#1.ガチャを回したら俺が出ました
「……よし、これで全員レベルMAXだ!」
俺の名前は財前 ガクト、人よりちょっとお金があって、そのお金を全てゲームにつぎ込むのが趣味な、ただの廃課金ゲーマーだ。
そんな俺が今ハマっているゲーム、クオリア・ナイツ。
舞台は空飛ぶ飛行船を拠点に、主人公は船長として、仲間を率いて世界各地で暴れ回る魔物から人々を救いながら、世界の平和を取り戻すという、ストーリーに関しては王道な作品。キャラクターはどれも魅力的で、ガチャを回す時に出てくる双子や、キャラを回復させるための医療担当の姉御キャラ、飛行船を整備する整備士なんかもいれば、当然、魔物を倒すために戦う超強力なSSRキャラたちもいる。廃課金ゲーマーの俺は、リリース初日から約1年、すべてのキャラを限界突破させ、遂に全キャラのレベルもMAXに上げたのだ。
「……しかし困ったな、やることが無い。PvP期間も過ぎたし、今は新ガチャが来るまでガチャが引ける訳でもない。遠征に行かせるか。」
遠征、このゲームの素材集めのクエストであり、キャラクターを選択して満遍なく色んな素材を手に入れられるというものだ。
「いいや、全員行ってこい、どうせ新キャラ実装までやることないし。……ん?」
画面の下に並ぶアイコンを見ると、ピックアップガチャ期間ではないにも関わらず、赤い点がついている。なんだ?もう新ガチャが来たのか?
「どれどれ……?」
『おめでとうございます!あなたはクオリア・ナイツの中でも選ばれた唯一無二の船長です!そんなあなたに特別ガチャをプレゼント!』
「……、課金しまくったからかな。」
内心驚いてはいたがいくら掛けたかも思い出せないほどに金をつぎ込んだこのゲーム、俺が選ばれるのもまぁ納得は行く。まぁよかろう、ガチャが来たら新キャラを引く、それがこの俺だ。
「はいポチー」
画面に糸目で鼻筋がスラッとした、マンバンヘアの声も見た目も全く同じ双子キャラ、暗朝 陽とその弟陰が出てくる。この双子はいつもポーカーフェイスだ。ガチャの演出としてたまには笑ってくれてもいいのだが。
「え、……笑ってる?」
画面に移る双子、その片割れ、兄の陽が、イタズラな笑みを浮かべていた。このゲームのガチャ演出は、双子は作ったという設定の平行世界移動装置に、双子が溜まったガチャ石をぶち込み、燃料として動かし、キャラを召喚する。その間双子は驚くほど真顔だ。当然プレイアブル化もされている為、この双子が真顔、ポーカーフェイスなのは設定に添ったいい演出だと思うが、今まで笑うことなんて1度もなかったのに。
「この演出は……、……神引きかぁー!?」
なんてはしゃいでた俺を、スマホ画面の異常な光が冷静にさせた。
「何この光。」
つい片手で画面の光を遮ろうとした時、俺の意識はそこで途絶えた。
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「……ん、外……?」
生暖かい風が、頬を撫でる。風っていうか、これ暴風じゃね。って、俺、いつの間に外に出た……?
