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ミシズ探偵譚  作者: ミナセ ヒカリ
File:1 【Group the detectives《探偵団》】
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Page:5 【《血の涙》】

 ーー翌日、昼休み。


神代「なるほどな。弓道部と俺ら以外にも被害者がいたってことか」


「可能性は0ではなかったからな。ただ、暴力方面に特化していたあいつがセクハラだ。何が目的なのかよく分からん奴だ」


 1番分からないのは、なんで俺を狙ったのかってことだがな。本当に不思議だ。あいつがして来た事を調べれば調べるほど、俺に手を出す理由は無いように思える。


 これは、聞屋が集めてくれた情報なんだが、過去に伊吹に目をつけられた弓道部以外の生徒は、他にも何人かいるらしい。しかし、そのどれもが授業や授業外で伊吹といざこざのあった生徒ばかりだという。その点、俺は転校してきたばかりの日は何もしていないし、何の絡みもない。一体、俺のどこに気に食わない部分があったというのだろうか。


神代「とりあえず、今日の放課後青山の野郎をとっ捕まえるってことでいいか?」


「ああ。それ以外に手はない」


神代「口割らせるの大変そうだなぁ......」


「最悪、恐喝するくらいの気持ちでいい。暴力はダメだが」


 聞屋の影山でも話を聞くことが出来なかった青山。なぜ、頑なに口を割ろうとしないのだろうか?バレれば伊吹に暴力を振るわれるからか?それが怖いから俺達には何も話をしようとしない。いや、それは何か違う気がする。


 そもそも、弓道部は結構な数がいるのに、なぜ誰1人として伊吹のことを摘発しないのだろうか?1人が声を上げれば、周りもそれにつられて声を上げれる。でも、奴らはそれをしない。体罰が清水と青山の2人だけなんて線はない。今朝、弓道部らしき生徒の中に、背中に大きな痣を付けている奴を見たからだ。


 考えれば考えるほど深まるばかりの謎だ。せめて、誰かしらでもいいから話をしてくれると助かるんだが、現弓道部で口を割ってくれそうな奴はもういない。完全に手詰まり状態だ。


「......そういえば、監視カメラ......」


神代「カメラがどうかしたか?」


「いや、昨日、進路指導室に監視カメラを設置していたんだ」


神代「なんで?」


「あそこは伊吹のテリトリーだ。何かが撮れるかもと思ってな。後で回収しに行こう」


神代「そうなのか。案外体罰の現場が映ってたりして」


「そこまで上手く撮れるとは期待していない」


神代「まあそうだよな。隣の部屋に誰かいたら聞かれちまうだろうし」


「......いや、隣は面談室だ。余程のことがない限り、あの部屋に人はやってこないはず......」


神代「......もしかして、タイミングが合えば......」


「可能性はあるな。進路指導室に席を置く教頭のいない時間に、生徒を呼び出して体罰。俺が呼び出された時も、確か、隣の部屋の明かりは消えていたはずだ」


神代「......これ、もしかしたらマジモンの撮れてるんじゃね?」


 適当にしかけておいたカメラだが、もしかしたら証拠が取れてるかもしれないと考えると、いてもたってもいられない気持ちになる。早くカメラを回収して映像を確認したい。バレてもいいようにかなり古い機種を使っていたせいで、ARCWDに遠隔で送ることが出来ないのが悔やまれる。こんなことなら、もっといいやつを置いていけばよかった。


 ......昼休みはもうすぐ終わる。確認できるとしたら放課後だ。放課後、伊吹のいない時を測って回収しよう。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー5時間目。


 眠気と戦うことで有名な5時間目。今日は『木村淳之介』先生が担当する日本史の時間だ。


 普段、授業中に眠ることが絶対にない俺でも、流石にこの先生の話し方では眠くなってしまう。


木村「で、あるからにして、伊藤博文は、清にて、暗殺されーー」


 と言った具合に、右手で持つノートにでも書かれているのか、まるで用意されたようなセリフを辿るようにして朗読している。しかも、かなりゆっくりと喋っているので、催眠術でもかけてるんじゃないかと疑うレベルで眠くなる。


 見れば、普段以上に多くの生徒が頭を落としてしまっている。ある種の才能だな、これは。


木村「えー、つまるところー......」


 とか、呑気なことを考えていた時だった。


 急に隣のクラスがざわつき出して、それにつられるようにしてうちのクラスもざわめき出した。


 何事か?と思ってみんなの行動を辿ると、皆、腐肉に群がるハエのように外側の窓に近づき、別館の屋上の方を見上げている。


「......あれは?」


 別館の屋上に誰かいる。しかも、柵をゆっくりと乗り越えてって、まさか......!


