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#2.この世界に対する順応が。

「……ん……、」


 ここはどこだ。俺は何をしていた?あの馬鹿双子にゲーム……いや、平行世界アストラに召喚されて、敵が来て、コマンド使って……、倒れた……?


 にしてもなんだ、柔らかい……。頭の下に水袋でも敷かれてるのか。


「ふふふふ、お目覚めかしら、せ・ん・ちょ♡」


「……。……ドワッフ!!」


視線を上にあげると、双子とそっくりな糸目の美人が顔をのぞかせていた。白い肌に白い髪の毛、この人は……


「……心結(しんゆん)……?」


「あら〜、私の事、覚えててくれていたのね〜♡嬉しいわ船長さん♡」


あぁ、このゲーム……、いや、今じゃこの世界と言うべきか。お色気担当の心結。やたらと色っぽい声色で挑発的なナース服を着ているこのキャラは、あの馬鹿双子、陽と陰の姉に当たる、心結だ。


「目覚めたかー船長。」

「姉者、あまり船長を揶揄うなよ。」


「あ、馬鹿二匹。」


「よーし喧嘩だ。」

「時に落ち着け兄者。」


「あー……、夢じゃなかった……。そりゃあんだけ鮮明に思い出せたら夢じゃないよなぁ……。」


「あら、私のお膝の上で寝るのが夢でもよかったのかしら、寂しいわ〜……」


「ぇあ、あぁ、いや、違くて。心結、お前は船に残ってたんだな。」


「ふふふふ、残るも何も、船長は私を船から出さないじゃない。何が理由かは知らないけど♡」


「あー。」


心結、双子の姉である彼女をなぜ戦闘に出さないか。理由は単純。……強すぎるのだ。


ここで1つ、おさらいをしておこう。

陽と陰の双子、そして姉の心結。彼女たちはテイカー族というかつては鬼神の一族だった、その末裔、子孫である。


テイカー族とはなにやら力に対し使命が与えられているとのことで、彼らは何かしらの使命を背負いながらスキルを使う訳だが。これはあくまでゲームの設定。実際にその使命とやらがなにかはハッキリしていない。


さて、そんなテイカー族兄弟達の長女、心結だが。


「……、お前出すとヌルゲーになるんだよね……。」


「いやらしいな。」

「馬鹿だった。」


「なんだとう。」

「馬鹿め。」


双子がすぐそばで取っ組み合いの喧嘩を始める。あぁ、もうひとつ補足だ。設定上の話だが、この双子、取っ組み合いの喧嘩になると必ず……。


「……。」

「……数秒早く産まれただけで俺に勝てると思うなよ。」


ふむ、設定通りだ。この双子の七不思議、喧嘩になると何故か必ず弟の陰が勝つ。そんな裏設定があったのだ。


「いや、そんなことはどうでもいいんだよ。心結、アンタ表に出すと敵全員、秒でやられるじゃん。」


「あら〜、こんなお姉さんがそんなそんな、危険人物みたいに言われるのは、なんだか悲しいわ〜。」


「……。うす。ごめんちゃい。」


どこか殺気を感じた気がした。コマンドを出さない以上スキルは使ってこないだろうが、もしもがある。彼女のスキルに充てられたなら、発狂モノだ。文字通り。


「……ん?……コマンドを使わない限り……?」


「……いてて……、どうした、船長。」

「まだ起き上がるか。」


「馬鹿双子、ちょっと待て。……、お前達、俺がスキルを使わなかったらどうやって敵と戦うつもりだ?」


「……、そりゃ通常攻撃しかないでしょ。」

「俺たちの場合武器での攻撃だな。」


「私もちょっとしたデバフしか掛けられないわね〜」


陽、陰、心結が答える。

冷や汗、それはつまり……


「てことは、今遠征先でモンスターがいる場所に送られてるヤツらは通常攻撃だけで戦ってんのか!?」


「あっ、あー、そうなるな。」

「……ふむ。まずいな。」


「一番近くで戦闘有りの遠征に行ったのは誰だ!?」


やばい、やばい。いくら全員レベルMAXと言えど、通常攻撃だけでボス級の敵は倒せない!ついさっきの飛行モンスターだって、俺がコマンドを出してようやく倒せたんだぞ!?


