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ミシズ探偵譚  作者: ミナセ ヒカリ
File:1 【Group the detectives《探偵団》】
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Page:3 【《聞屋の手掛かり》】

影山「色々と見つかりましたよー!あなたの噂話ー!聞きたい?聞きたいですか!?」


「時間が無い。早くしろ」


影山「わっかりましたー!」


 ......正直、こいつとの付き合いは、この謎を解いたら一切合切を無かったことにしたい。ただただ喧しい奴は嫌いだ。それでも、この謎を解くまではこいつに頼らなければならないことを考えると、思わずため息が出てしまう。


影山「えーっと、まず噂の詳細ですねー。始まりは一昨日の午後三時過ぎ、とある生徒が噂を広めることで有名な女子生徒にこの話を流したらしいですよー。『転校生の清宮が伊吹に喧嘩を売って、しかも神代と一緒に悪さをしてる』っていう内容です」


 神代と?そんな話は聞かなかったな......そう言えば、あの音声ファイルはぷつりとテープを鋏で切ったかのように不自然な途切れ方をしていた。まさか、神代も噂されているということを隠していたのか?


影山「いやー、噂を流すので有名なのは私だと思っていたんですけど、この学校思った以上に広いですねー」


「感想はいい。続きを」


影山「はい!で、その噂好きの女子生徒からどんどん学内に噂が広がっていき、今では全校生徒の9割が知っている状況です」


 ......通りで今朝から視線が痛かったわけか。これは、早々に解かねばならなさそうだ。


「で、噂を流し始めた生徒ってのは分かるのか?」


影山「はい!そこも抜かりなくですよ!」


 良かった。それが分からなければこいつに頼った意味がなくなる。


「それで、誰なんだ?噂を流した奴は」


影山「えっとですね......青山晴太君です。多分、間違いはないと思います」


「多分?」


影山「えっとですね......私、その人のこと全然知らないんですよね......。この学校の生徒は隅々まで知ってるつもりなんですけど、その人だけ名簿を見直さないとクラスが分からない程私の頭からすっぽりと抜けていたんです」


 ......こいつの記憶力と情報量がどれくらいかは知らんが、多分、影の薄い奴なんだろう。でも、そんな奴がこの噂を流し出したとは考えられないな。


「なあ、そいつ、弓道部員とかじゃないのか?」


影山「よく知ってますねー。そうですよ。青山君は弓道です!」


 なるほどな。ちょっとした疑問はすぐに弓道部へと導かれるわけか。


「よし」


 早速神代と話をしよう。そう思って部室から出ようとした俺の腕を、またしてもこいつがガッチリと掴んできた。


「何の用だ?金ならやらん」


影山「私にここまでの情報収集をさせたんですから、タダでは返しませんよー?」


「......はぁ。何がお望みだ」


影山「いえいえー。今後とも新聞部をご贔屓にしていただければなーっと」


 奴はお手製?の新聞紙をヒラヒラとさせてこちらを見ている。


「......」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


神代「何だそれ?」


「買わされた」


 俺は下手に作られた新聞紙を持って、冬の冷たい風が吹く屋上へと上がってきた。すると、もう特等席であるかのように神代がおり、俺は新聞紙を握る手を挙げて軽く会釈した。


神代「なるほどな。ってか、押しに弱すぎかよ」


「余計な時間を取りたくなかっただけだ」


神代「へぇー。んじゃ、それなりの収穫はあったのか?」


「ああ。少なくとも、これに釣り合う量は手に入ったと思う」


 新聞の内容をチラリと見てすぐに閉じる。あいつの情報量は凄かったが、肝心の新聞は伝えたいことを山ほど書きすぎて、逆に何を伝えたいのかが分からない薄い新聞になっている。面白くないな。


「まず、噂が流れ始めた頃だが......いや、それは知ってるのか」


神代「ああ。なんせ、お前が転校してきたその日に知ったからな」


「......お前、俺に隠してたことがあっただろ」


神代「......そうだな。正直に話すと、ただ単にお前なら俺の味方になってくれて、それで一緒に伊吹の野郎を追い出してくれるかと思ってたんだよ。都合良くお前と俺がゴッチャになった噂が流れてたしな」


