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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

明日は明日で岩が降る

作者: 三蜂 琥珀

鬱要素注意!


 …痛い


 私は、頭を少し抑えながら足元を見ると。

 そこには何処から飛んで来たのか、空き缶が転がっていました。

 たぶん、風に飛ばされて来たのでしょう、ただ何が降って来るのか分かっていたとはいえ、痛いものは痛いのに変わりありません。


 今日も私は不幸です。




 神の悪戯か、私には物心覚えた時にはもう他の人とは違う妙な能力を持っていました。

 それは別に有り難い物ではなく、いつも私の不幸の種でした。

 その能力は、一日一回、必ず私に向けて何かが降って来て、

朝起きたら何が降るかわかるというもの。

 とはいえ別に何か特別なものが落ちてくるということはなく、一番多いのは雨です。

 どうやら雨などの一回は、一滴ではなく一降りの判定になるようで、いつも残念に思います。

 雨が降る時などは、天気予報じみたことができるのは良いのだけれど、異名が雨女になったのは嫌な思い出です。


 似ているようで命懸けなのは雷です。こういう日は屋外に出る事が出来ず、家には避雷針が必須であり。特別な行事があっても必ず休まらなければなりません。


 偶に財布が降ってくる事もありました。それでも幸運とは思いません。そういう場合でも、大体所有権を持っている人が近くにいるからです。

 ネコババしようと思えば出来る時もありましたが、

私は小心者、そんな勇気はありません。

 

 このように自分では、いつ降るかも何が降るかも決められないので、この能力による悪い思い出は数あれど、良い思い出はほとんどありません。



 

 今日の不幸も過ぎ去り、もう日が暮れる時間です。

 高校が終わり、帰る途中にスーパーに寄って食料品を買い漁ると、真っ直ぐ家に帰ります。

 私の家は小さなマンションで、母と二人で静かに暮らしています。

 昔、拾った猫に餌をあげると、部屋で一時間くらい宿題に挑みました。



 能力のせいで、満足に友達を作る事もできず。これからも作れる気もしません。ずっとボッチの人生は嫌ですが、これも運命というものなのでしょうか。

 夕食を作りながらそう考えていると、ガチャリと玄関から音が聞こえました。どうやら母が帰ってきたようです。

 「ただいま~。」


 「おかえり。」

私が返事をすると、台所に顔を出したと思えばすぐに自室に入ります。私は戻ってくる間に、チャッチャッと食事をよそいます。

「今日のご飯はなに〜。」

 食事の用意が終わった丁度に、母が戻ってきました。

 「今日は野菜炒めです。」

適当に安かった物を突っ込んだ、だけだけどね。

 

 お互い机に向かい合いながら、黙々と口に運んでいると。

 母が、

 「学校で何かあったりした?」

 と、尋ねてきました。

 「学校では特に何もなかったけど、帰り道に空き缶が頭に落ちてきちゃった。」

そう言うと、心配した顔で

「大丈夫?貴方は体が弱いんだから気をつけなさいね」

 私は、悪い物が降ってくるとわかると、必死に仮病のふりをしたため、体が弱いと思われていました。

 実際、そんなに強い方でもないけれど、唯一の肉親にも能力の事を話していないのは心苦しさを感じます。


 

