第二話 「運命の重み」
ロイドは「運命操作士」としての力を試すことで、その可能性を少しずつ感じ始めていた。しかし、力があると分かっても、その使い方はまだ模索中だった。運命を操作することが、どういった影響をもたらすのか。彼は、それを知るために、次なる実験をすることに決めた。
王都の市場へと足を運んだロイドは、そこに集まる人々の運命が織りなす不思議な「糸」を感じ取るようになっていた。運命操作士としての力が覚醒し始め、彼には周囲の人々の未来が、まるで無数の紐のように見えるようになったのだ。
市場は活気にあふれ、商人や旅人、衛兵たちが行き交い、それぞれが異なる運命を持っていた。ロイドは、その中のひとり、若い商人の運命に目を留めた。彼はいつも通りの商品を仕入れる予定であり、その選択は未来に何も大きな変化をもたらさないだろうという運命の糸が見えていた。
「この商人の運命を、少しだけ変えてみよう……」
ロイドは、その商人の仕入れる商品を変更させるという小さな運命操作を行った。商人が普段なら絶対に選ばないような商品を、何となく仕入れるように仕向けたのだ。
「これでどうなるか……」
ロイドは、結果を待ちながら市場を離れた。彼の運命操作は成功していた。商人は別の商品を仕入れる決断をし、その商品を並べる準備をしていた。
だが、ロイドの思惑とは裏腹に、その小さな操作が思わぬ混乱を引き起こし始めた。
数日後、市場で問題が起こった。ロイドが操作した商人の商品は、予想以上に早く売り切れてしまったのだ。それだけなら問題なかったが、彼がいつも仕入れていた商品が、周囲の商人に影響を与えることとなった。もともと商人たちが協力し合っていた市場のバランスが崩れ、取引先との関係にもひずみが生じたのだ。
「なんだって? あの商品が市場に出回らなくなっただと?」
商人たちの間で不穏な声が広がり、ついには市場全体が騒然とし始めた。ロイドはその状況を遠くから見つめながら、自分の力がただの遊びではないことを実感し始めた。
「……僕がやったことが、こんなにも大きな影響を与えるのか?」
ロイドは動揺していた。ほんの少し運命を操作しただけで、こんなにも多くの人々の生活に影響を与えてしまったのだ。彼が操作した運命は小さなものであり、その変化も一瞬のものだったはずだ。しかし、その結果が大きな波紋を呼び、予想もしない影響を与えたことに、ロイドは深い後悔を感じた。
「これは……僕の責任なのか?」
ロイドの胸に罪悪感が広がっていく。自分が運命を操作することで、誰かの人生が狂い始める。それは、他人の自由意志を奪う行為であり、自分の力に対する恐怖が湧き上がった。
「……こんな力、使っていいのか?」
彼は自分が手にした運命操作士の力の重みを、初めて深く理解し始めた。運命を変えることは、他人の人生そのものを変えるということ。それがもたらす影響を軽々しく考えることはできない。
その日、ロイドは市場を後にし、もう一度運命操作士としての自分を見つめ直すことを決意した。だが、彼の力はすでに動き出しており、その結果がどこにたどり着くのか、まだ誰にも分からなかった。