Page:25 【《死神の鎌》】
神代「いや、俺てっきり槍にするかと思ってたんだけど……」
「確かにあれも候補として考えた。でも、魔法が使える世界なんだから思う存分魔法を使った方がいいだろう」
というわけで、俺はキャラが育ってないうちは使わない杖を選んだ。理由は今述べたように、どうせ魔法が使えるんだったら思う存分使いたいという気持ちからだ。
「それに、ジョブを魔導士にしたら魔法の習得に必要なポイントも安くなる。4属性攻撃魔法と回復魔法、あとは敵への弱体化魔法も習得済みだ」
神代「準備が早ぇな!」
「ただ、スキルポイントがあと2しかない。まだ習得したい魔法が多いからレベリングに付き合え」
神代「結構乗り気だな!まあ、そっちの方が俺も嬉しいけど!」
まあ、狂ってもゲームだからな。楽しまないと損だ。多分、今の俺の顔は何1つとして笑っていないだろうが、心は少しだけワクワクしている。
ーーというわけで、ある程度俺が育ったので、今度は中級以上、上級未満の良い感じのダンジョンに潜り込んだ。神代曰く、ここは前々から目を付けてたが、1人じゃ攻略が難しいらしい。上級の方は勝手に人が集まるからいいけど、こんな中途半端な場所は報酬もマズイらしいから誰も来ないとのこと。
「とは言っても、道中は楽だな」
杖を振り、敵を一撃で蹴散らす。魔法はMPを消費する代わりに、通常攻撃自体がかなり強くなっているらしい。上級者は、スキルを使わず通常攻撃だけで敵を倒すんだってさ。魔法の良さを全て潰してるな。
神代「まあ、道中は中級ダンジョンの敵と大して変わらねぇからな。問題は、ボスの方だ」
あっさりと道中を突破し、ボス部屋の前に辿り着く。結構厳重な感じのする重い扉を開け、ボス部屋に足を踏み入れる。
神代「死の番人・ニュクスユニバース」
死神みたいな名前をしているが、武器は何も持っていない。代わりに、十字架の刻まれた棺桶みたいなものが翼みたいに広がっている。
神代「呪系の魔法ばっか撃ってくんだけどよ、レイドボスだからHPが無駄に高くてジリ貧になって死ぬんだよ」
「1人じゃ攻略は無理だな」
神代「まあ、結構レベル上げりゃ行けるんだけど、その頃にはもう報酬のマズさから誰も行かねぇからな」
「そんなに不味いのか」
神代「ああ。道中の敵もそんな経験値無かっただろ?報酬もマズイ、レベリングも出来ない。誰も来ねぇよ!でもな、俺はこいつを倒してぇんだ!行くぜ!ソードスラッシュ!」
神代は勢いよくボスに突っ込んで行ったが、すぐさま棺桶の1つが開いて赤く光る呪い攻撃で返り討ちにあった。
「……お前、このダンジョンに挑むの何回目だ?」
神代「30回目……」
なら、最初の行動パターンくらい覚えておけ……。基本そういう風に作られてるだろ。
神代「まあ、実はこの攻撃喰らったのはわざとでさ、実は最初の呪いが1番弱くて、それ喰らってたら他の呪いは効かねえんだよ」
「ちゃんと考えていたのか」
神代「ああ。スリップダメージがちょいと痛いさぇけど、お前が回復魔法使えんならそれで十分だ!続けて行くぜ!」
神代が連続で攻撃を仕掛ける。だが、HPはなんか減っている気がしない。……HP……200万?そして、神代の通常攻撃は1発辺り200。1万回攻撃でもするつもりか?
神代「海翔も攻撃してくれよ!流石に1人でやるのはキツいんだって!」
「分かった。ブリザード」
杖を前に向け、氷属性の魔法で攻撃する。すると、ダメージ判定の色が緑色になって、若干HPが回復したように見えた。
いわゆる属性吸収というやつか。なら、次は炎属性で攻撃してみよう。
「フレイム」
今度はダメージがちゃんと入ったが、黄色の判定色が出て、神代の通常よりもダメージの値が小さい。
氷は吸収、炎は耐性あり。なら、雷魔法は?
