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ミシズ探偵譚  作者: ミナセ ヒカリ
File:1 【Group the detectives《探偵団》】
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Page:7 【《理想のシナリオ》】

日比谷「......ごめん、美生」


 30分くらいして、日比谷がボソッとそう呟いた。


 てっきり、5分くらいで目を逸らすかと思っていたが、最後の最後まで我慢強く日比谷は動画を見た。所々で悲痛な面持ちになることはあったが、それでもあの映像を最後まで見ることが出来たのは凄いことだ。俺は途中で見てられなくなったからな。


日比谷「......やっぱり、あいつ許せない。絶対に許さない」


神代「ああ、そうだな!あの野郎はぜってぇに許さねぇ」


日比谷「ただの悪ガキかと思ってたけど、あんたにもあいつに恨みつらみあるんだ」


神代「あったりめェだ!あの野郎に潰された腕と面子だけは何としてでも取り戻す!」


日比谷「うん!絶対にやってやろう!」


 2人とも、お互いに士気を高めあっている。神代の方は微妙であることに変わりないが、日比谷は確実に役に立ってくれる。だから、こうしてやる気を出してくれるのはこっちとしても都合がいいってもんだ。あ、神代には最悪の場合の肉壁になってもらえばいいか。


 さて、やる気は十分、計画は完璧......に見えるが、ここに来て、ある1つの問題を思い出した。思い出さなければ幸せだったかもしれないが、これはちょっと大きすぎる問題である。それはーー


「......証拠の映像、どうやって流すべきか」


神代「あっ......」


日比谷「え?考えてるんじゃないの?」


 神代の間抜けな面と日比谷の疑問符が俺の目に同時に映ってくる。


「ARCWDを使うのが手っ取り早い方法なんだが、全校生徒、それと教師陣に向けて、同時に発信する方法を俺は知らない」


日比谷「そんなの、配信アプリを使うとかなんとかでーー」


「"全員"に"同時刻"に"強制的"に見させたいんだ。それに、配信じゃ、事前に告知をしていたとしても、見る人は少ないと思う」


日比谷「あぅ......」


 クラスLINE......を使うにも、それでは俺達のクラスだけにしか伝えられない。どうにかして全校生徒全員に強制的に見させる都合のいい方法は無いのだろうか?


 考えても埒が明かない。都合のいい方法は聞屋のあいつにでも聞くとして、先に策を詰めるか。


「先に作戦を決めておこう。決行日は今週末の金曜日。この日は放課後に理事総会がある。その直前にあいつの所業をバラすことで、教師共の動きを縛る」


神代「なるほどな。1度きりの勝負だもんな。やるなら1番のタイミングでってことだろ?」


「ああそうだ。全校集会のある再来週の月曜でもいいが、それだと遅くなる可能性もある。この日が1番だ」


日比谷「なるほど。で、私は昼休みにでも放送室の鍵を取りに行けばいい?」


「......仕掛けるのは昼休みにしたいと思ってる。どれだけ時間がかかるか分からないから、なるべく早く回収してきて欲しい」


日比谷「OK。あんた達が来る前に部屋開けとくから」


 時間の打ち合わせはこれでいい。放送を始めたら、その後の台本は俺が考えておこう。


「作戦はそこまで複雑にはしない。後はその場のノリでどうにかする」


神代「お前、意外に几帳面じゃねぇよな?」


「考えるのが面倒臭いだけだ。......だが、やはり、1つしかない問題につまづく」


日比谷「ビデオだよね......どうするべきか......」


神代「機械に詳しい奴だったらいいんだよな?うーん......俺の知り合いにそんな奴いねぇぞ?」


「......」


日比谷「......」


 完全に手詰まり状態。計画は完璧なんだ。そう、完璧である。多少の問題なら臨機応変にって行けるだろうが、俺の理想通りのシナリオを演出するためには、やはり外せない問題なのが証拠映像の流し方である。