「ようやくお目覚めか、船長。」
「外も何も飛行船だ。風くらい吹くだろう。」
聞き覚えのある声がひとつ、いや、ふたつ。廃課金の俺にとってはもう聞き飽きたと言ってもいいほどに聞いた声、クオリア・ナイツのガチャ演出に出てくる双子、暗朝 陽と、その弟の陰の声だ。俺にはわかる。陽は少し砕けたニュアンスで喋り、陰は生真面目な少し固い口調で話す。
まてまて、そんなゲームキャラに関する理解度説明は今じゃない。これはあれか、もしかしてもしかするとだが……
「……俺、召喚された?」
「うん?うん。」
「兄者がイタズラをしてな。船長をガチャで引いてみよう、と。」
「引いてみようって……、えぇ?俺が引く側だったじゃん。……、あ!だからお前あの時笑ってのか!」
「HAHAHA」
ポーカーフェイスのまま、カタカタと肩を揺らしながら軽く笑う陽。
ガチャ演出の瞬間、兄の陽が薄らとイタズラな笑みを浮かべていたことを思い出した。
「……じゃあここは、ゲームの世界か?」
「いいや、ここは船長がいた地球との平行世界にあたる、アストラという世界だ。」
「アストラ……?平行世界……?」
陽が簡単に説明をしてくれるが、理解が追いつかん。
「船長は今まで、平行世界から俺達を『コマンド』で操作し、魔物の討伐に助力してくれていた。ただ、急に船長がみんなを遠征に向かわせたものだから、敵襲が来たらたまったものじゃない、ということで、直接指揮をとって貰えるようこの並行世界移動装置を使わせてもらった。」
「……。ふむふむ。なるほど、わからん。」
「それ言いたいだけだろ。」
「……バレたか。」
弟の陰の解説で一通りの流れはわかった。小さくボケたら陽に突っ込まれたが。何はともあれ、つまりはあのガチャを引く直前、みんなを遠征に向かわせたのが運の尽きだったんだろう。
「ってそんな冷静でおられるかぃ!俺に戦えってかぁ!見ろよこのほっそい腕と脚を!走ったら折れる自信があるね!」
「……船長、どうやらボケてる時間は無さそうだ。」
「飛行型の魔物か……。」
「はぇあ?」
ボケてるつもりは無いのだが、と、双子の視線の先を見てみる。
「……うわぁ、なんか飛んでら……。」
かなり攻撃的なくちばしを持つ鳥型のモンスターが、5匹ほどの群れで飛行船の後ろから追ってきていた。……いやいや、だから。
「俺戦えないってぇ!」
「船長に戦力は期待してねえよ。その代わり、今まで通り、指示してくれ。」
「船長、ウィンドウを開けば俺たちに指示が出せる。いつも通りやれば、大丈夫だ。」
陽と陰が交互に述べる。
「……指示?ウィンドウ……?……、うわ、これか!」
見覚えのある戦闘画面下にあった『コマンド』ボタン。攻撃、防御、スキル、逃げる。
今回は場所が飛行船の上なだけあって逃げることは出来ない。
覚悟を決めろ、俺。こいつらの強さは、俺がいちばんよく知っているだろう……!
「行くぞ!お前ら!」
「あいよー」
「うむ。」
締まらんなぁ……。まぁ、何はともあれだ。まずは敵を飛行船まで誘導しなければならない。
「えーとえーと……、これリアルだとどうなるんだ……?ええいままよ!『コマンド』!」
『陽>スキル>ポータルテイク』
『陰>スキル>ミラージュテイク』
ウィンドウ画面を操作する。俺の想像通りに動けば、敵モンスターを飛行船の甲板まで誘導できるはず。
陽「あいよっ」
陽が両手をモンスターに向けてかざす。途端、青白い輪っか、ポータルができる。
飛行船は常に前進している、後方から追ってきているモンスターも前進している。
敵の目前に巨大なポータルを作り、飛行船の広場の上にもう1つ、出口のポータルを作れば、モンスターたちは、ポータルに飲まれ、ドサドサッ、と飛行船の広場に叩き落とされた。
それを好機とし、弟の陰がミラージュテイクを発動、これはいわゆる分身体を作り出すスキル。陰のモチーフ武器、大剣ヴラーニドを携えた分身体が、容赦なく魔物を切り捨てる。
しかし、群れのうち1匹は、おそらくボス個体だったのか、陰の攻撃を受けながらも、こちらに突進してくる。
「やばいやばいやばいやばい!!!『コマンド』!」
『陽>スキル>ストッパーテイク』
「船長には触れさせねーよ。」
寸前のところで陽が間に入り込み、モンスターに指を指す。すると、そのモンスターは動きを止める。
陽のスキル、ストッパーテイクは、1ターンのみ敵の行動を停止させる、という効果を持つ。
「すまん兄者、船長。トドメだ」
動きを封じられたボス個体のモンスターの背後から、大剣ヴラーニドが突き刺さる。奇声をあげるモンスター、それをポーカーフェイスで眺める双子。絶句する俺。
「……倒したん……?」
「船長の指示のお陰でな。」
「さすがに手馴れているな。我らが船長。」
「いやいや、死ぬかと思いましたが。」
……あれ、それよりも視界が、ぐらつく。
なんだ?怪我でもしたか?いや、痛みは無い。
「……んぁ、船長?」
「……おい、大丈夫か船長。」
「……いや、あー、これダメっぽい。ごめんお前ら、死ぬわ。」
バタン、そう倒れる音と、耳鳴り。双子が何かを叫んでいる。心配してくれてんのかな。でもごめん、今返事できねーや。……、疲れたな……。
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「ふふふふ……、早速お客さんかしら〜♡」
どこかも分からない場所で、女の声が耳に届いた。
そんな気がした。