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ミシズ探偵譚  作者: ミナセ ヒカリ
File:1 【Group the detectives《探偵団》】
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Page:2 【《友達》】

 ーー5時間目。


 満腹になった生徒達が1番地獄だと思うこの時間。特に、今日は数学だからかなりきついだろう。さっきから何人もの生徒が寝落ちし、その度に『矢島誠』先生に怒られている。まあ、それだけなら特に問題はないのだが、この先生、人によって態度がかなり違う。まあ、酷く怒られているのは普段から不真面目な生徒に限っての話なんだろう。


矢島「はぁ。全く、お前ら最近の若いもんは根性が足らん。いいか。学校の授業なんて社会に出たら意味のないものばかりだ!しかし、ここで積み上げてきたもの全てが社会に出て必要になってくる。授業を真面目に聞く姿勢、先生を始めとした年上を敬う姿勢。そして、真面目に生きる姿勢だ。最低限この3つをマスターしておけば社会はどうとでもなる!」


(出た。いつものやつ......)


 目の前の女生徒がボソッとそう呟き、矢島もそちらを睨みはしたが、特に何も言わずに目を逸らした。


矢島「ところで清宮。お前は久しぶりに根性のあるやつに見える。俺が今言った3つの姿勢には、もう1つ大事なものが付け加えられる。それは何だ!」


「自ら動く姿勢」


矢島「!?......あ、ああそうだ」


 ......昔、親父がよく言っていた言葉だ。やたらと古臭くて嫌っていたが、謎に覚えていて良かった。まあ、ここで詰まったとしても特に何もなかったとは思うがな。


 それにしても、この数学の時間、やたらと生徒達が静かになるな。5時間目っていうのもあるのだろうが、不気味なくらいに静かだ。どのくらい静かかと言うと、噂が立っている伊吹の国語よりもあっとうてきに静かだ。特に何もないとは思うんだけど......


 俺が前まで通っていた公立ではこんなことはなかった。ただ単にこの学校がこんな感じなだけなのかな?とは思うが、神代の話もある。少し、この学校に疑いを持っていた方が良さそうだ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー放課後。


 放課後の時間は色んな生徒が部活に行ったり、帰路につくという名目で東京の街を遊び歩いたり、と人によって様々な行動をする。かく言う俺は、友達もいなけりゃ入りたいと思う部活もない。ただ、そんな俺に声をかけてきた奴がいた。


神代「お前、放課後暇か?」


「......誰だ?」


神代「いや、昼に話しただろ」


「そうだったか?」


神代「お前、それは酷ぇよ」


「冗談だ。それで、何の用だ?」


神代「いや、これからちょっと付き合ってくれねぇか?」


「部活は?」


神代「俺の話ぶりからしてとっくにやめてると思うだろうが」


「それもそうか」


 まあ、何かと事情があったっぽいし、やめていて当然なのか。それにしても、転校してすぐの俺に対して馴れ馴れしすぎないか?何か狙いでもあるのだろうか?


神代「ここじゃなんだし、飯屋にでも行こうぜ」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そうして、俺は神代の後をついて行き、『吉野家』と看板のぶら下がる牛丼チェーンに足を踏み入れた。俺はすき家派なんだけどな。というか、地元にはすき家しかなかったし......


神代「あ、奢ってやるから好きなもん頼めよ」


「じゃあ、黒毛和牛すき鍋膳で」


神代「クソ高ぇ奴じゃねぇかよ!もっと遠慮しろよ!」


「だって好きな物って言うから」


神代「確かに言ったけどさ、それは程々に遠慮しろよって意味も込めてのもんだろうが!つか、夕飯前なのにそんなに食えんのかよ」


「いや、食べれないよ。牛丼だけにしとく」


神代「お、おう......」


 きっと、こいつは俺の態度に色々と驚いてるんだろうな。親父達にも言われたことだが、俺は無表情なのに言葉に感情が乗りすぎているらしい。俺自身としては普通の喋り方だと思っているんだが、周りから見れば不気味なやつに見えるんだろうな。そのせいか、友達はあまり出来なかった。0ではない。


