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15話 ふりかかる災難!?

「見てください、マリアンナ様。もう花壇を直してますわよ」

「本当に。なんと諦めの悪い輩なんでしょう」


 マリアンナと呼ばれた女子生徒がバサッと豪華な刺繍が施された大きめの扇子を開いて、口元を隠す。マリアンナの背後に5人ほどの女子生徒が並び、同時に同じ所作で同意とばかりに頷いている。


 京子が息を殺して見守っている中、マリアンナと呼ばれた女子生徒がサッと扇を振ると、控えていた女子生徒達が花壇に近づいた。


(もしかして、アイツ等が犯人!?)


「さあ皆様。あの身の程知らずの下賤の者に思い知らせるのです。やっておしまい!」

「アラホラサッサーですわ! マリアンナ様」


 マリアンナの命令で女子生徒が花壇の花々を踏み荒らそうとするのを見て、京子は体をフルパワー状態にして、木の枝を蹴って飛び出した。


「ちょおおっと待ちなさーい!」


 空中でくるっと一回転した京子は、驚く女子生徒達と花壇の間に見事に着地。体操競技のごとくビシッとポーズを決めた。木の枝からジャンプすると同時に離れていたピーピング・トムもパタパタと羽ばたいて京子の頭に乗り「ピピピッ!」と存在を主張する。

 見事な演技にマリアンナ達は「おー!」と歓声を上げて拍手した。思わぬ反応に京子は少し恥ずかしい。


「あなたは? 制服を着て頭に小鳥なんか載せていながら見事な着地。サーカスの団員か、大道芸人か何かですか?」

「違います! わたしはカール君の同級生で1-Eのキョウコ・クリハラと言います」


 京子は喋りながら頭の上を手でシッシッと払うが、トムはパタパタと飛んでは何度も頭に止まる。京子は諦め、後でHALに文句を言おうと思った。だが、今はそれどころではない。


「その襟章、2年生の先輩…ですね。あの、ここの花壇に何か用ですか?」

「大ありです。身の程知らずの下賤の者が造った花壇なぞ目障りなのですわ。ですから皆で踏み踏みしてやろうと来たのです!」


「踏み踏みって…。言い方は可愛くてもやることはえげつないと思います。なんでそんなことをしなくちゃならないんですか? この花壇は園芸同好会の皆が一生懸命植えたものなんです。止めてください」


「カール…でしたっけ?」

「そうです。マリアンナ様」

「………。平民で補欠クラスの最下層の人間の分際で、私達貴族の子女の社交クラブである園芸部に入部したいと、身の程知らずもいい所でしたわね。あんな下賤の者が私達に口を利くのでさえ不敬であるのに、入部させろとしつこく言うものですから、社会のルールというものを言って聞かせたはずですのに。園芸同好会なるものを作るなんて、全くいい迷惑なのですわ」


「気品ある園芸部と下賤な園芸同好会が混同されても困ります。それを分からせるため、カールとかいう平民が作った花壇を踏み潰してやるのですわ!」


 京子はその内容に驚きを覚えていた。


(驚いた。カール君が園芸部って言ってたから、花を植えて育てるのが目的かと思ってたけど、貴族子女の社交クラブだったなんて。でもなんで名称が園芸部? よくわからん)


「ひとつ質問してもよいですか?」

「許可しましょう」

「マリアンナ先輩達は、先程園芸部は貴族の子女の社交クラブとおっしゃいましたが、何故に名称が園芸部なのですか? カール君は園芸が好きだから、園芸部に入るつもりだったと言ってました。初めから社交クラブとしておけば間違われなかったのでは?」


「補欠入学のアホの子のくせに、鋭く痛いところをついてきましたね」

「プーピ、ピププッ!」

「笑うな!」


 アホの子呼ばわりされた京子。トムが頭の上で笑う。頭に来たキョウ子が両手でバサバサと払うが、トムはパタパタと飛び上がって手を避けては頭に止まる。その様子が滑稽で、マリアンナの取巻き女子達にプークスクスと笑われた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 京子やマリアンナ達は気付かなかったが既に4時限目は終わって昼休憩に入っていた。花壇が心配になったカール、フィン、リーシャの3人は様子を見に裏庭に来たところ、花壇の前で京子と上級生女子のグループが対峙しているのに気づいた。