「それならカゴメに聞くしかないね」

「あぁ、遠征任務の統括をしているのはカゴメ殿だからな。」


「……っ、カゴメがいるのか!いいな!会議室にいくぞ!……あ、あと心結!なんで俺が倒れたのか後で教えてくれ!」


「あら、後ででいいの?分かったわ〜♡」


そうして部屋を飛び出す。どうやらここは医務室だったようだ。それから船内を駆け回り、双子の案内で会議室に着いた。


「カゴメ!いるか!?」


「うわビックリした。船長じゃん。やっほー。どうしたん。まぁ状況は大体お察しだけど。」


「かくかくしかじかでヨーソロー!」


「はいはい、1番近い戦闘ありの遠征先ね。……えーと、ワルダーク民族の討伐に向かった奴らかな。」


「……誰向かわせたっけ。」


「翡翠の姉御とビートの兄貴だね。」


「2人ともSSRか……、通常攻撃も強力な奴らだ、まだ間に合うな……。」


「何を急いでんの?」


カゴメが問う。黒髪に和服、刀を携えた和一色のキャラが。


「連絡が途絶えてんだろ!?知らんのかぁ!?」


「あぁ、……、えぇ……?ごめん、知らなかった。」


「ボケがよォ!そんで俺がここに召喚されたから、俺のコマンドがないとアイツら通常攻撃しか使えないんだよ!翡翠さんとビートならまだ希望は見えるけど……。」


「うーん、あの二人なら全然余裕だと思うけどな。ワルダーク民族も別にそこまで強いわけじゃないし。ボスは倒して残党狩りの為の遠征だろ。」

「それもそうだな兄者。船長よ、兄者の言う通り、あの二人は強い。今は他を当った方が良いのではなかろうか。」


「……ふむ……。」


ここで判断をミスるのはかなり痛い。ここがゲームの世界ならまだ余裕はもてたが、ここは平行世界アストラ。地球と違うところもあるが、変わらないものもある。


「……下手したら……、死ぬんだぞ……!」


「……。」


「……。」

「……。」


沈黙が場を制する。

だが、本当にどうしたものか翡翠とビートは確かに強いし、ワルダーク民族の残党狩り遠征なら確かに、通常攻撃だけでも圧倒できるだろう。


「船長よ、あんた、昨日俺達をコマンドで動かした時、何を思ったよ。」

「船長。」


「……?なにを……、……。……!」


「お前たちの強さは、この俺がいちばんよく知っている……、か。」


「いいね、だったら、優先順位が変わってもいいんじゃないか?」

「カゴメ殿、他に戦闘の可能性がある遠征先は?」


「はいはい。……んーと。カラスくんとひのじぃだね。」


「そこだ!そこに行くぞ!」


カラス、SR。ひのじぃこと日野 煌太(ひの こうた)、SSR。

ひのじぃは近接戦闘型だからまだいい。通常攻撃に蒼炎の属性が付与されている。だがカラスはまずい。あの子はバフとデバフ付与に長けたサポートキャラだ。おそらくひのじぃがかばいながら戦うことになっているはず。


「双子!舵を切れ!俺は船の動かし方なんぞ知らん!急げ!」


「ヨーソロー。」

「急ごう。」


双子が急ぎ足で操舵室へと向かう。船が大きく傾き、方向が変わるのを体幹で感じ取る。

急げ……、間に合え……!



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「っはァ!」


一方その頃、大樹が生い茂る巨大な森、セイレーンの森。

そこには、ただ二人、目尻に笑いじわを蓄えた中年の男と、小学6年生程度の少年がいた。


少年を背に、敵対するオオカミ型のモンスターに蒼炎をまとった拳を振りかざす中年男が日野 煌太。

野生のモンスター相手に、日野が一人、拳と脚に蒼炎を纏わせながら、対峙していた。


「日野さん……!ご、ごめんなさい。……急にスキルが使えなくなって……!」


その背後で日野に守られるように、しかし敵の配置を満遍なく見通す少年、観察眼に優れたカラス。


「安心してください、カラスさん。この程度、朝起きて皆様の好みに合わせたコーヒーを一度に作ることより簡単な作業です。」


振り返ることなく、優しい声色で日野が返事をする。


「……っ、左右から来る!」


「っ!はァァ!」


両の手のひらに蒼炎をまとい、左右に向けて大きく展開。両サイドに発勁を放ち、敵を退ける。


(……カラスさんの観察眼には助けられますね……、とは言え、カラスさんを守りながらこの群れとの戦い……、防戦一方、ですね……。)


口には出さなかったが、通常攻撃の威力が全キャラ中最下位の代わりに強力なバフスキルを持つカラス、が、そのスキルを使えない今のカラスはかなり無防備になってしまう。通常攻撃の威力が上位に入る日野と共に来ていたのが幸いか。


しかし、敵が減らない。おそらくどこかにボス個体が隠れているのだろうが、群れで襲ってくる狼のようなモンスターは、ボス個体を倒さないと次々に湧いてくる。せめて、カラスの索敵スキルだけでも使えれば、そう願っていた時だった。


無い物ねだりばかりしていたせいか、ほんの一瞬隙が出来、そこに食らいつこうとしてくるモンスター。


「日野さん!!」


カラスの叫び声が響き渡る。その時だった。




────「『コマンド』!!!」


「!?」

「コマンド……!?」


カラス>スキル>モンシロチョウ

日野>スキル>蒼炎爆壁(そうえんばくへき)


カラスのスキルの1つ、モンシロチョウは、一時的に触れた対象に対する攻撃をどんなものでも無効化するというもの。カラスの掌から淡い光と共に現れたモンシロチョウが、日野に触れる。

その直後、隙をついて日野の右足に噛み付いてきたモンスターの攻撃は、このモンシロチョウによって無効化される。まるで岩に噛み付くような感触に、モンスターは動揺した様子を見せた。


そして日野のスキル。蒼炎爆壁。自信を中心に前方扇状に蒼炎の火柱を巻き起こすもの。ターゲットのモンスターを上手くスキル範囲内に入れたことで、敵モンスターは一掃できた。蒼炎の火の粉が、チリチリと周囲に舞う。


「間に合ったァ!大丈夫か!?カラス!ひのじぃ!」


「……貴方は、船長……!?」

「船長さん……っ!来てくれたんだ!」


青白い輪っか、ポータルから、ウィンドウを開きながら現れる船長こと俺、後から陽と陰が続いてやって来る。


「飛行船は上だ、このポータルでみんな帰るぞ!」


「……待ってください!」


「なんじゃいジィさん!」


「ジィさん……、いや、それよりも……!まだボス個体がいます!」


「ほっときゃいいじゃん!」


「この森の近くには、集落があるんです……、あのボス個体を見逃したら、集落が襲われる……、ここに遠征を向かわせたのは、それを防ぐためでしょう、船長さん……!」


画面の向こう側にいる時は考えもしなかった。

ただの素材アイテム回収のための遠征任務、確かに、そんな設定もあったが。……そうか、まだ俺はこの世界に順応できていなかった。


「……、……だー!ええい!カラス!陽の後ろに!陰、日野!ボス個体の討伐だ!行くぞ!」


「はい!」

「わっ、わかった!」


「あいよー」

「任された」



「『コマンド』!!!!」

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