「お待たせ致しました~」


 注文してからものの数分で肉のいい香りがする牛丼が運ばれ、俺は早速それに箸をつけた。


「それで、ただ牛丼食いに来ただけか?」


神代「はむ、もぐ......ゴックン。ああ、そうだったな。実はお前に聞いてほしい話があるんだよ」


 神代は口いっぱいに米と肉を頬張らせてから話を始めた。


神代「お前、早速学校で良くねぇ噂が流れてんぞ」


「噂?」


 またそれか、と思いはしたが、俺の噂であるという部分は聞き逃せなかった。


「どんな類の噂だ?」


 俺は箸を置き、両手で組んだ手の甲に顎を乗せて神代の話に耳を傾けた。


神代「大したもんじゃねぇって言ってやりてぇんだけど、どうにも穏やかじゃねぇ噂なんだ」


「お前のと似たタイプのやつか」


神代「ああ、大体そんな感じだ。ちょっと俺が聞いて録音したやつ送るからアークワズ起動させろ」


 そういうことなら仕方ない。嫌ではあるが、事の真意を確かめる必要があると自分に言い聞かせ、俺は例のデバイスを起動させる。すると、すぐに神代から音声ファイルが送られてきた。


 早速それを起動し、俺はARCWDから流れてくる音に耳を傾ける。


「ねぇねぇ知ってるー?」


「知らなーい」


「そこは何がって聞くところでしょうが」


 女子高生の声だ。それも、なんか聞いたことがあるな。


 誰の声だったかを思い出そうとしたが、今はそんな事をするべきではないと考え、聞こえてくる音だけに意識を合わせた。


「ねぇねぇ、あの転校生のことなんだけどー」


「あのイケメン?」


「そうそう。あの子、見た目に依らず中々に大胆なことするらしいのよねー」


「何かやらかしたのー?」


「それがさー、国語の伊吹先生に喧嘩ふっかけたらしいよー」


「えぇー?マジー?」


「マジマジー。ヤバくない?あんな優しい先生に喧嘩ふっかけたんだよー?」


「肝が座ってるってより、ただのバカなのかなー?」


 そこで音声はぷつりと途切れた。


神代「聞いたか?」


「ああ。偏差値の低そうな女があることないこと喋ってた」


神代「口悪っ!ってそれはどうでも良くて、どう思う?」


「......俺は伊吹に喧嘩を振った覚えはない。朝だっておちょくるようなことはしたが、挑発して来たように見えるものじゃないし、授業中も真面目にノートを取っていた。それに、朝と授業以外では奴と顔を合わせていない」


神代「だよな。転校初日で、更に俺の話聞いたお前が、まさかすぐに喧嘩ふっかけるはずがねぇもんな」


 ......所詮は噂。それに、神代と違ってこれからの学園生活に直接影響しそうな内容ではない。しかし、転校初日でこんな噂が立つのは不気味だ。火のないところに煙は立たない。必ず、どこかからこの噂は広がり始めたはずだ。


「噂好きの生徒って知ってるか?」


神代「うちの学校にいる奴は大体噂好きだ。あー、でも新聞部のあいつなら話は別かもなー」


「......明日、そいつに聞いてみよう」


神代「あんまりオススメはしねぇぞって行動早ぇな」


「お前のようになりたくないだけだ。ご馳走様。俺、電車があるからこの辺にする」


神代「おう。また明日な」


 まさか、転校初日からこんな事が始まるとは思わなかったが、どうせ根も葉もない噂だ。すぐに消えてくれる。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー翌日。