「あ、キョウコだ。今日はお休みのはずじゃあ?」

「あいつら、園芸部員じゃねーか。なんでオレ達の花壇にいるんだ!?」

「何か様子がおかしいね」


 建物の陰からそっと覗いていたフィンが小さく呟いた。よく見ると、花壇に入ろうとしている上級生を京子が制止しているようにも見える。


「もしかして、アイツらが花壇を!? 文句言ってやる!」

「待ってください。カール君」

「なんで止めるんだよ、リーシャ」

「話し声が聞こえます。少し様子を見た方が良いのではないでしょうか」

「チッ…」


 鼻息荒く飛び出そうとしたカールをリーシャが押し止めた。しぶしぶ従ったカールとフィン、リーシャは建物の陰に隠れ、体を重ねるような体勢で身を隠しながらそっと聞き耳を立てることにした。


「うぐ…重い…。ど、どうして私が一番下…?」(リーシャ)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「私達は貴族の子女。あなた方底辺階層で下賤な人々とは明確に区別される上流階級に属する高貴な存在なのです」

「はぁ…。底辺で下賤っすか…(急に殴り倒したくなってきた)」

「私達貴族には貴族の付き合いというものがあります。それで、仲間同士交流するための社交クラブを作ろうと思ったのですが、学校側からそんな排他的な部活動は認められないと拒絶されまして…」

「まあ、誰もが平等という学校の理念とは反しますもんね」

「それで、私達は考えた末、部員がいなくて廃部同然だった園芸部を隠れ蓑に、貴族子女の社交クラブを開いたのです。どや!」

「ドヤ顔で言う事?」


「園芸部と先輩方の関係はわかりましたけど、園芸同好会の活動を邪魔するのは何故ですか?」

「目障りだからですわ」

「は?」

「目障りと言ったのです。耳が遠いんですの? これだから平民は…。あのですね、園芸同好会とやらが本来の園芸活動されると困るんですの」


 マリアンナが話しながら、「理解できないんですの。このド平民は」とばかりにため息をつく。取り巻きの女子生徒が話の続きを引き取った。聞けば子爵家の娘だという。


「同好会が活動をすれば、園芸部も注目を浴びるではありませんか。もし、園芸活動していない事がバレたら問題です!」

「それなら、園芸活動をすればよいのでは? ガーデニングでも、フラワーアレジメントでも何でも出来ると思いますけど」


「ド正論をかましてきやがりましたね。平民は遠慮というものを知りません。あのですね、私達は貴族なんですよ」

「それが何か?」

「この愚か者! 貴族が土いじりとかする訳がないでしょう! そんなものは下賤の者がする仕事なのです。そんな事もわからないのですか。もういいです、そこを退きなさい!」


「全然分からないです! 先輩方が踏み潰した花々はカール君が愛情込めて植えたものだったんですよ。それに、植物だって生きているんです。それを自分勝手な思いで踏み潰しただなんて、余りにも酷いです!」


「それがどうだって言うんですの?」

「えっ!?」

「そんなの知った事ではありませんわ。貴族には貴族の都合ってものがあるのです。そこをお退きなさい。ど平民!」


「退きません! この可憐な花々はカール君だけじゃない、リーシャやアンナ、フィン君にジョン君が花壇を花いっぱいにしようと思いを込めて、新たに植え直したものです。絶対に踏み潰させたりしません!」


「そうだ。よく言ったぞキョウコ!」

「カール君!? リーシャにフィン君まで」


 様子を伺っていたカール達が建物の陰から飛び出し、京子の隣に並んでマリアンナ達に向かって通せんぼする。何となくリーシャの顔色が悪い。


「みんな、どうして…」

「花壇が心配になって様子を見に来たんだよ」

「キョウコが休んだのは、花壇を見張るためだったんですね…」

「先輩方、貴族だからってやっていい事と悪い事があると思いますが」


「…………。ど平民で下賤の者のくせに、私達に意見するとは…。余りにも不敬。むかっ腹が立ちますわ。怒りで尿が漏れそうになります!」

「その若さで頻尿ですか。可哀そうに…」

「お黙りなさい! ……でもそうですね、確かに花壇に植えられている花は綺麗ですし、踏み潰すのは可哀そうですね」


 マリアンナは「う~ん」と唸って考え込み、パッと何か閃いたような顔をした。


「では勝負しましょう!」

「はあ?」


 突拍子もないことを言い出したマリアンナに、京子達は間抜けな声を出した。


「下賤の者が集う園芸同好会とやらの存続をかけて勝負するのです。私達が勝てば同好会は廃部。あなた方が勝てばしぶしぶですが、存続を認めましょう」

「いいぜ。その勝負受けてやる。その代わり、オレ達が勝てば同好会の活動に何も言わねえんだな」

「カール君…(安請け合いして。このバカ!)」(by京子)