日比谷「美生!」


 誰よりも先に屋上の人物の名前を叫び、日比谷が大慌てで教室を出ていった。きっと、止めるつもりなんだろう。自殺を......


木村「おーい!何が何だか知らんが、落ち着け......」


 あんなにおっとりとしていた木村先生も、視界に自殺しようとする生徒の姿を捉えた瞬間、言葉を失った。


神代「おいおいおいおい、何がどうなってんだよ」


 1人、眠そうな眼を擦りながら神代が俺に近づいてきた。こんな時だってのに、お前の頭は能天気でいいな、とは思うが、そんな事を言ってられる場合じゃない。


「清水が自殺しようとしている」


神代「清水......?......あ、あいつ!?」


 ようやく事の重大さに気づいたのか。


 清水......。昨日、聞屋に接近を頼んで、何も得られなかったとだけ伝えられていた生徒。その代わりと言うわけでもないが、日比谷からある程度の情報を得ることは出来た。


 まさか、こんなにも追い詰められていたとは......考えが浅かった。時期的にまだ、死人が出る、いや、出そうな事態になるとまでは踏んでいなかった。


「神代、今すぐ向こうに行こう」


神代「えっ?つっても......、あ......」


 窓に背を向け、俺は日比谷の後を追おうとした。でも、丁度その時、ざわめきがうるさくなり、神代が青ざめた顔をした。


 ......清水が、屋上から落下していた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


神代「おい!てめぇ!知ってること全部ぶちまけやがれ!」


青山「ひっ!し、知らない!僕は何も知らなーー」


神代「知らねぇじゃ済まされねぇんだよ!?人1人死んだかもしれねぇ状況なんだぞ!?あぁ?てめぇもああなるまで黙って耐えてるってのか!?」


 神代が物凄い形相で青山に詰め寄っている。


 ......あの後、授業は一旦中断され、生徒達は全員放課となった。日比谷は落下した清水に近寄り涙を流し、野次馬の中には写真を撮ったり動画を撮ったりする音が聞こえた。全く、他人事みたいに楽しんでやがるな。と、憤りはしたが、俺達にはやるべき事があった。


 救急車のサイレンの音を機に、帰りがけの青山を捕まえて、全てを白状させる。今回は、前回のようにあえて逃がすことなどしない。知っていることを全て話させる。こういうところは神代の専門分野だな。次に、進路指導室に行ってカメラを回収する。これに映っているもの次第で次の行動が決まる。


