第10話 魔法実演演習!
運動服に着替えたEクラスの生徒全員グラウンドに整列していた。Eクラスは生徒数が少ないので、他クラスでは男女別に行う運動の授業も合同で行う。運動服に着替えたラエルザ先生が号令をかけた。
「みんな揃ったねー。じゃあ、準備体操始めるよー」
(いつも思うけど、これ日本のラジオ体操第2に似てるんだよね。こういうのってどこも似るのかな。不思議だな)
京子達は黙々と準備体操を行うと、第1の種目である50m走を行うことになった。
「はーい、最初は50m走からねー。魔道ストップウォッチでコンマ1秒まで計っちゃうからねー。男子から始めるよっ」
出席番号1番のカールから走り始める。ラエルザ先生は計測した結果をバインダーに挟んだ記録紙に記入していく。男子が終わって女子の番になった。京子はじいっとクラスメイトの走りっぷりを観察する。
(アンナちゃんは8秒8、エレンさんは11秒2。胸が重いせいだね、妬ましい。ミントさんは7秒5、キツネ目は9秒台。平均7~9秒ってとこか…。よし、目標は8秒前後にしよう。間違っても全速を出さないようにしないと。50mを1.5秒で駆け抜けたらシャレにならん…)
「つぎー、キョウコ」
「は、はい!」
リーシャやアンナの声援が飛ぶ中、京子は50mを駆け抜けた。時間は8.8秒。平均よりやや遅いペースの結果で京子は満足する。ちなみにリーシャは10.5秒だった。
「うう…、もっと足が速かったらな…」
「ちょこちょこと一生懸命走るリーシャ、とっても可愛いかったよ」
「嬉しくないです…」
「はいはい、次は跳躍力だよ。この板の前に手を伸ばして立ってねー。手の先と思いっきりジャンプして届いた先との差が跳躍力だよー。じゃあカール君からねー」
京子は再びじっくりとクラスメイトがジャンプするのを観察する。
(ふむ…、女子のジャンプ力は平均40~50cmってとこね。よし、目標は45cmだわね。絶対に目立たないようにしなきゃ。確か全力出したら15m以上だったよね、わたしのジャンプ力。クラスメイトの375倍ってどんだけなのよ)
「つぎ、キョウコだよー」
「はいっ。えいっ!」
「おおー、55cm。結構イケたねー」
「さっすが京子!」
ラエルザ先生が褒め、リーシャとアンナ、エレンがパチパチと拍手してくれた。しかし、プリムヴェールやミント等、他の女子はこそこそと京子を見て何か話している。
(きっと、体重のことだよね。あんな重いのに何で飛べるの…なんて言ってるんだろうな。でも、わたしはこの体大好きだから、気にしないようにしよう)
その後も反復横跳びや腕立て伏せが行われたが、京子は周囲に合わせて無難にこなし、いよいよ最後の種目「持久走」となった。生徒たちから悲鳴とブーイングが上がる。
「はい、騒いでも無駄でーす。みんな並んでー。グラウンド(1週400m)を5周だよ。一応タイムも図るからねー。これが最後だから頑張ってねー。ほい、スタートッ!」
「キョウコ、一緒に走りましょう」
「うん!」
グラウンドを走り出す生徒たち。早い子もいれば遅い子もいる。あっという間に縦長になった。京子はリーシャに合わせて後方待機。天気は晴れで気温も高め。あっという間に生徒達は汗だくになる。見ればリーシャの顔は真っ赤になり額だけでなく、半袖からのぞく腕も、カワイイヒップを包むブルマから伸びる足も汗だらけ。運動着も汗でしっとりしている。近くを走るエレンも汗だく。それ以上に腕を振る度に左右に躍動する巨乳がエロく、カールやブルース達健全な男子は目を奪われる。ただ、貧乳フェチのナルシスだけはリーシャの背後にピッタリ張り付き、しっとりと起伏の無い胸に張り付く体操着から立ち上る汗の匂いを満喫して、恍惚の表情で走り続ける。
皆が汗をかく中、京子は汗をかかないでいる。人工皮膚には汗をかく汗腺というものは無い。しかし、持久走のように長時間体を動かす場合、どうしても駆動機器から熱が発生する。このため、血液循環システムが心臓の鼓動を早くし、コンデンサーの電力を使って熱交換システムが作動して冷却した人工血液を循環させて体温をコントロールしているのだ。