「オーホホホッホ! 決まりですわね。勝負は三日後の放課後。丁度先生方の行事で半ドンですから都合が良いですわ。場所は学校の中庭にしましょう」

「勝負の方法は何にするんだ。殴り合いか?」


「下賤の者は野蛮ですわね」

「本当に」

「なんだと!」

「カール君、抑えて。で、勝負の方法は何にするんですか」


 マリアンナが心底イヤそうな顔でカールを見、取り巻き女子も同意するように頷いた。その態度にカールの頭に血が上るが、京子はどうどうと抑え、勝負の方法を聞いた。


「ここは平和的にアームレスリングではどうです?」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「と、いう訳で園芸部の先輩方とアームレスリングの試合をすることになったのだけど、選手を3人出さなければいけないの」

「3対3で2勝した方が勝ちという訳なんだ。オマケに条件があってよぉ、男子と女子が各1名、性別不問が1名という区分けなんだよ。性別不問はキョウコに出てもらう事にしたんだが、男子と女子協力してもらえねえか」


 その日の放課後、カールと京子はクラスメイトに事の次第を話し、協力をお願いしていた。京子以外にあと2人選ばなければならない。ちなみに京子はゴーレムを破壊したパワーが見込まれて皆にお願いされ、嫌だったが仕方なく承知したのだった。


「男子はカールが出ればいいじゃん」


 クラスの男子が言葉を上げた。「そーだそーだ」と皆が同意する。しかし、カールは困ったような顔をして無理だと言ってきた。


「そうしたいのは山々なんだが、実は夕べ風呂でコケて利き腕の手首をねん挫しちまってよう、あまり力が入らねぇんだ(←本当は自家発電のし過ぎで腱鞘炎になったのは秘密だ)」


 誰がいいかと悩んだ京子はクラスメイトを見回してある人物に目を止めた。


「そうだ、ガンテツ君出てくれない? 確かガンテツ君もわたしと同じで身体強化魔法使えるんだったよね。右腕筋力増強という一点もの」


 Eクラスで威力の大小に関わらず外向けに魔法が発現できなかったのは京子とガンテツの2人だった。ゴーレム騒ぎの後、バルス先生が調べたところ、ガンテツは身体強化魔法が使えることが判明したのだ。しかも、利き腕である右腕の筋力を大幅に増強させるというもので、物作りを得意とするドワーフにとって最高の魔法であり、それを知ったガンテツ君は大いに喜んだ。


「……オレがか。嫌だ。面倒臭い」

「そういわないで。お願い♡」

「俺の黄金の右は見せモンじゃねぇ」

「…ん~。出てくれたらコレをあげるんだけどなぁ…」


 京子がバッグの中に手を突っ込み、誰にも見られないように腕輪を操作して、メンテナンスブースから転送してもらったものを取り出した。それは、銀白色に輝く金属のインゴット(約1kg程)だった。見たこともない美しい輝きに目を見張るガンテツの手にインゴット(アルミニウム。この世界では自然界にはあるが、精錬された物は存在しない)を載せる。


「こ、これは銀…か。いや、銀にしては大きさの割に軽すぎる。こんなの見た事ねぇ…」


 京子はガンテツの手からインゴットを取り上げた。


「どお。アームレスリングに出て、勝ってくれたらこれをあげるわよ。ちなみにぃ、この金属はぁ、軽くて丈夫で熱にも強くて加工しやすい金属なの。どお、欲しい?」

「……仕方ない。出てやる。その代わり、勝ったらそれを寄こせ」

「毎度ありぃ~」


「……キョウコ…侮れない女…。物で男を手玉に取る…クククッ。悪女発見…」

「アンナ。キョウコはそんな子じゃないよ」

「あう…。フィン様がキョウコの味方を…。悔しい。草木も眠る午前2時、町外れの神殿でフィン様人形に釘を打ち付けちゃおうかな…」

「止めてよ。怖いよ」

「怖くない…。恋愛成就の呪い…」

「絶対にウソだ!」


 これで出場者2人は決まったが、残る1名の女子が決まってない。話し合いの結果、ここは公平に「くじ」を引こうという事になり、既に出場が決まっている京子が代表して「あみだくじ」を作った。その結果、当確したのは…。


「わ、私ですか!?」


 リーシャだった。非力女子の代表格であるリーシャに決定したことで、勝負の行方は京子とガンテツの頑張り次第ということが確定した。

 なお、くじが外れた女子達は一様に安堵の息を吐き、リーシャは自分の不幸を神に呪ったのだった。


「クッ…ククッ。いつもフィン様と一緒のリーシャに不幸の呪いを…かけた。アイギス様、アリが十匹…」


 教室の隅で、自作のアイギス人形を撫でながら、オヤジギャグを飛ばして満足げに笑うアンナだった。

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