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第7話 押しがけ

 後部席では日向が口を尖らせている。


「さっきはびっくりしたよ、居なくなっちゃうんだもん」


 葵は事実を明かせず、


「なんかお天気が良くないから急いで帰ろうって言われて。ごめんね」


 健が頷いた。


「確かに、雲行きが怪しかったですからね。相変わらず予報が当たる」


 千鶴はドキッとし、葵も母の職業を知っているかのような発言に驚いた。


+++


 そしていつもの倍の荷重を背負ってビートルは坂道を登っている。ナビを動かし、レディ二人のために、健はいつも使わないエアコンまで最強運転にした。従って、それは起こるべくして起こったと言って良い。


 坂のてっぺんでエンジンが止まったのだ。健は惰行でビートルを道路の左端に寄せた。


「あーあ、やっぱり」


 後部席で日向が言った。


「なにがやっぱりなの?」


 何が起こっているのか判らない葵が聞いた。


「エアコン動かすとこの車、止まっちゃうんだよ」

「えー?」


 運転席では健がエンジンを起動しようとしているが、キーを回してもウンともスンとも言わない。健が後部席を振り返った。


「日向。押しがけだ。これから下りだから車が切れたら乗り出す。そこまで押して助手席に飛び乗れ」

「ラッキー! 助手席いいの?」

「緊急事態だからな。すみませんがマダム、後部席にお願いします」


 千鶴は実は知っている。昔もあった。私が押して助手席に飛び乗った。その役割は息子に受け継がれている…。


 一旦全員が車を降り、健が先の路面を見に行った。葵が日向に聞く。


「どうするの?」

「押すんだよ。押したら動くだろ。その間にエンジンをかけるとかかるの。この頃よくあるんだ」

「押すの?」

「そう」


 日向がボディをポンポンと叩く。千鶴が無意識に呟いた。


「昔もあったわよ。この車は今の車よりずっと軽いの」

「え? お母さん、なんで知ってるの?」

「あ、昔はそういう話がよくあったって話」

「なんだ」


 葵は肯いたが、日向はちょっと怪訝な顔を見せた。千鶴はドキドキした。しまった…。


 健が戻って来た。


「下り坂で助かりますよ。じゃお二人はうしろに乗ってください」


 千鶴と葵が後部席に乗り、健が運転席に座る。ギアを2速に入れ、後方の様子を伺う。日向は助手席ドアを半開きにしたままAピラーに手を掛けて、健の号令を待っている。


 後方の坂の下、信号が赤になった。登って来る車はいない。


「よし! 日向、押せ!」


 健が声を掛け日向が腰を落としてAピラーを押すと、ビートルはあっさりと動き出した。日向が飛び乗りドアを閉める。ビートルは坂をゆっくり下り始め、健はアクセルを繰り返し踏みつけた。


 ブボォボォボォボォボォ…


「おっし!」


 健と日向がグータッチしている。


「すみません、このままノンストップで行きます」


 ビートルは何事もなかったかのように坂を下った。


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