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後編

この作品は二部作の2作品目です。

1作目の隣の令嬢は幸せそうに見える〜アリアの場合を先にお読み頂きますと、より一層分かり易いと思います。

勿論、ローズの場合のみでも問題ありません。

宜しくお願い致します。

 

 結局、エドワーズ卿に協力頂く事になってしまいました。

 仮にも婚約寸前の様に振る舞うのです。

 私はエドワーズ卿にとても申し訳ないと思いました。


 初めてお会いした時、確かにこれほど見目麗しい男性は見たことがないと思いましたし、

 その上物腰も柔らかです。

 こんな茶番に付き合わされ、さぞかしご不満と思い、謝罪しました。


「エドワーズ卿、こんな茶番に付き合わせてしまい申し訳ありません。

 出来ることなら、きちんと相手を決めれば

 良かったのでしょうが」


 私は少し言い澱んでから覚悟を決めました。

「実は私には意中の人がいます。しかし、その人は身分差もあってか、少しも気持ちを見せてくれません。

 でも、ずっと慕っていて諦めきれないのです。それでエドワーズ卿に多大なご迷惑をお掛けしてしまう事になりました。申し訳ありません」


 エドワーズ卿は正直にお話した私に好感を持ってくださったようです。


「そうですか。

 実は私にも、ずっと意中の人がおります。

 本人は全然気付いてくれていないようですが、私を兄の様に慕ってくれています。

 この件に蹴りがつきましたら、求婚するつもりです」


 それは大変です。

 その方が誤解なさらないでしょうか。


「それでは、益々今回の事はお願い出来ませんわ。その方が誤解されたら大変です」


 エドワーズ卿はにこりと笑って仰いました。

「あの子は世情に疎いですし、社交界にもデビューしていませんから、大丈夫でしょう。

 それに、後から正直に話せばわかってくれます。そういう子ですから」


 すっかりお惚気を聞かされてしまいました。


「それにこんな言い方は失礼かもしれませんが、私にとっては、あくまで任務ですので、お気になさらず。

 それから、世間の目を欺く為に、これからは

 ローズ嬢とお呼びしても宜しいでしょうか」


「それでは私もジョシュア様とお呼びしますわ」


 しかし私たちは甘かったのです。


 私たちは舞踏会、夜会、お茶会ありとあらゆる催しに2人揃って出掛けました。

 ジョシュア様効果は抜群であれほど列を成していた求婚者はパタリといなくなりました。

 ヒル卿も流石にもうちょっかいを出して来なくなりました。

 また、別の気の毒な令嬢に狙いを定めたようです。


 そんなこんなで、この2年で私とジョシュア様は社交界の好一対と呼ばれるようになってしまいました。

 婚約間近とまで言われています。

 ただ、もうこの茶番が始まってから2年近くになりましたから、それほど頻繁に出掛ける事も無くなりました。

 ジョシュア様の負担も少なくなりほっとしていたのです。


 ジョシュア様は今度の休日に意中の人を遠出にお誘いして、心の内を打ち明けると仰いました。


 上手く事が運ぶ事をお祈りしていたのですが、また事件が起こりました。


 いつまでも婚約すらしない私を、あのヒル卿がまた狙って来たのです。

 次の休日に、正式に訪問するとの先触れがまいりました。


 その日はジョシュア様の大切な日です。

 しかし、ヒル卿に求婚などされてしまえば、

 お断り出来ないかもしれません。


 私が悩んでいると、ヘンリーは私に内緒でジョシュア様にお伝えしてしまったのです。


 ジョシュア様は早速邸にいらして、仰いました。

「貴女があの男の毒牙にかかるのを見過ごす事は出来ません」


 本当に申し訳なかったのですが、甘える事にしました。


 当日は、エドワーズ侯爵邸にて、婚姻の打ち合わせをしている事にして、私はそちらへ伺う事になりました。

 ヒル卿にはその旨ご連絡し、訪問は丁重にお断りしました。


 当日はエドワーズ侯爵邸の見事な庭園でお茶を頂きました。

 驚いた事にあのヒル卿はここにも押し掛けて来ました。

 私はジョシュア様の腕に手を掛け、にっこり微笑んで、ヒル卿を撃退しました。


 ジョシュア様は仰いました。

「いつまでもこの手が使えるわけではないから、きちんと対策をし直さなければいけないですね」


 お世話になってばかりで申し訳なかったのですが、私にはなす術はありませんでした。


 後からお聞きした話ですが、ジョシュア様が休日の遠出の約束を反故にしてしまったために、意中の人が会ってくださらなくなったというのです。

