よくある追放劇
「じゃあな、お前はもういらん」
そう言われた回復術士は、「ああ、とうとう来たか」と思った。
今の今まで、現在のパーティで探索者をしていた。
迷宮にやってきたばかりの新人同士でまとまった。
あぶれ者が集まったともいう。
有望な者達はとうに既存の探索者達に引き入れられていた。
そうならなかったのは、そうなるだけの理由がある。
そんなわけありの連中が集まり、とにかく迷宮に挑もうという事になった。
そうしないと食っていけないからだ。
「だけど、これで終わらねえ!」
威勢の良いかけ声を、リーダーとなる戦士はあげたものだ。
「必ずのし上がってやる!」
そのかけ声に引っ張られるように迷宮に挑んだ。
それから3年。
運良く回復術士の入ったパーティは生き残った。
レベルも上がった。
今では中堅どころでは有望株と言われるほどになった。
そんな折りである、いきなり追放を告げられたのは。
ただ、それを聞いても回復術士は意外とは思わなかった。
ようやく来たかと思った。
もともとそりが合わなかったのだ。
リーダーの戦士もそうだが、ここにいる連中全員と気が合わない。
回復術士は常に違和感というか居心地の悪さを感じていた。
それはやたらとやる気を出してるリーダーもそうだし。
他の者達にも同じような居心地の悪さをおぼえていた。
リーダーの戦士は、無謀。
突撃馬鹿で、状況を考えず敵に突進していく。
それでいて、形勢不利とみるや、いの一番に逃げ出す。
それをやめるように進言しても、「うるせえ!」と怒鳴り返してくる。
殴りつけてくると言った方が正解か。
とにかく、そういう人間だった。
なるほど、どこも仲間に引き入れようとしないわけである。
もう一人、寡黙な重装戦士も別の意味で問題だった。
騎士の出だという重装戦士は、高価な金属鎧を身につけていた。
その防御力と、騎士出身らしい武術は大きな助けになる。
だが、守りを重視して攻撃をしようとしない戦い方には問題がある。
「騎士とは守るものだ」
そう言って譲らず、盾を構えて前進していく。
その援護も面倒で大変だった。
手癖の悪い盗賊出身者は、日常的に問題だった。
隙あらば仲間の財布にすら手を出してくる。
「そんなの、隙を見せてる方が悪いんだ」
と言ってはばからない。
おかげで迷宮の中では敵だけでなく、この盗賊出身の偵察兵も警戒せねばならなかった。
女魔術師もそんな連中に似たりよったりだ。
やたらと攻撃魔術を使いたがるせいで、常に戦闘の危機に立たされる。
状況による戦い方などまったく考えず。
また、前線の状態も考えたりしない。
前で戦士と重装戦士が戦ってるのに、広範囲に効果のある攻撃を繰り出したりする。
そんな味方からの攻撃を守るために、回復術士は二人に回復を施さねばならなくなる。
しなくても良い回復のおかげで、魔法の手数が減る。
それをたしなめても、「敵は倒れた、問題なし」ととりあわない。
なおかつ、そんな事をすればリーダーと重装戦士と盗賊が文句を言う。
かわいい女魔術師の肩を持っているのだ。
おなじ事は女神官にも言える。
女神の信徒であるこの女神官も、問題児という意味では他の連中と大差ない。
手助けと援助を旨とする教義なのは分かる。
だが、それに固執するあまり、稼ぎのほとんどを施しに使おうとする。
主に神殿への献納と、貧民への救済に。
それが女神官の取り分からなら問題は無い。
好きにすればいい。
だが、パーティの稼ぎをそれに使おうとする。
生活費すらも残さずに、手にした報酬の全てを。
さすがにそれを止めてはいたが、その都度「なんでですか?」と不思議そうに聞き返される。
説明も面倒なので、最近は何も言わずに「駄目だ!」と拒否していた。
そして、これまた美人な女神官の肩を持つリーダー・重装戦士・盗賊が怒鳴り込んでくる。
そんな事が相次いでいただけに、回復術士と他の者達との間には溝が出来ていた。
修復不能なほどに大きな。
これはもう駄目だなと回復術士も思っていた。
それでも一緒に活動していたのは、他に入れるパーティもないからだ。
この3年で回復術士の実力も上がった。
