第16話 死して屍拾うもの無し!
やってきました勝負の日。午前中の授業が終わり、午後からは先生方の都合(教育会議)で休みである。しかし、大勢の生徒達は帰宅せず、中庭に集まっていて、その中にジークベルト王子やアデリナの姿もあった。そして、中庭の中央に置かれたリング(机に白布を被せたもの)を挟んで対峙する園芸同好会員と園芸部員。早くも中庭は怪しげな熱気に包まれている。
「キョウコ、これは一体何の騒ぎなんだ?」
ジークベルトが訝し気に訊ねて来た。京子は園芸部長のマリアンナを見据えながら答える。
「花壇と園芸同好会の存続を賭けた決闘です!」
「決闘?」
「オーホホホッ! そうなのですわ、ジークベルト様。私達園芸部からしたら、園芸同好会なる下々の集まりなど目障り。目くそ鼻くそなのですわ。ですから、正式な決闘により決着つけてこの世から抹消して差し上げるのですわ。ホーホホホウッ、ゲホンゴホン、む、咽た…のですわ…ゲボッ!」
「一体何がどうなってるのか、よくわからないけど理由を聞かせ…」
「ジークベルト様、下がりましょう。こんな女に関わるとロクな事ありませんよ」
「えっ…アデリナ。ちょっと待って」
理由を聞きたがったジークベルトを付人のアデリナが無理やり引っ張って下がらせた。その際、京子を睨みつけるのも忘れなかった。その視線に京子はむかっ腹が立ったが、今はそれどころではない。咽が治ったマリアンナが「コホン」と咳払いをひとつすると、試合開始を宣言した。
「では、園芸部対園芸同好会の死合を始めますわ!」
周囲の暇人もといギャラリーから大声援が上がる。マリアンナは手を上げてギャラリーを黙らせるとルールを説明し始めた。
「ルールは簡単ですわ。試合方法はアームレスリング。時間無制限1本勝負。対戦相手の手がリングに置かれたマットに着いたら負けです。勝負順は女、男、性別問わずの順で行います。選手の皆さん、準備はよろしいですか?」
京子、ガンテツ、リーシャが頷く。マリアンナも満足げに頷くと第1試合開始を告げた。
「では、最初の試合を始めます。選手の方、出ませい!」
リングの前にリーシャが進んだ。リーシャ・アゼリア15歳エルフ族。小柄で華奢、ド貧乳寸胴のおこちゃま体形が悩みの種の超絶美少女。花畑でお花を摘む姿が良く似合い、どこからどう見てもアームレスリングに出るような女子ではない。
そのリーシャは、半袖体操着にブルマ、運動靴姿。貧乳フェチのナルシスがリーシャのフラットボディを見て歓喜し、絶叫している。一方、対戦相手は…。
「まあ、下賤の者は勝負を捨ててるのかしら。既に私達の勝ちが見えたですわね。こちらの選手は彼女です。出ませい、我が侯爵家お抱えの爆乳戦士、ビッグバストレディー!」
ギャラリーを割って姿を現したのは、リーシャより頭ふたつ身長が高く、首から下をマントで覆った美人女性だった。ビッグバストレディーはフッと笑みを浮かべるとバサッとマントを脱ぎ去った。途端にギャラリー(男子)から沸き起こる大声援! それもそのはず、マントの下から現れたのは、ビキニ姿の美ボディだったからだ。ロケット型のG級ビッグバストに締まった腰、バストに負けず劣らずの形の良い尻が男子生徒の視線を釘付けにする。しかも腹筋は割れ、腕と足の筋肉もパツンパツンに鍛え上げられており、見ただけでリーシャの敗北は確定づけられたようなものだ。
余裕の表情をしたビッグバストレディーがマットに右腕を載せた。激しく存在を主張する胸の谷間がリーシャ(アンナと京子も)を屈辱に叩き込む。
「カモォ~ン。可愛らしいお嬢ちゃん♡」
「…ひっ」