神代「今日はこの間みてぇに逃がしはしねぇぞ?」


 隙を見て逃げようとした青山の行先に、俺が先回りして通路を塞ぐ。


「話せ。知っていることを全て」


青山「ひっ......」


 完全に挟み撃ちな状況、そして周りには誰もいないし誰も来ることはない。


 その事に気づいた青山の顔から血の気が引き、代わりに観念したかのようなため息をついた。


青山「い、伊吹先生には僕から言ったってこと黙っててくださいよ......」


「お前の態度次第だ」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


神代「伊吹ィ!!!」


 神代が勢いよく面談室の扉を開け、忌々しい奴の名を叫ぶ。


伊吹「何の用だ」


神代「何の用だじゃねぇ!俺達がここに来たってことは何の用か分かってんだろ!あぁ?」


伊吹「知らんな」


 あくまで白を切るつもりのようだ。だが、逃すわけにはいかない。隣で震える青山には約束を破ることになるが、こいつから聞いた話を1個1個確認しよう。


「裏は取れている。あくまで白を切るつもりなら、こちらにもそれ相応の対応をとる」


伊吹「......転校してから日も経っていないというのに、何の用だ」


「お前がやっている体罰についての話だ。ついさっき、投身自殺をして死にかけになっている清水のことを中心にな」


伊吹「清水か......全く、何を考えたかは知らんが、自殺などという不名誉なことをしおって......」


神代「んだとぉ!?」


「落ち着け」


 掴みかかろうとした神代の前に腕を出し、小さな舌打ちを聴きながらも俺は話を続けた。


「青山から話は聞いている。随分と多くの生徒に体罰をしてきたらしいな。しかも、体罰の話を広められないように親まで脅して無理矢理黙らせていたらしいな」


伊吹「知らんな」


 白を切る割には、青山の方を睨んで神代のように小さな舌打ちをしていた。態度に出すぎだ。


「その目はなんだ?まるで、悪い事をした子供が親にバレた時のような目だな。威圧感を演出するならもっと目力を鍛えた方がいいぞ」


伊吹「ちっ......なんの事かは知らんが、教師に対して失礼極まりない態度だ。もういい。お前ら全員退学だ」


神代「口封じって訳かよ!」


伊吹「どうとでも取れ。青山、お前もだからな」


青山「ひっ、な、なんで!」


伊吹「理由は分かっているはずだろ」


青山「......」


 ......俺達は、伊吹の忌々しげな目を後目に、この部屋から立ち去った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


神代「クッソ!あいつ、何なんだよ!」


 神代が八つ当たりするように自販機の壁を殴るが、流石に鉄壁は硬いらしく、神代は情けなく左手の拳を押さえた。


「......」


神代「しかも、退学させるだとぉ!?んな事、あいつの一存で出来るわけねぇだろ!」


「ああ、出来ない。でも、奴にはそれが出来る理由があるんだろう」


神代「......そういや、カメラ回収したんだよな?」


「ああ、ここにある」


 俺は鞄から四角いデジカメを取り出し、神代に見せつける。


 まだ中身を確認していないが、進路指導室の床には若干の血が散っていた。多分、清水のだろう。チラとしか見えてはいないが、投身自殺をした清水の顔には、なぜか鼻の辺りにガーゼがあった。殴られたところが悪かったんだろうな。だが、あの傷を医者が不自然に思ってくれれば、きっと何かしらが起きると俺は信じている。


 だけど、大人達の動きはナマケモノが木と木の間を移動するよりも遅い。俺達が早くに伊吹の所業を解決しなければならない。追い込まれ、自殺を選んだ清水のために、今も尚、息を吹き返すと信じる日比谷のためにも。


「これからビデオを流す。何か映ってても、感情的になるなよ」


神代「分かってるって」


 ビデオカメラの小さな画面を覗き、俺は撮れていた映像を1つ1つ確認する。


 倍速で進めるも、ほとんど何も変わり映えのない映像が続いたが、やがて窓の外が夕焼けに染ったかと思うと、伊吹の姿が映り込んできた。


神代「あっ、あの野郎......」


 伊吹は仁王立ちするかのように窓の前に佇んでいる。そして、数分と過ぎた後、見覚えのある男子生徒の姿が映り込んできた。間違いない、青山だ。


 音はよく撮れなかったのか、小さくてよく聞こえない。しかし、青山と伊吹が何かの会話をして、伊吹がARCWDを使って誰かと電話を始めた。時間的に、多分日比谷だろう。丁度俺が薄暗い路地裏で日比谷と遭遇したあたりだ。


 そうして数分後、伊吹が諦めたかのように首を振り、そして青山に何かを言った。青山は首を横に振るが、すぐさま伊吹に拳を振るわれ、青山は咄嗟に身を屈めて背中にその一撃を喰らった。青山を捕まえた時、背中に新しい傷が増えているな、と思ったがこれだったのか。


 青山はその一撃を気に、観念したかのような顔をして部屋を出て行った。それから倍速を使って数秒後、新しく扉が開き、今度は清水が入って来た。清水が入って来た直後、伊吹は何も言わずに清水の顔を殴った。


神代「っ!あの野郎!」


 青山の時は数分話してからの体罰だったが、清水はいきなり殴られた。......恐らく、日比谷との電話が絡んでいるのだろう。


 ......これ以上は見てられない。俺はビデオを閉じ、深呼吸をした。


「......必ず、あいつに罪を償わせよう」


神代「あったりめェだ!あの野郎は絶対に許さねぇ!絶対に清水の前に引きずり出して土下座させてやる!」


 ......俺も神代も躊躇う理由はどこにも無くなった。いや、神代の方には最初から躊躇いは無かった。躊躇っていたのは俺だけだ。だが、この映像を見て、そして日比谷の涙と清水の覚悟を目にして、俺は黙っていられなくなった。この事件、何がなんでも解決してみせる......!

 展開早いっすねぇ。まあ、いつまでもgdgdさせるのは好きじゃないんで。

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