 私とジョシュア様が仲睦まじく腕を組む姿をあちらのお庭からその方がご覧になっていたのを侍女が見たらしいです。


 とんでもない事になってしまいました。


 それから数ヶ月が過ぎました。

 ジョシュア様は副団長にかなり抗議していたようですが、相変わらず任務は続けられておりました。


 その日はお会いする予定ではありませんでしたが、ジョシュア様が急に我が邸を訪れました。


「急にお訪ねして申し訳ない。実はひとつ確認したい事がありまして。

 ローズ嬢は昔モーガン子爵領で静養されていたとお聞きしましたが、アイザック・モーガン卿はご存知でしょうか」


 一瞬、息が止まりました。


「はい、幼馴染です。

 妹の様に可愛がって頂きました。

 今は疎遠ですが」


 ジョシュア様はそうですか、などと歯切れが悪いご様子です。


「ザックがどうかしましたか?」


 ジョシュア様は覚悟したように仰いました。

「実は私の意中の人が、今日の舞踏会で社交界デビューするそうなのです。そしてそのパートナーがモーガン卿です」


 私は驚いて蒼白になりました。

 手も震えています。

 それを見てジョシュア様がお尋ねになりました。

「まさか、いや、もしかしてローズ嬢の意中の人はモーガン卿ですか?」


 私は渋々頷きました。


「アリアはモーガン卿に惹かれているのかな」

 ジョシュア様がポツリと呟きました。


 アリア様がジョシュア様の仰るような方なら、ザックが嫌う筈はありません。

 むしろ、良いご縁と思っているかもしれない。

 私の頬に一筋涙が溢れ落ちました。


「ローズ嬢、迂闊な事を言って申し訳なかった。私はこれからロバーツ子爵邸に行ってみます。と言っても我が邸の隣ですが」


「私もご一緒させてください」

 良く考えれば、またジョシュア様とふたりでお待ちしていたら、要らぬ誤解を受ける事すら、頭にありませんでした。


 舞踏会の終わり近くの時間から、私たちはずっと門の前で待っていました。


 やがてモーガン子爵家の馬車がとまり、中から笑顔のザックが降りて来ました。

 笑いながらアリア様をエスコートしています。


 ジョシュア様がアリア様の元へ行かれたので、私もザックの側へ向かいます。


「ザック」

 思い切って声を掛けます。


「ローズ、エドワーズ卿のところに来ていたのかい?」


 私は被りを振って答えます。

「ザックが、アリア様のパートナーだと伺って」


 ザックは苦笑いをして言いました。

「ロバーツ子爵夫人からうちの母が頼まれたんだよ」


 私がほっと胸を撫で下ろした途端に、ザックは呟きました。

「でも出会えて良かったよ。すごくいい方だ」


 私は地獄の底に突き落とされました。


「ローズ、いや、いい」

 ザックは何か言いたいことがありそうでしたが、話はそこで終わりました。


 私たちはエドワーズ侯爵邸に戻りました。


 それからも同じような日々が続きましたが、

 ザックはあれから行方不明になりました。

 王都の邸にも事業の拠点の商会へも足を運びましたが、何処かに出掛けているとしかわかりません。

 不安ばかりが募ります。


 そして半年近く経ったある日、ジョシュア様が私を訪ねていらっしゃいました。


「ローズ嬢、やっと片がつきました。

 副団長ではいつまでも埒が明かないので、

 団長にお話しました。

 ヒル卿については、団長から陛下に進言して頂いたので間も無く処断されるでしょう」


 私はびっくりしました。

 ヒル卿は陛下の甥です。


「陛下は公明正大な方だから、ヒル卿の今までの数々の所業を許さないのは間違いない。

 私もいろいろ調べましたが、何人もの女性に無体な事をしていたようです。ある令嬢はそれを苦に自ら命まで絶っていました」


 恐ろしい事です。


「私もジョシュア様が引き受けてくださらなかったら、修道院へ入っていたと思います。

 本当に感謝しかありません。

 これからは、アリア様に全てお話なさって、仲直りしてください」


「ありがとう」

 ジョシュア様はそのままアリア様の元へ向かいました。


 ジョシュア様の任務が完了した事を知ると、父は早く縁談を纏めないと、とうるさく言う様になりました。

 おそらく、ジョシュア様との結婚を望んでいたに違いありません。


 毎日釣書を渡され、お会いするよう言われます。

 ヘンリーは気にする事はないよ、と庇ってくれますが、このままでは押し切られてしまいそうです。


 私は寝台で泣き崩れました。

 ザックがくれた枯れ果てた花冠を手に祈りました。

「ザック、何処にいるの?