「サンダー」
今度は通常の赤よりも濃い赤色で表示され、ダメージも1000とかなり高い数字を叩き出した。
雷属性が弱点と。なるほど。普通に面白いな、魔法。
「サンダー」
続けて攻撃する。しかし、今度は800とダメージが下がった。
神代「魔法は同じのを連続で使ったら威力が下がる!普通は、上位の魔法と下位の魔法を交互に使うもんだぜ!ソードダブルスラッシュ!」
なるほどな。なら、まだ試してないもう1つの属性で行こう。
「シャイン」
それを撃った瞬間、ボスが急にダウン状態になった。ダメージも3000と、青色の太い文字でそう表されている。
神代「特大弱点じゃねぇか!ナイスだ海翔!」
ダウンしたボスに対し、神代は武器を斧に切り替えて1発1発が2000、3000を出せる攻撃を繰り出している。俺もサンダーとシャインを交互に使い、ダメージを稼ぐが、すぐにMPが底を尽きる。回復薬は10個。大切に使わないとな。
そんなこんなでタコ殴りタイムも終わり、ボスのHPが20%くらい削れる。1回のチャンスでこれだけとは、あと5回もやらないといけないのか。めんどくさいな。
「シャイン」
もう一度ダウンを取ろうと魔法を放つ。すると、棺桶の1つが開き、魔法が反射される。
「っ……!?」
反射された魔法はこちらにダメージを与える。HPが半分ほど削れた。
神代「パターンが変わったんだ!こっからしばらくは遠距離魔法が反射されるぜ!」
なるほどな。つまり……
「神代、20%頑張れ」
神代「おう!って、回復魔法くらいは飛ばせよ!?」
「分かってる」
まあ、そんなこんなで2段階目のパターンはそこまで攻撃が激しいわけではなく、神代1人で20%まで削れた。その後の3段階目はまたシャインでダウンを取り、あっという間に20%を削りきった。
今のところ苦戦は無いが、それは俺がダウンを取れるから1段階目、3段階目の攻撃を阻止出来てるのだろう。
神代「いやぁ、お前が魔法でダウン取ってくれるから結構楽だわ。いつもだったらここまで1時間はかかるんだぜ?」
逆に1時間も戦えるのか、お前は。
「……暇してるな」
神代「暇だからやってんじゃねぇよ!」
「でも、お前事実暇だろ」
神代「うぐっ……。ま、まあそうだけどさ」
さて、ここからは4段階目。
4段階目は物理も魔法も反射をしてくる。ただ、反射したタイミングでもう片方の反射が無くなるので、その隙をついて攻撃するらしい。神代はここまで来て詰んだらしい。魔法を1個も習得してないらしいからな。
「1時間の作業お疲れ様だ」
神代「本当にその通りだよ。ただ、今回はお前が魔法でダウン取れるんだ。俺が攻撃するからその隙頼むぜ!」
そう言うと神代はボスに軽く通常攻撃をする。すると、ボスは大袈裟なまでにカウンターをする。そこに俺がシャインを撃つが、ボスはダウンしなかった。代わりに、ゲージみたいなものが区切りを2つ付けた状態で現れ、1つ目の区切りのところまで青色のゲージが埋まった。
「3回目まで埋めれば何かが起こるということか」
その後も神代が攻撃を仕掛け、大袈裟なカウンターの隙にシャインを撃つ。ただ、連続して放つ魔法は弱いということもあり、ゲージは区切りの半分までしか溜まらなかった。
次はサンダーで攻撃し、区切りの部分まで青色のゲージを埋める。次のシャインで満タンになるな。
神代「海翔!最後の1発頼むぜ!」
「おう」
まあ、ボスのHPはまだ40%もあるんだがな。
神代の攻撃に合わせ、シャインを撃つ。ゲージが満タンにまで溜まり、敵のHPが一気に20%まで削れた。それと同時に、禍々しいオーラを放ち、乱雑な攻撃を大量に放つ。
俺も呪いを1発喰らってしまい、移動速度が極端に遅くなる。回避行動が難しくなり、その後、2発ほど別の呪いも喰らった。
神代「クソっ、呪いの重ねがけは出来ねぇはずなのに……っ!」
