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第2話 神様は見てた

「う…、ううん…」


 京子が目を覚ますと、そこは溢れるほどの神々しい光の中だった。ぼんやりする意識と視界の中、どうやら何かに寝かされている事に気づいた。周りを見渡すと何か無機質な感じのする部屋の中のようだった。


「ここは…、どこ…なの。天国?」

「目が覚めたかい」

「だ、誰…。うう、か、体が動かない…」


 誰かが声をかけてきた。聞いたことのない声。体を動かすことができない京子は、何とか頭を動かして声の方を向いた。眩しい光の中から現れたのは身長180cm程、スラリとした背格好の美丈夫だった。しかし、髪の毛は金色、肌の色は白いが、目は美しい紫色をしている。また、体にピタッと密着したボディスーツを着用しており、両腕には金の腕輪をしていた。どこかアニメの世界から抜け出てきたような、非現実の存在のような感じがした。


「あ、あの…ここは? あなたは神様ですか…? わたし、死んだの?」

「うん、君は死んだ…というより、生き残った臓器のバイタルサインが喪失する前にボクが助けた…と言ったところが正しいかな」


「…えっと、よくわかりません」

「簡単に言えば、死ぬ寸前の君をボクが助けた」


「どうして…。どうして助けたの? わたしは死にたかった…。もう生きているのがイヤになったのに…」


「…………」

「生きていても楽しい事なんてない。死んで楽になりたかった。う、うう~っ」


 京子の目から涙が止めどなく溢れ出る。男はどこからか布を取り出すと、黙って涙を拭いてあげた。そして、なぜ京子を助けたのか語りだした。


「まずはボクの正体を話そう。ボクは君たちの住む地球から約1400光年離れた恒星系「アルザス」を周回する惑星「エデン」から来たエデン人で名前はアダム。そうそう、君たちの地球ではボク達の恒星系を「ケプラー452」と呼んでいるようだね」


「エデンはこの銀河系で最も発達した文明を持っていてね。君たちの星…、地球の文明よりは数百年以上進んでいる。でも、銀河系全体で見れば地球もかなり進んだ文明を持ってる方だよ。銀河系に文明が発生している星々は数あれど、惑星間航行できる宇宙探査機を飛ばす能力のある文明は片手で数えるくらいしかないからね。ただ、地球は通常兵器や大規模殺戮兵器の所持数じゃ銀河一かも知れないな」


「…………」


「おっと、話が逸れてしまった。ボクはこう見えても星間航行技術、惑星探査だけでなく、通信工学と制御工学、生理学、機械工学、システム工学、さらには人間、機械の相互関係コミュニケーションを統一的に扱う研究に通じた科学者なんだ」


「それが、わたしを助けたのと何の関係があるんですか?」

「今から説明するよ」


 その優れた頭脳を使って恒星間航行可能な超空間跳躍理論を完成させたアダムは、どうしても他の恒星系文明を見たいと、研究したいとの衝動が抑えられず、私財を投げうって極秘裏に1隻の宇宙船を完成させた。その宇宙船に研究室のラボや恒星間エンジンの設計図、完成させた理論データを全て載せ、宇宙に飛び立ったとのことだった。


「いやー、今まで数多の文明を見たけど、文化の度合いや政治形態、生物様相様々で面白いね。そうして旅をしながらこの太陽系に来て地球を観察していたのだけど…」


 ある時、衛星軌道上から地上を観察しようと高解像度望遠カメラを調整していたアダムは偶然、本当に偶然、数十億分の1の確率の超絶偶然にビルの屋上から飛び降りようとしていた少女にカメラが合ったのだという。


「…それが、わたしですか」

「そう。偶然って面白いね。どんなに科学が進んでも、こんな偶然は解析できないと思う」

「…………」


「建物から飛び降りた君を助けようとして物質移送システムを使ったんだけど、一瞬の差で間に合わなかった。ここに移送されてきたのは、衝撃でばらばらに砕けた君の体だった」


「けど、奇跡的に君の脳は損傷がなかったし、脳波も停止していなかった。そこで、一部のまだ生きている体組織と一緒に培養液に収容して生かすとともに、脳の記憶細胞から何故こんなことをしたのか読みだしてみた」


「…………。わたしの…、記憶を見たんですか…」

「ああ。悪いと思ったけど、行きがかり上、何があったか知りたくてね。見た感想のコメントは控えるよ」

「…はい」


「ただ、君の最後の記憶は「生きたかった…」だった」

「うう…、わたし、わたしぃ~。どうして生まれてきたのかな…、辛い思いばかりで全然楽しい人生じゃなかった…。本当は死ぬのはイヤだった。生きて人生を楽しみたかった…。でも、生きていても仕方なかったのも本当なの…。ぐすっ…」