 親父達とはこの機械についてあまり話すことをしなかった。それに、俺自身、最近の若い奴としては機械に無頓着なところがある。こんな事になると分かっていれば、嫌でも少しは学んだのだがな。


 どれだけ悔やもうと、四の五のは言ってられない。どうにかして機械に強い奴を探す。それしかない。


「もう一度、聞屋にその辺に強い奴がいないかどうかを聞いてみる。まだ1週間程度は時間がある。必ず見つけだしてみせる」


神代「分かった。そっちは任せる。俺は......筋トレでもしとく?」


日比谷「なんで疑問形なのよ」


神代「いや、だって、俺何もやること無くね?」


「お前はいざという時の肉壁になってくれればいい」


神代「俺の扱い酷くね!?」


日比谷「まあまあ、もし、万が一伊吹が鍵をこじ開けてきたら私達を守ってよ」


神代「俺、右腕壊れてんだけど......」


 ーーその後、数分駄弁ってから俺達は解散した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー翌日。決行日まで今日を含めて3日。


影山「はいはーい。機械に強い人ですねー。ちょいとお待ちを」


 影山はいつも通りのテンションで、何やら真っ黒なファイルをガラス扉の棚から取り出してくる。


「なんだ?それは」


影山「ああ、これですかー?いつか役に立つかもー?って思って、全校生徒の特徴を全部記録してある1冊なんですよー。もちろん、あなたの事もバッチリと記録させてもらいましたよー?本当なら、私からあなたをとっ捕まえて根掘り葉掘りするつもりだったんですけど、あなたの方から来てくれましたから楽でしたよーははは」


 なんだか、ろくな事が書かれて無さそうだな、と俺は思う。


 影山はパラパラと慣れた手つきでページをめくっていき、あるところで手を止め俺のところにまでそれを持ってきた。


影山「機械に強い人ってのはイマイチ見つからないですけど、この人なんてどうですかー?」


 影山が指さしたところに写真付きで書かれている生徒の名前は、『進藤要』。1年-Aで誕生日は4月8日と、パッと見でわかるほどに個人情報が記載されている。1人ずつから聞き出したみたいなことを言っていたが、まさか、こんなにも喋らせるのか?


 と、俺が疑いの顔を向けていると、それを察したのか、影山は罰が悪そうな顔でこう言う。


影山「ああ、この子はなんか、特別なんですよー。普通、聞き出せたとしても名前と趣味くらいなんですよねー。後は、私が執念の追跡をして色んな情報を集めるんですけど、この子だけは私の質問全てに答えてくれたんですよー」


「......」


 俺は、「本当か?」といった具合に睨みを利かせるが、影山はいつも通りのテンションに戻って、「で?で?どう思います?」と聞いてきた。


「......」


 進藤要(16)。誕生日:4月8日。趣味:読書。身長:152cm,体重:48kg。学年成績:5位。得意科目:国語。

 影山メモ:いつ、どこで彼女を探そうにも、必ず図書室で見つけることになる。昼休みや放課後など、授業と休みの日を除いたあらゆる時間において、どれだけ早くに図書室に向かったとしても、必ず奴はそこにいる。そのことから、『図書室の番人』と呼ばれるようになった......


 なんだかバカバカしい説明文だ。何が図書室の番人だ。そんな大それたものじゃないだろう、と鼻で笑いたくなるが、写真に写っている顔が、どうにも涼宮ハルヒに出てきそうな長門の顔をしているため、なぜか本当にそうであるかのように見えてくる。


「まあ、当ては無いし、接触してみるか......」


影山「結果がどうなったか是非とも教えてくださいね!?あ、伊吹先生のことも含めてですよー?」


「......」


影山「あ、何故それを?って顔してますねー?情報屋舐めないでくださいよー?」


 ......いつの間にか、俺達がやろうとしていることがバレてるっぽい?ただの噂好きかと思ってたが、中々に侮れない奴だ。


影山「ではでは~、今回の情報料を~」


 しまった。逃げ出すのが遅れてしまった。


 気づいた時には片腕をがっちりと捕まえられている。そして、影山は笑顔で新刊かと思われる新聞紙をこちらに見せつけてくる。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