「行動パターンが変わったということだ。残りの20%、何としてでも削りきるぞ」
神代「おう!」
幸い、シャインでダウンを取ることはできる。ただ、5段階目はダウンから回復するまでがかなり早く、神代の攻撃も2発入れば良い方だった。
苦戦を強いられるが、幸いにも敵の攻撃力は中級以上、上級未満らしく低めに設定されているため、ゲームオーバーまでは見えてこない。だが、移動が出来ないというのはシンプルにストレスだな。次に習得する魔法は回復中心に考えよう。
「シャイン(本日n回目)」
神代「パワフルハンマー!」
残り1%……。
「……?」
今一瞬、ボスの目が青く光った。
「!?神代!離れろ!」
神代「マジ!?なんか見えーー」
ボスが突然取り出した鎌により、神代が派手に吹っ飛ばされた。HPバーは無くなってるように見えて、ギリギリ残っている状態か……。死ななくて良かったが、スリップダメージのことを考えるともう死んでしまう。
回復を急ぐが、ボスは俺の方にも迫ってきている。どうする?考えてる時間はあまりない。
「一か八か。シャドウ」
デバフ魔法のシャドウを放つ。大抵こういうボスには状態異常系のデバフは効かないものだと思っていたが、このボスは目を眩ませて攻撃が全てMISS判定になった。
今のうちだ!
「ヒール!」
神代のHPを半分ほど回復させる。そして、残り少ない体力のボスに対して、シャインを放つ。
「シャイン!」
約20000ダメージ……。なんか削りすぎじゃないか?
神代「ふう。危なかったけどなんとか倒せたな」
「ああ。最後に2万くらいダメージが出たけどな」
神代「多分、暴走した後に防御が下がったとかそんなんじゃねぇか?」
「なるほど」
ボスの姿が消え、その場に宝箱が現れる。宝箱は自動的に開き、クエストのクリアログが流れる。
神代「うわっ、報酬クソマズ!」
神代がそう言ったのを聞いて、俺も報酬の画面を開く。すると、そこには『MVPボーナス・ニュクスの鎌:UniverseEdition』と書かれていた。
神代「うぉぉぉぉぉぉ!?」
「どうかしたか?」
神代は俺の報酬画面を覗いてくるなり、いきなり耳がキーンとくるくらいの大声を上げて叫んだ。
神代「いや、マジやべぇよ!その武器、上級者の更に上、超上級者でも中々持ってねぇ特別エディションの武器だぞ!?」
「へぇー、そうなのか」
と言っても、見た目が変わるくらいだろう?何もそんなに強いわけは……
「UniverseEdition効果。固有魔法・デモンズホールを使用可能。効果:敵を一点に集め、移動不可の状態にした後、敵最大HPの20%分のダメージを与える。CT60秒」
神代「強すぎねぇか!?」
これは、あれだろうか。俺も言うべきなのだろうか。
「俺、またなんかやっちゃいました?」
神代「腹が立つからやめろ!そのセリフ!……まあ、何にせよ、お前一気に強くなったな。その鎌、一応杖武器扱いらしいぞ」
「でも、斬属性攻撃も可能とは書いてあるが……」
神代「店で売ってんの以外にも色んな武器があんだよ。それは杖の効果を持ちつつ、剣と同じような攻撃が出来るってことだろ。はぁ、30回の苦労が全部海翔に取られるとは……」
「お前にやろうか?」
神代「いやいいよ。俺魔法使いじゃねぇし、それ持ってても何も出来ねぇもん。ただ、その代わりこれからもよろしく頼むぜ!」
「飽きるまではな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そうして、宝箱の消失と共に現れた帰還用の魔法陣を使い、ダンジョンの入口にまで戻る。
神代「まあ、クリア出来て良かったわ。あー!スッキリした!」
楽しそうでいいな、こいつは。まあ、俺も少し楽しかったが。
神代「んじゃ、早速その武器の性能試しに行くか!」
「そうだな」
次なるダンジョンを目指して歩き出した瞬間、俺達の体力は同時に0になった。