 アダムは黙って京子の涙を拭き、そして言った。


「泣かないで。君にも生きて幸せになる権利はあるとボクは思う。だから、君を別の世界。そう、他の文明世界に連れて行ってあげる。そこで第2の人生を謳歌してもらいたい。ボクはその手助けをしてあげる」

「…他の文明? でも、わたしの体はバラバラになったって…って、ならどうしてわたしは生きているの!?」


 アダムはニコッと笑みを浮かべると、京子が寝かされている台のコンソールに手を触れてスイッチを入れた。ガクンと小さな振動の後、京子の頭の下辺りから台が上に持ち上げられ、やがて垂直に立ち上がった。京子は自分が2本の足で立っていることに驚いた。アダムはさらにスイッチを操作すると、天井側から大きな姿見が降りてきた。京子は姿見に映し出された姿を見てさらに驚いた。


「こ、これ…、わたし!?」


 目の前に映し出されていたのは紛れもない自分自身。背中の中程まで伸びた艶やかな黒髪、ぱっちりした大きな目、バランスよい鼻と桜色の可愛い唇。83cmCカップの美乳と桜色の乳首、細い腰と形の良いお尻、スラリと伸びた美脚…。顔は紛れもなく自分の、生前よりも整えられた美しいスタイルを持つ「京子」が立っていた。


「あ、あの…、一体これは…?」

「驚いたかい。君は生まれ変わったんだよ」

「生まれ変わった…」


「そう。さっきも言ったが、君の体は地面に叩きつけられてばらばらに砕け散った。脳や一部の生体組織が残って生きていたのは奇跡に近いんだ。だから君を生かすため、ボクの持つサイバネティックス理論と技術の全て駆使して君の生体組織と自動制御マシンを融合させて体を作り上げた。それが今の君」


「そう、君はサイボーグ体となって蘇ったんだ!!」

「サイボーグ! わたしのこれ、機械の体なんですか!? 銀河鉄道999!? 本で読んだことがあるけど、それは未来の技術だって…」

「言ったろ、エデンの技術は地球より数百年は進んでいるって」

「…………」


 京子はしげしげと自分の体を見て、体を左右に振ってみてまたも驚いた。サイボーグ体なのに何の違和感もなく、自然に体が動く。


「驚いたろう。もうその体はキョーコそのものなんだ。さて、いくつかの注意点を話すよ、よく聞いて…って、その前に服を渡すよ」

「えっ…き、きゃぁあーっ!」


 今更ながら素っ裸に気づいた京子は真っ赤になって悲鳴を上げたのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 下着と可愛らしいワンピースドレスを与えられて着替えを終わらせた京子は、アダムと一緒に別の部屋に移動した。そこは机と椅子、壁に大きなスクリーンが据え付けられた殺風景な部屋だった。京子が椅子に腰かけると、アダムはスクリーンに電源を入れた。映し出されたのは京子の全身。アダムは手に持ったタブレットを操作し、透視図を映し出した。


「これが君の体内の映像だよ」


 モニターには体内に配置された様々な機械が映し出されている。それを見て、改めて自分は機械人間になったのだという現実が突き付けられる。しかし、自分ではどうすることもできない。現実として受け入れるしかない。その覚悟が自分にあるだろうか…。


「見ての通り、君の体はほとんど機械に置き換えられている。今のキョーコの体で生体組織は大脳、小脳、延髄などの脳神経系と2つの眼球、心臓、一部の生殖器だ。脳神経系は人工神経で全身のあらゆる部分と繋がっていて、生体と同じように命令の伝達ができるよ」


「脳と目と心臓だけがもともとのわたし…。ん? 生殖器って?」


 次に骨格と筋肉が映し出された。


「君の体の99%は完全に人工物だ。骨はスペースチタニウム被覆極軽量超硬質ハイパーセラミックス製。皮膚と筋肉はナノマシン構造の人工皮膚及び人工筋で多少の損傷は自己修復する。どちらも生体より遥かに強靭で耐久性が高く長寿命だ。また、人工関節は超高分子素材とハイパーセラミックで出来ていて動きも滑らか。ヒンズースクワットを連続1万回やっても全く問題なし!」


「そ、そうですか…。あの、生殖器…」


 次に循環系が映し出される。肺のような機構に京子の心臓、それと同じくらいのサイズの機械が2個、そして血管のような組織とごく細い線が全身を張り巡っている。


「これは循環系。どうしても脳や一部生体組織の維持には酸素が必要だから、人工肺を組み入れた。機能は人間と同様で酸素を取り入れ二酸化炭素と交換する。人工血液は酸素及び必要な栄養素の運搬や駆動によって発生した体内の熱を体表から逃がす等、熱交換する役目も持っている」