能力だけなら、それなりにやっていけるだけのものはある。
だが、この問題児だらけのパーティの一員というのが足を引っ張った。
「あそこの人間なんだろ」
「ごめん、あいつらの仲間は無理」
そう言って常に断られ続けてしまった。
大変残念な事に。
その為、やむなくこのどうしようもない連中のパーティについていった。
本音では、さっさと抜け出したいと思いながら。
そう思って日々耐えていたのだが。
その理由をリーダーが自ら無くしてくれた。
「分かった、それじゃな」
未練なんぞこれっぽっちもない回復術士は、さっさと抜ける事にした。
これ以上付き合ってるほど暇でもない。
時間がもったいない。
そんなわけで回復術士は、その場からさっさと消える事にした。
「おい、待てよ」となぜかリーダーが叫んでいるが。
知るか、と内心思いながら宿の自室へと向かっていく。
既に迷宮から帰ってきて、報酬配分などを行っていた時の事だ。
配分が終わってないので、戦利品などの分配は終わってない。
当然、金も手に入ってない。
だが、かまわなかった。
下手にもめるより良い。
少々の金のために、無駄な時間を費やしたくなかった。
もったいないとは思うが。
「貯金はあるしな…………」
なぜか偏り分け前のせいで、手取りは他の奴らより少なかったが。
それでも生活するには十分なだけの稼ぎは手にしていた。
そこから蓄えを作ってある。
普通に暮らせば一ヶ月ほどはどうにかなる。
それよりも、さっさと部屋から退散しようと思った。
回復術士が使ってる宿は、それなりに良い部屋で、金が結構かかる。
本当ならもう少し安い所にしたかったのだが。
リーダーがなぜかしゃしゃり出てきて、
「俺たちの見栄えもあるんだ、もっと良いところにしろ!」
とか言ってきたのでしょうがなくそこそこ良いところにした。
ただし、パーティの連中と一緒は嫌だったので、宿は別にした。
迷宮の中だけでなく、日常でも他の連中の顔を見たくはなかった。
そんな回復術士の後ろから呼び止める声が。
「待ってください」
聞き慣れた鬱陶しい声。
仕方なく足を止めて振り返る回復術士の目に、女神官の姿が迫ってきた。
駆け寄ってくる彼女の到着を待つ。
女神官は、そんな回復術士の前に止まり、
「こんなのはよくありません。
皆さんも冷静さを欠いてるんです。
一度戻って…………」
案の定説得をしてきた。
調和やら仲良くやらをお題目にするだけはある。
そんな女神官に回復術士は、
どごん!
握った拳を遠慮無くたたき込んだ。
顔面に。
魔術による強化がなされた、容赦の無い一撃だ。
女神官は、きれいな顔をへこませながら飛んでいく。
そのまま立ち並ぶ家の壁に激突、土壁をめり込ませて止まった。
「鬱陶しい」
たまった鬱憤の一端を解消し、それから回復術士は宿へと向かっていった。
宿を変えて、妥当な所に床を変えて一夜を過ごす。
手頃な値段の宿賃に満足しつつ、回復術士は迷宮へと向かった。
一人で潜るのは危険だが、そうも言ってられない。
仲間もろくに見つからないなら、一人でやっていくしかない。
一応、同行者は探しているが。
見つかるまで何もしないのももったいない。
探索者には探索者の便宜をはかる協会がある。
その協会に迷宮の同行者を見繕うよう頼んである。
あとは協会の方で体の空いてる者に声をかけてくれる。
その間、回復術士は単独で迷宮に挑む事にした。
危険は危険である。
だが、浅い部分ならさして問題は無い。
回復術士とはいえ3年間も迷宮で生き残ってきた。
レベルも相応に上がっている。
浅い部分にいる比較的弱い敵など造作もない。
一人でも片付ける事は出来る、それだけの強さを手に入れている。
戦闘専門の戦士でなくてもだ。
回復と治療をもっぱらとしていても、基礎的な能力が違う。
更に。
この回復術士にはもっと別の側面もある。
「さてと」
今まで表に出してこなかったもの。
以前の最低パーティでは必要とされなかったもの。
それを惜しむことなく出していく。
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