#3.マナ酔いとのことで。
「『コマンド』!」
日野、カラスと合流した俺達は、近くの集落の安全のために、遠征任務の続行を余儀なくされた。
『カラス>スキル>ヒメジャノメ』
「任せて……!ヒメジャノメさん、お願い!」
カラスのスキルは様々な蝶々を操ることで多種多様な効果を発揮する。今発動したのは敵の弱点を見破るスキル。このスキルを使ったあと、対象のモンスターには会心の一撃が入る。そういったスキルだ。
「……船長さん、ヒメジャノメは敵が居ないと効果はないと思うんだけど……。」
カラスが少々不安げに、且つ申し訳なさそうにそう述べる。
「……いや、これでいい。ゲームシステムが反映されているこの世界なら、カラス、お前のそのスキルは……、」
「なるほど、居ましたね。」
弱点を晒されたモンスターは壁越しにでも輪郭が表示される。そのシステムを逆手にとったわけだ。
「日野じぃ一人で行ける?」
「場所さえ分かれば、簡単な仕事です。」
「頼もしいね。んじゃちょっとウルトラスキルでも使ってみるか。」
「おいおい船長、いくらボス個体とは言え雑魚だぞ。」
「オーバーキル甚だしいな。」
「だってお前らのウルトラスキル地味だし!日野じぃのウルトラスキル生身で見たいじゃん!」
「こいつ船から降ろそう。」
「地味なのは否定できん。あと船長だ。いなくなると困る。」
双子が、というより兄の陽が文句をたれるが仕方ない、事実なのだ。
「行くよー日野じぃ、『コマンド』」
『日野 煌太>ウルトラスキル>天滅之終炎』
「スーーー……、」
日野じぃが深く深呼吸をする。両手に宿った蒼炎は、蒼から黒へと色を変える。
拳を大きく背後に引き、勢いよく前に突き出す。
途端、蒼炎改め終炎は、日野の目に映る気の陰に隠れたボス個体の輪郭に向け、放たれる。
風が吹き荒れ、一気に周囲が熱気に包まれる。
「どわっひゃー!!!いいねぇー!!!」
ついはしゃいでしまう。こんなバカげた高火力の技、どのボス個体でも大打撃だ。むしろ、こんな森の中に居るだけのただのオオカミ型モンスターなんて、触れた瞬間塵芥と化すだろう。
なんて思いながら、終炎が放たれたその先を見る。
「……おぉ……。」
少々はしゃぎすぎた。ゲームだといくら壁に向かって攻撃を放ってもその壁が壊れることは無い。だが、ここは現実だ。平行世界にあるアストラ。物理の法則がある世界。
大地を踏めば足跡が残るように、終炎が放たれたその先には、ただ静寂だけが残った。
生い茂る大樹は根元から抉れ、幹は炭と化し、焼け爛れた空間がぽっかりと口を開けている。
まるで森そのものが、そこだけ刈り取られたようだった。
「……エグイな。」
「ふぅ、久しぶりに使いましたよ、ウルトラスキルなんて。」
「お疲れじぃちゃん。これでボスは討伐完了かな。」
「……だと思うよ?」
カラスがウルトラスキルの威力にドン引きしているようにも見えるがまぁ仕方がない。
……。
そんなことより、
「……ねえ、まって。……また、俺、……、死ぬ……」
「!?、船長さん!?」
「まーたか。」
「ふむ、そういえば原因を聞いてなかったな、安心しろ船長、死にはしない。ただ────」
聞こえん。耳鳴りがすごい。キーーーンとなる耳鳴りが、肝心な原因とやらを遮って意識を遠ざからせた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……、この感触……、」
「ふふふふ、2度目ね〜♡」
「このまま埋まりたい……。」
「寝ぼけたこと言ってんじゃないよ。」
「目が覚めたか。」
「……お前らどっちがどっち。」
「右が俺で左が弟者だ。」
「俺が弟者だ」
……、どっち視点でのそれだよ……、わかんねえよ……。
ひとまずこの世界に来て二度目の気絶。原因を聞こう。
「原因聞く前に行っちゃうから〜、まぁ、簡単よ?ただのマナ酔い。」
「よいしょっと……、マナ酔い……?」
惜しみながらも心結の膝の上から起き上がり、マナ酔い、なんて単語を聞く。一瞬思考が止まったが、何となく理解した。
「あー、あれか。いや、わかるよ。マナ酔い、わかるわかる。……なんで?」
「多分想像している通りだぞ。俺たちはピンピンしてる。」
「船長ごここにきて最初の戦闘を行った時もな。」
「……、コマンド、か。」
「賢いわ〜♡、その通り、船長がコマンドを使えば、みんなの代わりに船長がマナを消費するのよ〜♡」
「のよ〜じゃなくて。なんで俺なの。お前らのマナはどうなってんの。」
