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第4話 好き?

「ねえ、お母さん! 何が降って来るの? 雨じゃなくて?」

「あんたは知らないものよ」

「えー、どういう意味? まさか雪とか?」

「もっと痛いものよ。当たったら心まで砕けるの」

「なによそれ。説明になってない!」


 納得いかない葵はとうとう千鶴の手を振り払って立ち止まった。


「お母さん、なんか変!あたしはまだ帰りたくない!せっかく会ったのにまだちゃんと喋れてない!」

「あんまり喋らない方がいいのよ、あの子とは」

「なんでよ。なんで判るのよ」

「大人には判るの」

「嘘よ。すっごくいい人なんだから!」

「いい人?」 


 千鶴は葵と向かい合う。


「いい人って?」

「いい人はいい人でしょ。とっても波長が合うの」

「葵、まさかあんた…」

「なによ」

「好きとかじゃないよね」 

「好きよ。悪い?」


 葵は思い切って啖呵を切った。


「駄目!絶対ダメ!」


「なんで?」

「なんででも駄目!」

「お母さん、今日おかしいよ、なんでだか言ってよ!」

「だから大人には判るの。上手くいきっこない」


 千鶴はまた葵の手を取って強引に引っ張る


 その時、後ろから来た車がクラクションを鳴らして、二人の横に停車した。水色のビートルだった。

助手席側の窓が下がり、運転席の男性が顔を出す。


 15年ぶりに見る健の素顔。15年分の時間が刻まれている。それに昔よりずっと痩せている。


「どうぞお乗り下さい、お嬢さんも後部席に」


 後部席で日向が手を振っている。ドアが開き、助手席が倒された。その隙に葵がさっさと乗り込む。仕方なく千鶴も助手席に座った。15年ぶりのナビゲータシート。ビートルはあの日のままだった。単純に懐かしい。


 駐車場で見た時に、助手席に置かれていた麦わら帽子は健の膝に載っている。千鶴は少し強張った顔で言った。


「そこまでで結構ですから、バス停までで」

「いや、駅まではお送りしますよ」

「え…」

「だって、あの空の色」

 

 健が指さした空にはいつの間にか真っ黒な雲が押し寄せ、海には雨のカーテンがかかっている。走り出してすぐにビートルは水煙に包まれた。健はライトを点灯し、車を徐行させる。軽く渋滞しているようだ。


 前の車が止まり、ブレーキを踏んだ健の顔が千鶴の方を向く。唇が動いている。


 え?


 雨の音・雨の音・雨の音…。


 次の瞬間、健は前方を見て、クラッチをつないだ。


+++


 雨が収まりかけた頃に、ビートルは駅に到着した。駅前の路面は水たまりだらけだった。


「すみませんでした」


 千鶴はにこりともせずさっさとドアを開けて降り立つ。仕方なく葵も後部席から出た。日向は小さく手を振っているが、戸惑いがありありと見て取れた。葵も小さく手を振る。ま、いいや、連絡先は知ってるし、あとでごめんって入れておこう。


 ビートルはゆっくりと動き出す。雨上がりの水色の車。確かにオンボロって感じだ。窓も開かないし、エアコンも効いていなかった。日向クンもボヤく筈だ。葵が見ている間に千鶴はさっさと駅構内に入ってゆく。


「待ってよー、お母さーん」


 葵は水を跳ねながら慌てて母の後を追いかけた。



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