 昼休みを告げる鐘が鳴り、俺は1人新聞部員らしき女生徒に声をかけた。


「ぇぇー!?転校生のあなたが初日から、あの伊吹先生と喧嘩ー!?」


「声がデカい」


 耳がキーンとなりそうなくらいに高い声を上げた新聞部員のこいつの名前は『影山静香』。神代がオススメしないと言っていたが、なんとなく理由が分かった気がした。


影山「いやはや、まさかそんな噂が立っているとはー......新聞部の私でも知りませんでしたよー!で、噂の出処は?」


「それを知りたくてここに来たんだ。だが、知らなさそうだな」


 用は無くなった、とばかりに俺は新聞部の部室から退散しようとした。すると、腕をガッチリと掴まれてこの場を動くことが出来なくなった。


影山「1度聞いた噂は逃しませんよー?」


「お前は知らないんだろ。だったら、俺から用は何もないんだ」


影山「そんなつれないことを言わないでくださいよー。あなたがその噂を否定するというのであれば、私、全力で協力しますからー」


「いい。1人でどうにかする」


影山「できるんですかー?転校したばかりで右も左も分からないあなたがー?」


「......」


 痛いところを突いてくるな。仕方ない。このままでは昼休みが終わってしまうから、話を聞いておくか。


「仕方ない。俺の噂を学校の奴ら全員が信用しないようにしてくれるのなら、お前の趣味に付き合ってやる」


影山「やったー!では、私なりに色々集めてきますんで、暇な時にでもこの部屋にやってきてくださーい。今のところ、新聞部私しかいないのでー!」


 そう言って、影山は元気よく部室を飛び出していった。まあ、この謎が解決するまでの間だし、何も問題はないか。


「......」


神代「どうだった?あいつ」


 俺が部室から出ると、すぐそこに構えていた神代が右手を上げて近づいてきた。


「お前の言っていた通りだ。だが、少し使えそうではある」


神代「マジか。お前、どうやったんだよ?」


「何も。ただ、噂話の原因を突き止めて欲しいとお願いしただけだ」


神代「普通の奴らだったら、『それくらい自分で調べてくださーい』って突っぱねてくるor金をせびってくる情報屋なんだがな」


 とんでもない奴だ。下手すれば恐喝紛いのことをされてたかもしれないのか......。


神代「で?今日はどうするよ?」


「もっと情報が欲しい。お前が知ってる伊吹についてをもっと詳しく話せ」


神代「そういうことなら屋上だな」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


神代「以上が、俺が知ってるってか伊吹から受けた仕打ちだ」


「ふむ......」


 聞けば聞くほどに態度が180°違う奴だと感じる。


 伊吹翔真(28)。

 国語科担当、今年この学校に転任してきた若手教師。弓道の腕は達人級で、大学生時代に何度も優勝した経験がある。それのお陰か、現弓道部の顧問でありコーチ。


 ネットで検索して出てくるのはここまでだ。これ以上を知りたければ、それ相応の技術が必要になってくる。が、そんな事が出来るほど俺は賢くないので、ちょっと手詰まりに近い状態になっている。


神代「俺も騙されたぜ。初めの頃は『君には才能がある!』とか何とか生やし立ててよ、それで高校最初の大会で俺が優勝出来なかったからって、その次の日から当たりが強くなってって......たったの1回、それも入ってすぐの大会じゃねぇかよ。なんでそんなもんで目ぇ付けられなきゃならねぇんだよ!」


「知らない。だけど、確実に言えることが1つある」


神代「あ?なんだ?言えることって」


「お前が弓道部を抜けたことにより、別の奴がターゲットにされてる可能性がある」


神代「嘘だろ?まさか、常にシバキ上げる奴がいねぇと気が済まねぇ奴だって言うのか?」


「ただの勘だ。だけど、転校初日の朝、伊吹のところに行った時に怒られている女子生徒を見たんだ」


神代「名前とか分かんのか?」


「確か、清水とか呼ばれていた気がする」


神代「そいつ、弓道部だ」


 ......勘ではない可能性が高くなったな。


「今のを聞いて確信が持てた。弓道部には今も隠されている体罰がある」


神代「マジかよ!?ってか、今の話だけでよくそこまで確信持って言えるな!」


「確信を持っているわけじゃない。でも、お前を陥れ、次は俺をターゲットにしようとする伊吹の真意を探る必要がある。ただの噂話でお前みたいになるのは嫌だからな」


神代「だよな。本当、許せねぇ......伊吹の野郎」


 ......1番最初に声をかけてきてくれたのが神代で良かったと思う。なぜ、こいつが転校してきたばかりの俺に目をつけたのかは知らないが、一見不良に見える彼は、彼なりの正義と情を持っている。彼の行いに感謝はするが、口に出して言うのはまだ先の話だ。


 まずは、この不気味な噂話を解決する必要がある。そのためには情報が必要だ。明日辺り、もう一度聞屋のところに行ってみよう。

いつものキャラ紹介は、File:1終わってからします。

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