「なるほど。お前にはお前の利益があって俺に近づいてきたわけだな」


神代「まあ、そうなるな。多分、こんな噂が流れてなかったら、昼に話したきりで俺達の関係は終わってたと思うぜ」


 だろうな。でなければ俺はこいつと話をしたこと自体忘れていただろう。......なんとも神代にとって都合よく流れ始めた噂だが、多分、こいつ自身があれこれ計画してやり始めたことではないと俺は思う。なぜなら、聞屋がこんな事を言っていたからだ。


 「あまり神代君とつるまない方が良いですよー?彼、色々とヤバい事件起こしてますから」


 少しだけ神代に関する質問して、聞屋からは「確かにそんな事件はありましたー。彼、あの時に右腕を骨折してましたよー?結構派手に」という情報も得られた。


 もしかしたら、今回のことは作り話って説も無くはないが、伊吹が裏で体罰をしているのは確定している。俺の目がそういう風に見ただけだが、神代は左利きじゃないのに左手を使っている。治ってはいるのだろうが、まともに右腕が動かせないのだろう。ここら辺について言及するのは後にしておくが、神代の為にも伊吹を何とかしたいと俺は思う。


 だって、神代はもう......いや、そんな事はどうでもいいな。


神代「で、まさかとは思うが、得られた情報はそれだけか?」


「......いや、もう1つある。噂を流し始めた張本人だ」


神代「へぇー。そんなとこまで分かるんだな。聞屋って」


「ああ。この情報があるとないとじゃ、俺達の動きはかなり変わってたと思う」


神代「で、誰なんだ?噂を流した張本人は?」


「青山晴太。1年-Cの弓道部員。俺達と同じクラスだな」


神代「青山......?そんな奴聞いたことねぇな」


「聞屋も似たようなことを言っていた。影の薄い奴なんだろう」


神代「確かに、クラスに一人くらいはいそうだからな、影の薄い奴。でも、弓道部員か......」


 今回問題になっている部活。そこの部員であるというだけで色んな疑いが出てくる。


神代「よし、放課後締め上げてみるとするか!」


 それが1番だろうな。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー放課後。


神代「おいコラてめぇ、俺らのこと、あることないこと散々言いふらしたらしいな?あァ?」


 こうして見ると、神代はただのファッションヤンキーではなくガチのヤンキーに見えてくる。それくらいには様になっていたが、少々やりすぎだと思い、俺は神代の腕を掴んで落ち着かせる。


 神代の胸倉掴みから開放された青山は、ゲホッゲホッとわざとらしく咳をし、こちらを睨んだ。


青山「......僕は何もやっていませんよ。あなた達にとって悪い噂が流れたからって、何も関係のない僕を巻き込まないでください」


神代「んだとォ?」


 やれやれ......このままじゃ本当に傷害を起こして退学になりかねないな。そんな事になると、俺が困る。だから、俺は神代を引き剥がし、無理矢理青山の前に立つ。


「新聞部から裏は取れている。正直に話せ。その痣のことも含めて」


青山「っ!?」


 気づかれないと思っていたんだろうな。だが、不自然なまでに左手で右腕を押さえていれば、深く考えなくとも何かしらの怪我をしていると分かる。オマケに、神代が胸倉を掴んでいた時に、一時的に左手と右腕が離れてしまったため、体操服の上から若干青色に膨れ上がったものが見えた。あれは見間違いではない。確実に大きな痣だった。


「俺達は伊吹がやっていることを突き止めて、あいつをどうにかしようとしている。お前の情報、いや、証言が必要だ。話してくれないか?」


青山「......本当に、何も知らないんです。さよなら!」


神代「あっ!待っーー」


「いや、いい」


 逃げ出した青山を、神代が追いかけようとしたが、俺は肩を掴んで無理矢理この場に留まらせる。


神代「何でだよ!あいつ、絶対なんか知ってるだろ!?」


「ああ。俺もそう思う。だが、ここで泳がせるのもありだと思う」


神代「泳がせる?青山をか?」


「正確には伊吹の方だ。あいつは、確実に俺達のことを報告するだろう」


神代「だろうな。なんか、自分助かればそれでよしみたいな感じしてたし」


「だから、それを利用する」


神代「はぁ?何言ってるかサッパリ分からねぇよ!」


「そのうち分かる。今日は解散だ」


神代「あ、ちょっ、待てよ!」


 神代の叫びを無視し、俺はそそくさと鞄を持って教室を後にした。


 青山のあの痣。ただ普通に殴られただけで着くような痣ではなかった。それに、手にはやたらとテーピングが巻いてあったし、足にもところどころに小さな痣があった。腕の痣は、多分、この季節柄長袖を着ることが多いからバレないと思われていたんだろう。俺の目にはバレバレだったが。