 いつものように、一緒に皿洗いを終えたらシャワーを浴びて体を洗い。

 今日はいつもより強い睡魔が襲って来たので、逆らわずに早めに布団に入ります。

 明日への憂鬱と、少しの期待を胸に宿しながら眠りにつきました。





 窓の外から、朝日の光が入り込んできます。

 その光に反応したのか、まだ肌寒い中私は目が覚めました。そして、今日は何が降るのか、既に諦めた頭に浮かびます。

 それが分かった時、とても驚きました。


 今日降ってくるもの、それは隕石でした。それも、7m以上もある大きな隕石です。


 私は数秒程呆然した後に、衝撃でキッチリ目覚めた頭で必死に考え込みます。

 どうやら幸い、地球が滅ぶとかそういう大きさではありませんが、人一人死ぬには十分な大きさです。




 実は私の能力は、絶対に防げないというわけではありません、傘があれば雨を遮る事も出来るし、建物の中に入れば雷も防げます。

 しかし、隕石レベルになるとそうはいきません。

 自分が用意出来る物で防げる物が無いからです。


 避ける選択肢もあるにはあります、けれど防ぐより難しいかもしれません。

 別に瞬間移動等といった事で降ってくる訳ではなく、ただ普通に落ちてくるように見えます。

 ただ、自分ではいつ降ってくるか分かりませんし、ある程度追尾するのか、少し避けたくらいでは逃げられません。

 なので、昨日も空き缶を避けることができませんでした。

 幸いと言えば良いのか、隕石は大きいので、来れば大体視認することができます。

 とはいえ、そもそも大きくなければこんなに考える必要もないので、やっぱり不幸です。


 結論を言うと、私に出来ることはほとんど無いということが分かりました。高校生の私にやれる事なんてそんなものです。


 「朝ごはんできたよ~、いい加減早く起きなさ〜い。」

リベングから母の声が聞こえてきました。

 考え込みすぎて、いつの間にか時間が経っていたようです 

 とりあえず朝食を食べに向かいます。

 そこにはご飯の他に、目玉焼きや味噌汁等、いつものような食事が並んでいました。

 とうとうこれが、最後の食事になるかもしれないとなると、胸の中で考えがまとまりません。

 そんな思いを秘め、味わいながら口に食べ物を運んでいると。

 「今日も体調が悪いの?最近、色々流行ってきてるから体に気をつけなさいね。」

 と、問いかけられます。 

 「大丈夫、ちょっと嫌な用事が今日あるのを思い出しただけ。」

そんな感じに返事をすると、少しだけ腑に落ちない顔をしたけれど、一応納得したようです。


 朝食を終え、一応学校への準備を行いながらも、また色々考え込みます。

 私が隕石から逃げることは出来ない、これはもう確定だと見ていいでしょう。つまり、今日私は死ぬということです。

 ただ、昔から能力が原因で死ぬというのは、なんとなくそんな予感はしていたので動揺はそこまででもありませんが、

もう生きたくないと言えば嘘になります。

 それでも死ぬのならば、他人に迷惑かけないように僻地の山の中でひっそり死にたいと思います。

 ここまでくれば、吹っ切れるしかありません。

 本当は海の方がいいと思いましたが、流石に船をすぐに用意することは出来ないため、泣く泣く諦めました。



 学校へ行く時間になり、制服に着替え玄関に向かいます。

 そして家を出る、その前に母へと最後になる挨拶をします。

最後くらいは笑顔で元気に、

 「じゃ、行ってきます!!」

 「行ってらっしゃい!」




 電車は学校への駅を通り過ぎ、山間部へ向かって行きます。

 ふと、スマホを取り出しました。

 [美宵(みよい)、これまで友達として色々付き合ってくれてありがとうございました。ごめんなさい。]

 まだ気持ちがうまく定まらない中、そのまま今の心の内をメールで打ちました。


 その後に、走馬灯ではありませんが今までの人生を振り返ります。

 私の一生は、いつもこの能力に振り回されてばかりでロクな人生ではありませんでしたが、母と居た時間はとっても楽しかったと思えます。


 そんな事を考えていると、丁度電車が目的の駅で止まりました。

 これから山に登って行きます。

 私は、力が全くない貧弱な体をしているのでとっても大変でした。もう何回転んだか分かりません。

 鞄を駅の所に置いてきのは英断だったみたいです。

 

 太陽が真上に上がった頃、ようやく人気の無い目的の場所に到着しました。既に自分の体はボロボロで、そこらにあった岩に座り込みます。

 空を見上げると、赤い点がどんどん大きくなっているのが見えました。

 丁度良いタイミングに来たことに、神に感謝の気持ちを送りますが、同時にこんなことになってしまった事による呪いの言葉も送ります。

 そんな事を考えているうちに、もうかなり近付いているようで、大きな隕石が手を伸ばせば届きそうと思える程に、大きく見えます。


 私は瞼を閉じ、最後に考えたのは、長生きできずにうまく親孝行できなかった母への、申し訳ない気持ちでした。 




                      終わり

本当は、最後に母の反応とかを書きたかったけど、字面にしてみると隕石に潰れて死ぬっていうのはギャグっぽいかなと、泣く泣く止めました。

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