(汗かいた振りしよう。ってか、フルパワー以外でもコンデンサーの電力は使うんだね。容量には気を付けないと…)
走り終えた生徒達はスタート地点に戻ってきた。京子とリーシャも最後尾グループになりながら無事完走したが、運動音痴のリーシャは完全にグロッキー。全身を汗だくにしてハアハア荒い息を吐き、今にも死にそうな顔をしている。
「大丈夫? リーシャ」
「死にそう…。体操着もべちゃべちゃで気持ち悪いです」
「ははは。美しきマイ・スモールバスト・エンジェル。その汗で濡れた体操着が気持ち悪いのかい。なら、ボ~クが脱がせてあげよう♡ グッ…!?」
どこからともなく現れたナルシスが、リーシャの服を脱がせにかかったが、汚物を見るような目をした京子のボディを鳩尾に受けて泡を吹きながら沈んだ。カールが「バカかお前は」とか言って足で小突いている。
「はいはい、体力測定は終わったよー。教室に戻った、戻った」
ラエルザ先生がパンパンと手を叩きながら声を掛けると、男子も女子も疲労困憊ながらもよろよろと立ち上がった。京子は水道で濡らしたタオルで顔を拭きながら、クラスメイトに体の秘密を気取られなくて良かったと、一息ついたのだった(体重はアレだったが…)。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
身体測定の数日後、午前中フルに使って魔法基礎の授業が行われた。内容は生き物固有の魔力と強弱、自然魔法の概念と種類、魔法の発動に必要な知識、魔法の有益性等々。
(この世界の魔法は火、風、水、土にその派生である光と闇に属する6種の系統に分類されるか…。ほとんどは火を起こしたり、水を出したりみたいな生活に役立つもののようだけど、戦いに使う攻撃魔法やちょっとした怪我を直す回復魔法もあるみたい。ただ、異世界系マンガの「ボク、なんかやっちゃいました?」のようなド派手でチートな技は無いみたいね。どっちにしろ、わたしには使えませんがね)
(この世界からすれば、わたしの存在そのものが魔法みたいなものだってHALが言ってたなぁ。確かに精密なハイテクマシンのようなもの、この世界にはないもんね。地球のような化石燃料や電力で動かす機械は無くて、魔力を保持する魔鉱石を色々な道具に加工・応用して利用している。技術発展の方向性が地球とは全く異なる世界なんだな…)
教壇の前では、いかにも魔法使いといった風のローブを身に着けた、バルスという危険な名前の初老の先生が一生懸命黒板に何かを書き込んでいて、クラスメイトはせっせとノートに写している。京子は書き写したノートの中身を見た。そこには、体内の魔力を高めるための呼吸法と魔法を発動させるための言霊のイメージ方法が記されていた。
(どっちにしろ、わたしには関係ないや)
京子は片肘をついて、ペンをノートの上に転がして窓の外を見た。校庭周囲に植えられた木々が風にそよぎ、花壇では様々な色の花々が咲いている。その美しい景色に思わず見とれていると、隣の席のリーシャが小声で自分の名を呼んでいるのに気づいた。
「キョウコ、キョウコ」
「…ん? なに、リーシャ」
「なにじゃないです。先生がこっち見てますよ」
リーシャに言われて京子が教壇を見ると、先生が少々呆れた感じでこちらを見ていた。慌てて教科書を机に立てて、その陰に隠れる京子であった。
昼食時間を挟んで午後の授業は、午前中に行った魔法基礎の実技演習だった。実技という事で、魔法科のバルス先生とラエルザ先生の2人で指導するとの事。以外にもラエルザ先生は一般教科だけでなく、魔法にも長けているらしい。でも、彼氏はいない。
Eクラス全員は魔法の実技を行うため、中庭に移動した。何でも中庭には周囲に魔法の影響が及ばないように魔導障壁が施されているとの事で、安全に魔法の実技が行えるとの事だった。
