「図書室にて」
私は、図書室が好きだった。
本を読む事も好きだし、図書室が持つ独特の匂いも好き。
だから私は二学期になって、図書委員になった。
今日は初めての図書当番。
それも、憧れの森崎先輩と一緒。
森崎先輩は一コ上で、私と同じ図書室の住人だった。
クールな顔立ちだけど、逆に人懐っこくて、友達にも慕われている。
本を読んでいるところは、見たこと無いけど……。
そんな姿をいつも、図書室で横目に見ていた。
「望月若菜です。よろしくお願いします」
「森崎透です。よろしくね」
まあ最初は、こんなもんだよね。
昼休みの図書室。
当たり前に、本を読んでいる人。
机に臥して寝てる人。
楽しそうに友達と、イラストを描いている人。
ワイワイ、ガヤガヤ。
普段は静寂に包まれている図書室が、この時間だけは喧騒に包まれている。
それを私は図書委員として、カウンターの中から見渡している。
こないだまでは、私もそっち側に居たのに……何だか優越感がたまらなかった。
「望月さんは、本を読む?」
と、横に座る先輩が、問い掛けてきた。
『プッ』
図書室で聞く質問ではないな、と思わず噴出してしまった。
「はい。一応、図書委員なんで」
と、私は笑いながら手に持った小説をアピールした。
「先輩は、どうですか?」
本に栞を挟みながら、私も先輩に聞き返す。
「うーん。少しは読むけどさ、実は俺、ゲームの方が好きだな」
「あっ! 私もゲームします!」
「へぇ、どんなの――」
『キーンコーンカーンコーン……』
昼休みの終わりを告げる、チャイムが鳴り響いた。
「あ、昼休み終わったね。今日は放課後にも活動があるから、続きはその時に」
「はい! じゃあ、その時に」
昼休みが終わる5分前、先輩と少しだけ喋ることができた。
続きは放課後かぁ。……ドキドキするなぁ。
午後の授業は、先輩との放課後を考えていたら、あっという間に終わった。
「やぁ、おつかれ。望月さん」
「あ、お疲れ様です。森崎先輩」
放課後の図書室には、昼休みと違い、殆ど人が居ない。
図書室が本来の静寂を取り戻している。
司書の先生に一声かけて、先輩と図書委員の本分である、蔵書の整理を始めた。
誰かが返した、恋愛小説。
へぇ、こんな本も学校にあるんだ。
そんな事を思いながら、先輩の問い掛けを待っていた。
本の整理がひと段落付いた頃、
「よし、じゃあ昼休みの続きね」
と、先輩がイスの背凭れに上半身を預けながら、逆向きに座った。
私はテーブルを挟んだ向かいの席に座って、先輩と向き合った。
「望月さんは、どういうゲームをするの?」
「あ、えっと、【ぶよぶよ】とか【テトラス】とか……落ちゲーってやつです」
「へぇ、そっち系かぁ。頭使うヤツね」
「いえいえ、そんな。先輩は?」
「俺はね、【ドマクエ】とか【エクエク】とか……ロープレ系かな」
「そうなんですねぇ。私やった事無いや。なんか難しそうなイメージで」
「そんな事ないよ。やってみたら面白いって。良かったら今度、貸してあげる」
「えっ、いいんですか、先輩?」
「うん。分からないところがあったら、俺が教えてあげるよ!」
「じゃあ、望月さんお先ね! 今度ソフト持って来るよ」
「はい! 楽しみに待ってます、先輩!」
誰も居ない放課後の図書室で、私の心は色めき立っていた。
終始、ゲームの話ばっかりの先輩。
部活もせずに図書委員になったのも、きっと体良く帰れるからなんだろう。
まあ、私も似たようなものか。
……だって先輩と、仲良くなりたかったんだもん。
やっぱり私、図書室って、なんか好き。
原案:彗めぐる
この物語は、実話を元にしたフィクションです。