圧倒的筋肉に圧倒的ビッグバスト。漂う強者感にお淑やか系美少女のリーシャは涙目になり、何度も京子達を振り返ってはおろおろする。しかし、このまま突っ立っていても仕方ない。所詮自分は数合わせ。リーシャはそう自分に言い聞かせてリングの前に進むと、ぺこりと頭を下げた。
「よ…よよよ、よろしくお願いします…」
「ふふん。細い腕にド貧乳。色気も何もあったもんじゃない。もう勝負あったわねぇ。秒で終わらせてあ・げ・る♡」
「むっ…。(ド貧乳…。確かにリーシャは貧乳です。だからって、馬鹿にされていいはずありません! 見てなさい、一泡吹かせてあげますから!)」
貧乳をバカにされ、リーシャの闘志に火が付いた。右腕に力を入れるとビッグバストレディーの手を握った。審判役の女子(園芸部員)が握り合った手に手を重ねる。
「レディー…、ゴーッ!」
審判役の女子が手を離した瞬間、リーシャの右手の甲がリングに叩きつけられた。その間、僅か0.8秒。余りにも呆気なく決まった勝負にギャラリーは納得したように頷き、右手の人差し指を高々と掲げて勝利のポーズ(を取った際に強調されるおっぱい)を取るビッグバストレディーに盛大な拍手を送った。
「勝者、ビッグバストレディー!!」
審判の子が勝者の名を高らかと叫んだ。マリアンナがしてやったりという顔をしている。リーシャは腕相撲だけでなく、胸の大きさでも全く勝負にもならなかったことで、涙ぐみながらとぼとぼと戻ってきた。
「ごめんね…。負けちゃった…」
「ま、まあまあ。気を落とさないで。相手が悪すぎたのよ。あんなデカ乳の怪物が出て来るとは予想できなかったもの。仕方ないよ。後はガンテツ君とわたしに任せて」
「そーだそーだ。リーシャは何も悪くねぇ。むしろ、無理言って申し訳無かったし、出てくれたことがオレとしては嬉しいぜ。だからよ、堂々と胸を張れよ」
カールがリーシャの頭にポンと手を載せて感謝を述べた。
「ありがとうです、カール君。でも、やっぱり負けたのは悔しいです。オマケに胸を張っても全くと言っていいほど目立たないのでごめんなさい…」
「何を言ってるんだい、マイ・スモールバスト・エンジェル。君は今のままが一番美しいのさ~。平坦な胸に桜色の乳首こそ至高なんだよ。あんな、脂肪という名の脂でいっぱいのおっぱいが好きだなんて、悪趣味にもほどがあるってもんさ~。さあ、ボクの前で胸を張ってくれないかい。全裸で」
「ひぃ!」
「ナルシス。テメェ、どっから湧いて出た。ゴキブリか、お前は!」
ナルシスに怯えるリーシャをカールが庇う。そんな喧騒を後目に、常に泰然自若とした巌のような男、ガンテツが前に進み出た。京子はガンテツの内に秘めたる物欲という名の闘志を感じ、声援を送る。
「ガンテツ君、頼んだよ!」
「…任せろ」
次の対戦は男性同士のガチンコ勝負。既に園芸同好会は後が無い。京子は何としても勝ってくれとガンテツの背中に向かって祈るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ドワーフ族のガンテツ君。身長こそ150cm程と低いが、横幅が広く体に厚みがある特徴的な体つきをしている。そのガンテツ君はリングに向かいながら服を脱ぎ、ズボンと靴を脱ぎ去って、下着(日本でいう「ふんどし」)一丁になった。しかも現れたボディは腕と足だけでなく、胴体に至るまで、体中の筋肉がはち切れんばかりに発達しており、いかにもパワーファイターといった姿格好だ。
「しかし、何故に下着姿?」
京子の疑問にガンテツ君がボソッと呟いた。
「これはドワーフ族が生死を賭けた戦いに臨む際に着用する正式な下穿きだ」