「では、皆に魔法を行使するために必要な杖「マジック・ワンド」を配布するぞ。このワンドは卒業まで使うからの。大切にするんじゃぞ」
そう言って、バルス先生は全員にワンドを手渡した。京子は手渡されたワンドをまじまじと見る。金属質で長さは約50cm位。手元の太さは2cm程あり、握りやすいようにフェルト製のグリップが巻き付けられている。また、先端に向かうに従い先細りとなる形状をしており、京子は大きな菜箸みたいだなと思った。ちなみに、手元の太い部分は中空で、中に魔力を高める効果のある魔鉱石が仕込んであるとの事だった。
「ワンドは皆に渡ったようじゃな。では、早速実習に移ろうかの。今までに魔法を扱った者もいるかも知れんが、魔法というものは便利である反面、使い方を間違えると大変危険なものにもなる。それこそ、生き物を殺しかねないのじゃ」
「じゃから、自分の魔力の限界を知り、その中でコントロールしていくのが大切じゃ。高等学校で行う魔法の授業は、適正に魔法を扱うようになるための訓練が中心じゃ。よく覚えておくようにな。じゃあ、始めるか」
「最初は火魔法からだよー。炎の揺らめきをイメージして、先端で「火」という文字を描くようにワンドを振ってみて。こんな感じに」
ラエルザ先生はくるっとワンドを回すように振ると、先端に大人の拳ほどの炎が現れた。生徒たちが「おおー」と感嘆の声を上げる。生れて初めて魔法というものを目の当たりにした京子も驚きと感動でラエルザ先生の作り出した炎を見つめていた。
(おお…。マンガやアニメの世界が現実に…。何もない所から火が出るなんて、目の当たりにしても信じられない。凄い、凄いよ。魔法だよ魔法。ほぇ~驚きだなぁ~。HALが見たら喜ぶだろうな~。京子感激ィ~)
魔法を見た感動で京子がボケっとしている間に、クラスメイト達はめいめいにワンドを振り始めた。カールとブルースとナルシスは親指程度の大きさの炎を見せ合って、どちらが大きいか顔を突き合わせて比べており、エレンは胸の大きさに反比例した小さくカワイイ火を出して喜んでいる。エレンの笑顔に京子がほっこりしていると、おおっというどよめきが起こったので、そちらの方を見ると、プリムヴェールが人の頭位の大きさの炎を出していた。得意満面の顔が非常に憎たらしい。
「アーッハハハハハ! どう、私の魔力は。あなた方には到底真似できないわね。プークスクス!」
「…………。そうでも…ないよ」
「何ですって!?」
偉そうに自慢するプリムヴェールの隣で、アンナがサッとワンドで空中に文字を描き、ピッと鋭く振った。瞬時に先端から炎が噴き出し、高さ1m程の火柱となって立ち上った。
「どう…? あたしの黒龍炎牙は…」
「く…悔しい…。私の魔法がこんな頭おかしい平民に負けるなんて…」
「ふむ。ネーミングはともかく、アンナ君は中々の魔法力じゃな」
「…先生に褒められた…。嬉しい…。歓喜の呪いをプリムヴェール。あなたに…」
「いらんわ!」
クラスメイトが次々に魔法を行使しているのを見ていたフィンとリーシャの兄妹は自分達もやってみようとワンドを振ってみた。2人のワンドの先に500ルビス硬貨(500円玉とほぼ同じ大きさ)ほどの光が現れた。光は球状で白く明るく輝いている。フィンとリーシャは炎とは別のものが出たので困惑して顔を見合わせた。
「兄さん。これは…」
「さあ? 炎をイメージしたはずなのに」
「プークスクス。やっぱり亜人は何をやってもダメですわね。オーホホホのホ!」
「うう…そんなことないモン」
炎じゃない事にプリムヴェールがバカにしたように笑ってきたが、バルス先生は驚いた表情で光の球を見て言った。
「これは…何とも凄まじいのじゃ。これほど魔力が集約された光球は、儂も滅多に見ることが無い。この光球は炎のエネルギーが極限まで凝縮されて超高温の球になったものじゃ。炎は高温になればなるほど白く光輝く。この球を見るだけで2人の魔力の大きさが途轍もないという事が分かるというものじゃ」