 私、結婚させられてしまうわ。助けて」


 暫く泣いて私は気付きました。

 このままではいけない。

 ただ泣いていていいのだろうか、と。


 ただザックを待っているだけではいけない。

 ザックに選ばれる女性にならなければいけない。


 私は決めました。

 私がこの数年苦しんだ思いと同じ様に、理不尽な事に苦しんだ女性は沢山居るはずです。

 相談出来る窓口、後押ししてくださる方々がいたら、どんなに心強い事でしょう。


 私はその日、騎士団長様を訪ねました。

 突然お伺いしたのに、快く会ってくださいました。

 エドワーズ卿からヒル卿との話をお聞きになっていたからでしょう。


 私は苦しんでいる女性のために何かしたいとお話ししましたところ、賛同してくださいました。


「会の名前は『野薔薇の会』がいいだろう。

 凛とした白い小さな花がやがて赤い実を成す」


 とても素敵な名前です。


「私も賛同者や後援者を探そう。

 陛下にもお伝えするよ。

 ヒル卿の件では何も知らなかったご自分を責めてらしたからね」


「ありがとうございます。

 私も社交界の皆様にお声掛けして、支援者と被害に遭われた方々を探してみます」


 団長様は頷き、仰いました。

「会は騎士団内に置こう。

 空いている部屋を使えば良い。

 騎士団内なら安心して相談も出来るだろう」


 有り難い申し出です。


「いろいろご配慮いただきありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 それから私は社交界の皆様に声を掛けて会は大きくなっていきました。

 私の両親、エドワーズ侯爵夫妻、モーガン子爵夫妻とお知り合いの方たちから、ありとあらゆる皆様に支援いただける事になりました。


 そしてジョシュア様を介してアリア様を紹介いただき、アリア様にもご協力頂く事になりました。


 アリア様は新しく始められた事業によって沢山のお知り合いがいらっしゃるので、いろいろと助けていただきました。

 お話してみますと、とても良い方ですっかり仲良くなりました。


 アリア様は、ザックの事も心配されていましたし、私にきっと今に全てが良い方へ回りますわ、などと仰ってくださいます。


 そんなアリア様はとうにジョシュア様と婚約され、来春にはご結婚なさいます。

 本当に幸せそうで良かったと心から思います。

 そして余計な心配をさせてしまい申し訳なく思ってもいます。


 ヒル卿の被害者の方々も次々と名乗り出てくれました。

 被害者の方の名前は出さない方針が良かったようです。

 中でも、ノーマン卿は悲惨でした。

 大切な婚約者を無理矢理手籠にされ、その方は自ら命を絶ってしまったのです。

 かける言葉がありませんでした。


 私は皆様の被害状況を詳らかにして、陛下に提出致しました。


 王族ですので幽閉などの処罰と思っておりましたが、陛下のお怒りは強く、何と死罪の次に重い重罪犯向けの強制労働収容所送りとなりました。

 隠蔽していたヒル公爵も多くの領地が没収されました。


「野薔薇の会」はその後も女性たちの相談所としての役割を担っております。



 間も無く冬という寒い日でした。

 やっとザックが王都に戻って来ました。

 そしてザックは邸を訪ねて来てくれました。


「ザック」

 私は思わず駆け寄ります。

 ザックは日焼けをして、精悍になっていました。


「今までどうされていたのですか」


 私の問いに、ザックは跪いて私の手を取り言いました。

「ローズ・ベネット嬢、私と結婚して頂けませんか」


 私は驚き、涙が溢れました。

「はい、喜んで貴方の妻になります。ずっとずっと願っておりました」


 ザックは喜びで顔が輝いています。

 そして言ったのです。

「やっとローズに求婚出来る身となった。

 私はアリア嬢がロバーツ子爵領で拾った小さな石を見て、それが金剛石の原石である事に気付いたんだ。

 それで急いでロバーツ領へ行き、子爵の協力の元、金剛石を探していた。

 そして、見つけたんだ。

 金剛石の鉱床を!母岩を!

 我が国では金剛石の採掘は確認されていなかったから、全て他国からの輸入に頼っていたが、ロバーツ子爵領で大量に採掘出来る事になった。

 ロバーツ子爵は大金持ちになった。

 そして私はその金剛石を一手に引き受けて商売することになった。

 私も大金持ちだが、それ以上に陛下から、鉱床を見つけた恩賜に伯爵を叙爵した。

 領地もヒル公爵から没収した分を丸ごと頂いたんだ。

 やっと君と同じ土俵に立てるようになった」


 ザックが一気に捲し立てるので、思わず私は笑い出しました。

「ザック、私こそ貴方に相応しくありませんでした。でも今は自信を持って貴方の隣に立てます」


 ザックは笑って、私に口づけました。

 何て幸せなのでしょう。


 私たちは婚約期間を短くして、春には結婚したいと話しています。

 アリア様からそれなら合同結婚式にしないかと誘われていて、それもいいかと思っています。


 そう言えば、可哀想なノーマン卿は強制労働収容所に出向き、ヒル卿を討ち、仇をとりました。

 私たち野薔薇の会は全力でノーマン卿の情状酌量を願い出ました。

 陛下の温情に寄り、ノーマン卿は一年の謹慎で済みました。


 私やアリア様に子どもが生まれる頃には、

 あのように理不尽な事のない国になっていて欲しいと思っています。


 アリア様も私もとても素敵な幼馴染に出会い結ばれました。

 いつの日か、貴女にも素敵な方が現れますように。




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