「…そ、そう。(どーゆー文化なの!?)」
リングの前で腕組みをして対戦相手を待つガンテツ君の堂々とした姿に、マリアンナや取り巻き子女の園芸部員がビビる(一部の女の子は肉体美に頬を染めてもっこり下半身を凝視しているが)。
「早く、オレの相手を呼べ…」
「わ、分かってますわ。さあ、おいでませ世界の女の敵、超変態ブルセラマスク!」
「ムホホホホホーーッ!」
ギャラリーを割って現れたのは、むっちむちのボディビルダーのような筋肉ボディに股間もっこりの白ブリーフだけを穿き、頭からすっぽりと女子ブルマを被った超絶ド変態だった。しかも、ブリーフに何枚もの女子ブルマを挟み込んでいる。
ブルセラマスクは、ブルマの1枚を手に取って、その匂いを嗅ぐと恍惚の表情を浮かべた。その所業は正に変態そのもの。
「ムッフフフ…。このブルマはつい先ほど忍び込んだ女子更衣室から入手した脱ぎたてほやほやの一品。青い果実の体臭の染み付いた運動着や下着は、その手の性癖を持つフェチニスト達にとっては最高の宝物。特に汗とその他でじっとり濡れたブルマこそ究極にして至高。股間から溢れる思春期美少女特有の体臭その他の匂いを嗅いでいるだけでエクスタシーに到達するというもの。ふふふ、このブルマの股間から発せられるすえた臭いは最高だ…。背筋にゾクゾク来る…。ファーハハハ! 吾輩のメンタルパワーはMAXなりィイイイ!」
「いい加減になさい、このド変態! いいですか、あなたはこの勝負に勝つためだけに、特別に恩赦を与えて侯爵家の懲罰房から外に出したのです。負けたら房に逆戻りですからね。真面目にやりなさい真面目に!」
マリアンナが怒鳴るがブルセラマスクは全く意に介した様子もなく、パンツに挟んだブルマの臭いを嗅ぎながら悠然とリングに向かう。
「なに、アイツ犯罪者なの? ヤバくないのかな」(京子)
「なんか…私を見る目が怖いです…」(リーシャ)
審判女史の合図で第2試合が開始されようとしている。ブルセラマスクが「ダン!」と音を立ててマットに右腕を置いた。よく見ると、腕の筋肉が半端なく発達している。間違いなくパワーもありそうだ。
「フン!」
ガンテツ君は右腕に魔力を込めた。「バン!」と弾けるような音がして、ただでさえ筋肉でミチミチの腕が一回りどころか二回り位程太くなって血管が浮き出た。腕の太さだけでリーシャの胴体くらいありそうだ。
(凄い。世紀末救世主のアニメに出て来た獄長様みたい)
京子は率直な感想を漏らす。あのままショルダータックルした方が効果があるのではなかろうかと、アホなことを考えていた。
「ムフフ、勝った暁には侯爵家全メイドの洗濯前使用済みパンツをいただけるのだ。悪いがこの勝負、手加減はしませんぞ」
「……絶対に負けん。俺だって手に入れたいものがある」
「ほう…。さては貴殿、後ろで応援している女子どもの脱ぎたてホカホカパンツが所望か。中々にマニアック。侮れん漢よ!」
「違うわ!」
「おしゃべりは止めて。準備はいい?」
意外と冷静な審判女子が握り合った2人の拳に手を置いた。
「レディー…、ゴーッ!」
合図と同時にガンテツ君とブルセラマスクは全パワーを右手に込めた。両者の筋肉がミチミチッと音を立てて膨れ上がる。
「ヌォオオオオッ!」
「フンヌゥーーッ!」
両者の拳はピクリとも動かない。ガンテツ君もブルセラマスクも目を血走らせ、歯を食いしばって相手の腕を倒そうと力を込めるが、両者のパワーは拮抗していて、持久力勝負の様相を呈してきた。先に体力が尽きた方が負ける。漢のプライドを賭けた真剣勝負。見た目は変態の2人だが、熱き戦いにギャラリーからこれまた熱い声援が飛ぶ。