バルス先生が感心したように解説すると、フィンとリーシャは顔を見合わせてえへへと笑顔を浮かべた。カールやアッシュビーといった男子達も口々に凄いと褒める。そこにぐいと人垣を割って入ってきたのは貧乳大好きナルシス君。スッと炎で造った花を差し出し、
「さすがだよ、マイ・スモールバスト・エンジェル。でも君には白い球より金の玉の方が良く似合う。どうだい、今からお互い生まれたままの姿になって、君のスモールバストとボクの金の玉を見せ合わな…。ひでぶっ!?」
「やめろ、変態クズ野郎!」
「お前を叩きのめした人物はブルース・アッシュビーだ。次も叩きのめす人物はブルース・アッシュビーだ。忘れずにいてもらおう。このエロカスナルシス!」
カールとアッシュビーに叩きのめされるナルシスに恐怖を感じるリーシャであった。
クラスメイト達が魔法を発動させ、お互いの出来を批評し合っている中、少し離れた場所では京子が無心にワンドを振っていた。しかし、ワンドの先でどの世界の文字を描いても火が出る気配は無い。そもそも、魔法を行使するときは体の奥底に魔力のうねりが感じられるとの説明があったが、サイボーグ体の京子に感じられるはずが無い。
「は~あ、もうヤメヤメ。出来ないものは出来ないモン」
「なんだ。お前も魔法が出せんのか」
声を掛けて来たのはクラスメイトでドワーフのガンテツだった。彼は魔法で盛り上がるクラスメイトの方をちらっと見てワンドをぽいと投げ捨てた。
「ガ、カンテツ君…。初めてだね、お話ししてくれたの。お前も…ってことは、ガンテツ君も魔法が使えないの?」
「ふん。あんなもの使えなくてもどうってことは無い。ドワーフには優れた物作りの技能があるからな。必要なら作るだけだ」
「おお…。なんか、カッコいい…。そうだ! ねえ、良かったら魔法が使えない者同士、友達になってくれる?」
「ふん。オレは徒党を組むのは好まん」
「そういわないで。入学式後の自己紹介でも言ったけど、わたし、たくさん友達を作るのが目標なの。友達と一緒に楽しい学校生活を送りたい。それがどうしても叶えたい夢なんだ。お願い!」
「…………。気が向いたらな」
「ありがとう。わーい、うれしいッ!」
京子はガンテツの手を取ってぶんぶん振り回した。同じ年頃の女の子に手を握られるという経験の無いガンテツは戸惑ってしまったが、京子の満面の笑みに悪くはないかもと思うのだった。
「私も仲間に入れて下さ~い」
「エレンさん!?」
京子とガンテツの側に巨乳美少女のエレンがやってきた。
「実は私の魔力って、かなり低くて、どんなに頑張ってもろうそく程度の火しか出せないんですよぉ。皆さんのような魔法技能が全く無いんですぅ。だから、どうにも皆さんの所にいるのが辛くて、離れていたらおふたりのお話が聞こえてきまして…。仲間に入れてもらえないかなと思いましてぇ」
「勿論、いいよ!」
「……好きにしろ」
「ああ、よかった。嬉しいです。入学して初めて友達が出来ました!」
「うふふ、よろしくね。エレンさん」
「エレンでいいです」
エレンは嬉しそうに笑うとじっと京子とガンテツを見つめて来た。その熱い視線が気になった京子は何事かと聞いてみた。
「いや…うふふっ。キョウコさんが男の子だったら、ガンテツさんとお互いの共通点を意識し合った熱い純愛BLストーリーが展開されるかなって思って。美少年のキョウコさんが、ガンテツさんに愛を告白し、淫靡な肉欲の宴に耽る…。ああっ、想像するだけで下半身が熱くなります。意欲が…執筆意欲がわいてきますぅ~!!」
「こいつは何を言っているんだ?」
ガンテツ君が何か得体の知れないモノを見るような目でエレンを見る。しかし、エレンは身をくねらせながら、妄想の世界にどっぷりとはまり込んでしまった。
「ああ~ん! 男キョウコさんの強直した陰茎が、ガンテツさんに荒々しく貪り尽くされるのぉ~。激しい刺激を受け、甘美な喜びに打ち震えるキョウコさん…ス・テ・キ…♡」
「だめだ。この子、頭の中が超絶に腐ってる。腐女子極まれりだよ。美人で頭がいいのに補欠クラスな理由が分かったわ。性癖が残念過ぎるって」