第一話 「運命操作士、運命を操る」
「お前は……失敗作だ!」
父親の怒鳴り声が広間に響いた。王国の名門、アスター家の三男、ロイド・アスターは、十五歳の誕生日に行われる「運命の選定」で、期待されていた剣士や魔法使いの称号を得ることができなかった。
「運命操作士だと? そんな役に立たないクラス、聞いたことがない!」
広間に集まった親族たちは、呆れ果てた顔をしていた。王国の未来を担うエリート一家の中で、ロイドだけが異質だった。彼に与えられたのは、力でも知識でもなく、「運命を操作する」という曖昧で、実体のない力だった。
「父様、これは何かの間違いです。運命操作士なんて……僕は、剣士になるはずだったんです!」ロイドは必死に訴えたが、父親は冷たく彼を見下ろした。
「お前のような役立たずは、アスター家には不要だ。今すぐ出て行け!」
ロイドはその場で追放を言い渡され、わずかな荷物を持って屋敷を後にした。雨が降りしきる中、彼は無力感に打ちひしがれながら、王都の裏通りを彷徨った。
その夜、ロイドはボロボロの宿屋で、唯一の「運命操作士」のスキルを確認した。
「運命操作……他者の決断をほんの少しだけ変えることができる。ただし、結果は不確定。ふざけるな……こんな力、どうやって使えって言うんだ……」
ロイドは天井を見上げ、ため息をついた。運命を変える力と言っても、何をどう変えられるのかが分からなければ意味がない。しかも、自分の運命を直接変えることはできないという制約もあった。
「役立たずか……。やはり、僕には何もできないのか?」
そんな絶望の中、ロイドはふとした拍子に、未来のビジョンがぼんやりと浮かび上がった。それは、翌日、宿屋の主人が強盗に襲われるシーンだった。
「これは……未来予知? いや、違う。これが、運命を操作する力か……」
ロイドは恐る恐るその力を使い、ほんの少しだけ未来を変える選択を試みた。強盗が宿屋に来る前に、宿屋の主人が店を閉めるというささやかな変更を心の中で念じたのだ。
翌朝、ロイドはその結果を見に宿屋へ戻った。
「今日は早く店を閉めたんだよ。なんだか、悪い予感がしてね」と主人は笑顔で言った。ロイドは心の中で驚きとともに確信した。自分の力は、確かに未来を少しだけ変えることができるのだ。
「……この力、本当に使えるのかもしれない」
だが、運命を操作するということは、他人の人生をも大きく左右することになる。ロイドは、その力の重さを徐々に感じ始めた。