学の講義室のような階段教室になっていた。これなら、前の人が邪魔で黒板が見えないという事も無い。ちなみに京子は校庭が見える窓際の真ん中付近だった。また、隣はリーシャでお互い顔を見合わせてニコッと笑い合った。


 全員が席に着いたところで、担任の女先生がパンパンと手を叩いて注目させる。


「はーい、ちゅうもーく。あたしがこのクラスの担任、ラエルザだよー。26歳独身彼氏なしだよ。カッコいいお兄さんがいたら紹介してね。ラエルザ先生との約束でーす」


 いきなり砕けた話で京子は呆気にとられ、教室内はくすくすという笑いに包まれる。


「うん、つかみはOKかなー。では、定番の自己紹介いってみよーか。じゃあ、廊下側の手前の君からどーぞ」


「チッ、めんどくせぇ…。オレはキャメロン3中から来たカール・カルビーってんだ。おめぇら、舐めんじゃねぇぞ!」


 カールと名乗った男子は身長が180cm近くある大柄な男子で、短い赤髪をバックに整えた、完全にテンプレ不良といった感じがするイキリ系だった。基本ビビりの京子には苦手なタイプだ。


(でも名前、おやつっぽくてカワイイ…かな)


 数人の紹介を経て立ったのは、ちょっと根暗な感じのする眼鏡をかけた少女。おどおどした感じが昔の自分を見ているようで親近感を持つ。


「あ…あの…その…。ア、アンナ・ローベルです。本を読むのが趣味…です。好きな本は…呪術とか呪いとか黒魔術とか…そういう系統…です。最近は呪殺とか人を不幸にする闇の呪いとかに興味があってぇ…。あたしの右手に棲む悪魔が、悪魔がぁ…。くっくくく…」


「はい。もういいわよー、君は要注意人物決定っと。次の人いこうかー」

「…まだ話が終わってないのに…。先生に一生未婚の呪いをかけよう…ぐふっぐふふ…」


(うん、親近感はナシにしよう。あれはテンプレ中二病だ。しかも重症)


 また、数人置いて立ち上がったのは、制服をきちんと着こなした痩身のイケメン同級生。ロングの髪をファサッとかき上げる仕草がナルシストっぽくてヤな感じ。


「僕の名はナルシス・トウ。見ての通りのイケメンさ。大好きなのは可愛い女の子。特に貧乳美少女が大好きなのさ。貧乳は素晴しいよ。完全なペタンコではなく、掌で包むとちょっと物足りなさを感じる程度のささやかな膨らみの貧乳こそ至高。小さく張りがある貧乳は乳首も小さく纏まり美しい…。僕は貧乳を愛し、貧乳を追い求めるちっぱいの旅人。僕は女子は貧乳しか認めないよ」


「ん~、巨乳自慢の先生と君は相容れないことがよくわかりましたー。はい次の人ー」

「フッ…。その垂れた乳に夢も希望もありゃしない。加齢への現実に絶望するだけ…」

「はい、先生の心を折ったナルシス君は後で職員室に来るように~」


(凄まじい偏見。リーシャが怖がってるよ。リーシャに何かしたら「アンゴルモア」のプラズマシューター砲ぶち込でやるから!)


 次に立ち上がったのは赤く美しい髪を腰まで伸ばした清楚ないで立ちの美少女。見た目は儚げながらも、制服の上からでもわかる巨乳の持ち主だ。京子は軽く嫉妬する。


「エレン・デュランスです。趣味は小説を書くこと…です」


 はにかんだ笑顔で趣味は小説を書くことだと語ったエレンに京子は好感を持った。イメージ的に純愛小説とかを書いているのだろうなと考えた。


「へー。どんな小説を書いてるのかなー。先生読んでみたい」

「…あの、恥ずかしいです」


 エレンはもじもじすると、頬を赤らめながら自分の書いている小説について語った。


「私の小説は…BLボーイズラヴ系です。男同士の純愛と淫靡な肉体の宴がテーマで、 線の細い美少年が毛むくじゃらでガタイが良く汗臭い男に肉体を弄ばれ、陰茎とケツ穴を蹂躙されて喘ぐストーリーが好みなの。ああん、話しているだけで体の奥が熱くなってしまいます。恥ずかしいよー」


「ん~BLかぁ。人の趣味をとやかく言うつもりはないけど、エレンは他人に趣味を話さない方がいいね~。ドン引きされちゃうから。ハイ次の人~」


 ラエルザ先生は苦笑いしつつ、次の生徒を促した。エレンは少々不満そうな表情をしていて、もっと何かを語りたかったようだ。


(エレンさん。見た目はいいのに残念系かぁ~。BL好きは否定しないけど、ちょっと性癖が濃すぎるんじゃないかなぁ。しかも、ケツ穴って…)


 続いて、やたら自信満々のイケ系男子ブルース・アッシュビー、学級委員長タイプの見るからに堅物といった感じのミント・スケルジといった濃い面々の自己紹介の後、ついにキツネ目の女、プリムヴェールの番が来た。


「……プリムヴェール・ケリド。西方州を治めるケリド伯爵家の長女よ。私はね、あなた方とは違うの。伯爵家という高貴な家系の出という事を理解して接するように。私を敬い、平伏するのよ愚民ども。いいわね…ってか、どうして私のような貴族が補欠学級なんかに…。絶対に何かの間違いだわ!」


「噂通りだね~。教えてあげるね、アナタは試験の点数は悪くなかったんだけど、ケリド伯爵家の娘の性格が異常に悪いってのは教育関係者の中で凄く有名でね~。普通合格させられなかったのよ~。他の生徒に迷惑がかかるから。今の自己紹介でその意味がよーく分かったわ。性格が超絶に悪過ぎよ、君。顔つきにも表れてるもん。はい次ー」


 クラスのあちこちから笑い声が聞こえる。キョウコはリーシャと顔を見合わせると、机の下で小さくガッツポーズをした。当のプリムヴェールは「ぐぬぬ…」と唸りながら着席した。


 寡黙なドワーフのガンテツ、エルフの兄妹フィン、リーシャと自己紹介が続く。リーシャを見つめるナルシスの目付きが危険な感じがする。そして、いよいよ京子の番が来た。生れて初めての自己紹介に緊張してしまう。それでも立ち上がって自己紹介を始めた。


「え、えーと。キョウコ・クリハラです。リオネスの片田舎から出て来ました(出まかせ)。補欠合格ですが勉強を一生懸命頑張りたいです。あと、目標は友人をたくさん作って、楽しい学校生活を送りたいと思ってます。皆さん、仲良くしてください。よろしくお願いします(ふぅ~。頑張って言えた)」


 何とか自己紹介を終わらせて着座した京子を、ラエルザ先生がじっと見ている。


「君が、キョウコだね。そうか、君が…」

「えっと、な…なんでせう…」


「キョウコ。なんで君が補欠合格なのか、理由を聞かせてあげるよ」

「えっ!?」


 ざわ…ざわざわ…ざわ…。クラスメイトが騒めく中、ラエルザ先生は一転真面目な顔になって話始めた。


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