神代「やっぱお前、押しに弱いだろ?」


「......今回も安定してつまらない」


日比谷「だよねー。その新聞、私も騙されて1回買ったけど、マジで面白くなかったー」


 神代といつも通りに昼休みを潰そうかと思っていたが、なぜか日比谷が自然な素振りで屋上におり、俺も特に気にするでもなく今回の手土産を神代に渡した。


 神代も、一目見るや否、すぐさま「つまらねぇー」と新聞をこちらに突き返してくる。


神代「で?情報は得られたのか?」


「それに釣り合う量は手に入ったつもりだ」


神代「今回は自信なさげだな」


「あいつ自身、あまり自信は持ってなかった。ただ、そいつなら知ってるんじゃないかってことの情報だ」


日比谷「あんた達がやけに期待してる相手だから、凄い子かと思ったけど、意外に大したことないんだね」


 そう話しながら屋上を所狭しと歩き回り、やがて日比谷は屋上の柵に背を当てて、寒い北風を全身に浴びるように座った。


日比谷「昨日、理事長に美生の容態聞いたんだけどさー、一先ず山は超えたって言ってた」


神代「てっことは......」


日比谷「うん。美生はまだ死んでない。あいつのせいで私の友達が失うことは無いよ」


 日比谷の口調は重い。だけど、確かな力のようなものを感じる。友のために、仇を打とうと力を込めているのだろう。俺もうかうかとしてられないな。後から加わってきた奴の方がやる気が出ているなんて、なんだか俺の立場が無くなるような気がするからな。


神代「なら、ちゃんと清水に勝利宣言出来るよう頑張らねぇとな!」


日比谷「絶対に負けないよ。そのためにも、その図書室の番人さんにはいつ会いに行く?」


「......時間的に明日の昼休みだ。集合場所は図書室前」


神代「なんか力無さそうだな」


「当たり前だ。明日の昼休みともなれば、もう時間は残されていない。もし、進藤が俺達の望み通りの力を持っていなければ、この計画は全て水の泡になる。いや、その場合はどうにかして理想に近い形を作るが、確実性が無くなる」


日比谷「そっか......時間がもう無いんだったね......」


 ......伊吹を挑発するのは時期尚早だったか。いや、あそこは何としてでも問い詰めなければならなかった。のらりくらりとかわされてしまったが、奴が自ら罪を認めるような発言はさせた。全て録音してある。でも、もう少し作戦を詰めてからでも遅くはなかった気がする。


 ダメだな。感情的になると失敗すると分かっているのに、どうにも自分では抑えられないところがある。神代程ではないにしろ、俺もまだまだだな。


「何はともあれ、賭けてみるしかない。図書室の番人こと、進藤要に......」


日比谷「そうだね。やってみなけりゃ何も変わらないもん。あー、どんな人なのかなー?進藤要さん」


神代「図書室の番人だろ?普通に根暗な奴なんじゃね?」


日比谷「そういうこと女子に言っちゃいけなーい」


神代「ただ思っただけのことを言っただけじゃねぇか」


日比谷「思っただけでも女子のガラスより脆いハートにはぶつけちゃいけないの」


神代「えぇ......」


 ......はぁ。イマイチ緊張感の足りないメンバーだ。特に神代。これが失敗したら、俺もお前も、青山も退学なんだぞ?分かっているのか?


 と、言ってやりたいが、そんな事言えば、無駄に緊張していざという時に空回りしてしまうのがオチだろう。黙って俺がシナリオを整えるしかない。


 ーー決行まで、時間にして約48時間。間に合うかどうかは、俺達次第だ。

 視点がずっと主人公のままってのも、なんだか新鮮な感じがするんですよね。常に、主人公1人の気持ちしか伝わらないっていうグラストとは違った書き方してます。

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