「神代、明日は昼から来い」


神代「言われなくてもそうするつもりだが、なんかあんのか?」


「いや、何でも」


 とりあえず、事が動くのは明日になりそうだ。最悪の場合、職員室に呼び出されるかもしれんが、そうなった場合は臨機応変に対応しよう。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー翌日。


(あ、来た来た、噂の転校生)


(ヤバいよね?まさか神代君とつるんでるなんて)


(しかも相当タチ悪いよ。イケメンに見えてたけど訂正。ただの最低野郎だわ)


 朝、教室に入ると女子達からの視線が痛く、わざと聞こえるように言うヒソヒソ話が俺の耳に届いてきた。


 ......その手で来たか。


伊吹「清宮、話がある」


 タイミングを測ったようにして伊吹が登場し、転校初日に見た穏和な顔と打って変わって厳しい顔で、俺を呼び付けた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


伊吹「いいか、清宮。初日、いや、前日に言ったはずだ。問題になるようなことはするな、と」


「ええ。聞いてましたよ。何かありました?」


伊吹「......自覚が無いとは救いようがないな、お前」


 ......ここで噂のことについて聞くのもアリだとは思った。しかし、証拠が何も掴めていない状態で、変に探りを入れるようなことはしたくない。なぜなら、この伊吹は賢いからだ。今日、ここに呼び出したのは、先に釘を刺すためだろう。もちろん、俺はそれを読んでいた。読んではいたが、別の噂を流されるのは想定外であった。


 確固たる証拠が掴めるまでは泳がせろ。変な気を起こさせるな。


「それで、なんの用です?」


伊吹「ちっ、お前、自分が何をやったのか知ってるのか!」


「知りませんが」


伊吹「知らないなら言ってやろう!お前、神代とつるんで、女子更衣室を覗いてたらしいな!既に複数の証言が、出ている!言い逃れは出来んぞ!?」


 なるほど、神代と同じ手法で来たか。面白みのない奴だな。


伊吹「全く......神代の奴、少しは反省したと、思う思ったんだが、まさか転校生を、仲間にして、同じことをするとはな......」


 ......?気のせい......だろうか?


 今、妙に歯切れが悪いというか、なんというか、何か、妙に言葉がたどたどしいように感じた。強いて言うなら、"台本を読んでいる"ような気がした。


伊吹「今なら、認めれば許して、やろう!」


 やっぱりだ。変なところで言葉を区切っている。それに、やたらと目線が机の下に向かう回数が多い。


 予め用意したセリフでも読んでいるのか?......いや、この話だけにわざわざ言葉を用意しなければ話せないなんてことはないだろう。それこそ、実はかなりのコミュ障だったとか、そんなオチでもない限りは。でも、初日にこいつと職員室でやり取りをした時、全くもってそういった気配は感じなかった。


 ......何かあるな。そう考えるのが妥当だろう。


伊吹「おい!聞いているのか!」


「ええ。聞いていますよ。随分と無いこと無いこと吹き込まれているそうですね」


伊吹「なんだと!?」


「相手が学生だからって舐めない方が身のためです。それでは僕はここで」


 そう言って、呆気に取られる伊吹を置いて俺は部屋を出て行った。扉を閉めた時、たまたま『進路指導室』と書かれたプラが見えた。確か、別館の方だったか。考え事をしながら歩くのはよしといた方が良さそうだ。変なところに連れ込まれる可能性も無きにしも非ずからな。


「証拠だ。何でもいいから証拠が欲しい」


 動かぬ証拠さえ押さえれば、後はまともな頭脳を持った人達が正しい方向に導いてくれるはずなんだ。だから、証拠が欲しい。


 ......やはり、もう一度青山を捕まえるしかないか。

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