「人工血液は補助システムで強化された君自身の心臓によって全身に運ばれる。心臓の下にある装置はニッケル63原子力電池。このナノマシン配線によって全身の機器や駆動系に電力を供給する。いわば君の生命線だ」


「この原子力電池は無交換で約100年の寿命がある。ニッケル63から放出される放射線はβ線だけなので電池を保護する強化セラミックとスペースチタニウムの複合装甲で十分防げる。無論君の生体組織にも何の影響も生じない。あと、原子力電池は交換が可能になっているんだ。交換すれば無限の生命維持も可能だけど、君はそれを望まないだろうね」


「そうですね…。あの、電池の下にある機械は何ですか?」


「ふふふ。これはね、君がスーパーガールに変身するためのものだよ」

「ス、スーパーマーケット? ですか?」

「違う違う、スーパーガールだよ」

「はあ、何なんです?」


「説明しよう、これはエネルギーコンデンサー。そもそも原子力電池のパワーは君が普段生活するに必要な電力しか生み出さない程度の弱いものなんだ。しかし、どうしても力が必要になった時、脳からの信号を受けたコントロール装置が自動的に起動し、コンデンサーに貯められた電力を人工筋に一気に送るんだ」


「そうなると、どうなるんです?」


「人工筋のナノマシン人工細胞が高電圧で励起されることによってパワーが大幅にアップし、常人の50倍以上の力が出せるようになる」


(50倍…。握力50kgの人なら2.5tのパワーが出せるってこと!?)


「ただ、注意しなければならない点もあって、フルパワーの継続時間はコンデンサーの容量に左右されるんだ。君の場合、体格の関係であまり大きなものは搭載できないんだ。君の体内に埋め込んだコンデンサーの容量ではフル充電で持続時間20分、使い切った後の予備電力が2分程度の計22分が限界だ。それと、充電は君が寝たり休憩したりする場合の余剰電力を利用するので、一度使い切ると満タンになるまで最低10~12時間くらい掛かるよ」


「それと、フルパワー状態で走ると最高時速約120kmを出せるけど、コンデンサーの電力消費も激しいから、気を付けるんだよ」


「あの…、もし、フルパワー状態でコンデンサーの電力を使い切ったらどうなるんです?」

「体の全機器と駆動系に過負荷がかかって破損したり、生体組織にダメージを与える恐れがある。そうなるのを防ぐため、安全装置のブレーカーが作動し、一時的に生命維持に必要な機器を除く全システムをシャットダウンさせるんだ。つまり、気を失ってしまうってこと。その後、コンデンサー容量がある程度回復すると自動復帰するよ」


「…………」


「後はそうだね…。そうそう、脳などの生体組織に栄養を補給するのが必要だった。これは専用の補助食品(ゼリー状)を渡すから、朝晩の1日2回、定期的に摂ること。体内に栄養素の備蓄タンクがあるけど、1日抜いた分程度の余裕しかない。常に1つは持ち歩いていた方がいいね。あと、普通の人が食べる食事や飲み物は絶対不可だから気をつけてね。食べたらサイボーグ体が壊れちゃうから。だから当然、排泄も無い。美少女はトイレにいかないを地で行くね。あっははは!」


 その後、人工皮膚のメンテナンス方法、目や心臓、脳の機能を補完するための補助システムについてや日常生活を送る上での注意(お風呂はぬるめに入ること等)を受けてアダムの説明は終わった。


(うう…、どっと疲れた。そうか、体は機械でも脳はもともとわたしのモノだから疲れたっていう感情があるんだ…。ちょっと嬉しい…)


「言い忘れたけど、全身構造を見て気づいたと思うけど、君には子宮がないから子供は産めないよ。ただ、卵子は冷凍保存しているから、人工授精すれば人工子宮で子を為すことができる。保存場所は後で説明するメンテナンスブース内にある。あと、膣は感覚器官ともども修復しているから好きな人と性交はできるし、エクスタシーも感じることができるよ(ニヤニヤ)。ただし、出された後はきれいに洗ってね」


「あ、ありがとうございます(生殖組織ってこれ!?)。なにそのニヤニヤ顔、イヤらしいです…。意外とスケベだな、もう…」


 京子のジト目を受けて照れ笑いしながら、アダムはいよいよ確信の話題に触れた。


「さて、キョーコが向かう世界についてだけど…」


 アダムはタブレットを操作してスクリーンにひとつの恒星系を映し出し、その中の恒星から4番目の惑星をアップにした。それは地球によく似た美しい星だった。

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