双子に問いかける。
「言っただろう。船長を呼んだ今、俺達は船長のコマンドがなければ、スキルを使う為のマナも無い。通常攻撃しか出来ないんだ。」
「つまるところ、全てのマナが船長に集約されてるって事だな。分かるか?」
「それで?」
「ふふふふ、船長は本来アストラの人間じゃない、マナのない世界、ちきゅう……?だったかしら、そこから召喚されたから、マナを使うのに慣れていないの、だからまぁ、必然的にコマンドによるマナ消費でマナ酔いを起こしているだけね〜♡」
「……ほーん……。慣れなきゃやばいな。」
「……船長、おはようございます。船長はミルクコーヒーがお好みでしたよね、持って参りましたよ。」
「日野じぃ!……あ、カラスは?」
「じぃ……。……。……カラスさんなら、今は眠っています。雑魚とはいえ、私の力不足で防戦一方の戦いの前に居ましたから。」
「あー、そっか。あ、コーヒーありがと。なんで俺の好み知ってんの?」
「しがない元カフェ店長の勘ですよ。」
「はえー、そういえばそんな設定だったな。」
日野 煌太。彼は今述べた通り、元はしがない小さな喫茶店の店長だった。それがひょんなことから魔物に店を潰され、クオリア・ナイツに召喚された。そんな設定だ。そのくせ戦闘能力がアホほど高いことに俺は納得がいかないが、強いに超したことは無いので何も言わないでおく。
ちなみに、俺が日野じぃ、と呼ぶ度に、じぃ……、としょぼくれるのは、彼なりに年齢を気にしているという裏設定のせいだ。分かっていながらもこの中年紳士を呼ぶのには日野じぃ、というのがが一番しっくりくる。
日野じぃは小さく
「まだおじぃさんじゃないです……」
なんて呟いているが。まぁなんとも可愛らしいじぃさんだ。
「……さて、となると、今後の課題はマナ酔い対策だな。どうしたものか。……ていうか、俺がマナ持ってるなら俺が何かしらのスキルつかえてもいいんじゃないの。」
「それがコマンドだろ。ばーか。」
「兄者……。」
「……。『コマンド』」
『陰>攻撃』
「あっ」
「っだァ!!」
「いやスマン兄者、どうやらこのコマンド、指示した瞬間に船長の意志通りの行動を取っているようだ。」
唐突にコマンドを発動してみれば、予想通り陰の肘鉄が陽の額にクリーンヒットした。
「そうみたいだね。まぁそれは最初の戦闘で気付いてたけど、今確信が持てた。」
「タチが悪すぎる。」
「いや、今のは兄者が悪い。」
「……ん?あ、そうか、なるほど!」
「?、どうしました?」
「ふっふっふっ、マナ酔いに耐性付けるなら、マナ使いまくるしかねえよなぁ。」
「……、あー、数秒前の俺を殴りたい。殴られたけども。」
「うん?どういうことだ。」
「お前ら戦わせて、そこに俺がコマンド発動するんだよ。そうすればお前らのスキルの見直しもできるし、マナ酔いも克服できるやもしれん。」
「鬼畜ね〜♡でもお姉さんそういうの好きよ〜♡」
「んー、カードはどうするかな。日野じぃ対双子でいいか。」
「おで、ただの整備士。」
「……。」
「……、私はただのカフェの店長です。」
「バランス取れてんじゃん。そうだな、カラスが目覚めたら開始としよう。他の遠征に向かっているヤツらの心配もあるけど、俺がこのままじゃダメだからな。」
というわけで、日野じぃVS双子のカードが見事成立。俺はあくまでもフェアに3人それぞれのサポートをする。心結もいるから、怪我しても何とかなるだろう。
さて、マナ酔い克服、出来るといいな。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
────とある上空、クオリア・ナイツに向かって飛んでくる小型の飛行船があった。
「おい、もっとスピードは出らんのかね。」
「堪忍したってやシュルちゃん!これでもトップスピードなんやで〜、黒虎ちゃんこれ以上速度上げたらGで頭おかしなるわ〜」
「テメェのおつむはとっくにパァだろうがよ。遠征先でスキルが使えない上に連絡用水晶も機能しなくなった。シュルのお米が食べれなくなるかもしれないんだぞ。」
「たっはー!頭がパァて!言うてくれるわー!けど、確かに不穏な感じやんなぁ、ちーと急がんとあかんのは間違いないわ。燃料足りるか不安やけど、飛ばしてみよかー!」
────小型飛行船を操縦する金髪の男。
その後ろで、急かしていた割には呑気におにぎりを食べるヘソ出しルックのロングヘア少女。
この2人が、後の日野じぃVS双子の模擬戦等に巻き込まれるのは、次回のお話だ。