「ブルセラ、負けるんじゃありませんわよ!」
「フォオオオオーーッ!」
「ガンテツ君、頑張れぇーッ!」
「ヌゥウウウーーッ!」
徐々にブルセラマスクが押し出し始め、ガンテツ君の腕が倒れて行く。京子を始め、クラスメイトから悲鳴が上がり、声援が送られる。声援を受けて全パワーを振り絞ったガンテツ君が、じわりじわりと押し返し始めてブルセラマスクの腕が反対側に押し戻される。
「ヌウウウ…強い。これほどの強者に出会ったのはいつ以来か…。久方ぶりに血沸き肉踊り骨が笑うわ。だが、汗臭い尿染みパンツを手に入れるためには勝たねばならぬ。なれば、今こそ我が奥義を使うとき!」
「…なにっ!」
「必殺奥義、武留魔絶頂剛力破!」
「ウォオオオッ!?」
闘気包まれたブルセラマスクの右腕のパワーが増大し、一気にガンテツ君の腕を押し倒した。右手の甲がマットに着く手前でガンテツ君も必死に堪える。しかし、もう後がない。審判女子が屈んでマットに目線を合わせ、手の甲がマットに触れた瞬間を見逃すまいと、勝負の行方を見守る。この状況に京子は焦った。
(ヤバい。どうしよう、ガンテツ君負けそうだよ。あいつド変態のくせに強いじゃないの。これは予想外だったわ。どうしよう、何か気が散らせれば力が抜けるかな。でもどうやって…。ハッ、そうだ!)
京子は最前列で並んで応援しているリーシャとアンナの背後に立った。そして…。
「ブルセラー! こっち見ろーっ!」
「なにっ!?」
一瞬、ブルセラマスクの気が京子に向いた。京子はコンデンサーの電力を解放し、フルパワー状態になると目にも止まらぬ速さで屈みながらリーシャのブルマとアンナのスカートをずり下げた。途端に露わになるイチゴ柄のパンツ(リーシャ)と紫の紐パンツ(アンナ)。青い果実2人の瑞々しいエロスを満載した、おこちゃま&ちょっと大人なエロパンツ。
一瞬の出来事でリーシャとアンナは自分が下半身を曝け出していることに気付いていない。しかし、周囲の漢どもは大歓声を上げて2人のパンツを凝視する。
ブルセラマスクはというと、自分好みの美少女のしっとりおパンツに全リビドーが刺激されてしまい、集中力がアームから股間に移ってしまった。これがブルセラマスクの命取りになってしまう。相手の腕の力が抜けたことを感じ取ったガンテツ君は一気に押し戻し始めた。
「ヌォオオーーッ!」
「おひょおおっ!?」
ズダーーーン!
リーシャとアンナのパンツに気を取られてしまったブルセラマスクはマットに右手の甲を叩きつけられ、その勢いで体がぐるっと回転して地面に頭を打ち付けて悲鳴を上げた。
審判女子が高らかにコールする。
「勝者、ガンテツ君!」
「やったやったよ、ガンテツ君! おめでとー!」
「よっしゃ!」
ガンテツの勝利に京子は大喜びし、普段感情を表に出さないガンテツ君もガッツポーズで喜びを露わにする。一方、マリアンナは負けたブルセラマスクの尻を蹴飛ばして悔しがった。
「何やってんじゃ、貴様!」
「ぐぬぬ…。イチゴと紫のパンツに気をとられ…申した。がくッ…」
「よーし、これで1勝1敗ね。次で決めるわ。勝って園芸同好会と花壇を守るんだから」
気合を入れる京子の耳に、自分の姿に気が付いたリーシャとアンナの悲鳴が聞こえて来た。京子は涙目で必死にお股を隠す2人の姿を見つつ、心の中で勝利の感謝をした。そして、自分がやったとは絶対にバレないようにしないとと思った。
(ごめんね、リーシャ。アンナ。勝ったのは2人のお陰だよ。あとアンナ、人は見た目に寄らないって思い知ったよ。パンツお色気勝負ではわたしの圧倒的敗北…悔しい)