ツッパリエスパー
ツッパリのケンジは正義の不良である。強きを挫き、弱きを助けることをモットーとしていた。
今日はだだっ広い積んだ土管しかない原っぱで喧嘩をしている。同じ不良のノブオだ。こいつはケンジと違い金持ちの親から小遣いをもらい、子分を増やしていた。そして喧嘩でも十数人集めている。一人では喧嘩ができない弱虫だ。
「フフフ。ケンジくん。今日こそ、その目障りなリーゼントをもぎ取ってあげますよ」
嫌味な眼鏡だ。所謂インテリ眼鏡で鬼畜である。背後はモヒカンや禿げ頭の大男たちが待機していた。同じ学校の同級生であり、手には木刀や鉄パイプも持っている。はっきり言えば年齢詐称で訴えられてもおかしくない老け顔集団だ。
「けっ、お友達がいないと喧嘩ができないお坊ちゃんが粋がるんじゃねぇよ。てめえらなんか何人いようがひとひねりだ」
ケンジは茶色いリーゼントに櫛を入れる。集団で袋叩きなど卑怯のうちに入らない。不利な状況を打破してこそ男だと思っている。
それを見てノブオのこめかみが引きつく。余裕をかますケンジに腹を立てているのだ。
「フフフ。あなたに私は倒せませんよ。今日は素敵なゲストを紹介いたしましょう」
ノブオは左手を上げる。するとアイスホッケーのマスクを被り、棘付きの肩パットを付けた男が一人の女性を連れてきた。
セーラー服を着たポニーテールの少女だ。学園のマドンナ、ヒロミである。ケンジと付き合う前は毎日靴入れにラブレターが束になって贈られるほどの人気ぶりでした。しかもテニス部に所属しており、全国優勝している。さらにピアノでもコンクールに入賞するくらいの才女だが、なぜケンジと付き合っているかは学校の七不思議のひとつとしてささやかれていた。
「おいおい、なんでヒロミがここにいるんだよ。今日は神社のさい銭箱から金を盗みに行ったんじゃないのか?」
「誰がそんなことをするか!! あたしがなんでさい銭箱から金を盗まないといけないの!!」
ヒロミは割と伝法なしゃべり方をする。学校では猫を被っているが、ケンジの前だと素に戻るのだ。
「何、冗談だ。そもそも俺がさい銭泥棒を認めるものか。墓地のお供え物を食べる程度なら許すけどな」
「だからってあたしとさい銭泥棒をなんで連想するのよ! このお馬鹿!! あとお腹が空いてもお供え物に手を出したりしないわよ!!」
ケンジとヒロミのやり取りにノブオはこめかみをぴくぴくさせていた。ヒロミはちっとも怯えないし、バカップルの会話に不快感をあらわにしている。
「フフフ。今日はあなたのガールフレンドをゲストに連れてきましたよ。あなたが手を出したら彼女はどうなるか、もちろんわかっていますよね?」
ノブオは慇懃無礼な態度で、いやらしい笑みを浮かべていた。鎖に繋がれた子犬を甚振るのが楽しい人種だ。それを見てケンジはノブオに対して憐みの目で見る。
「ふぅ、惨めだな。女を人質にしないと手が出せないとはな。いいぜ、俺は手足を出さねぇよ」
ケンジは後ろに手をやった。するとノブオは獲物を狙うように舌なめずりした。
「フフフ。いい度胸ですね。数分後のあなたがどのような姿になるか楽しみですよ」
ノブオが再び左手を上げる。モヒカンたちはヒャッハーと叫びながらケンジに殴り掛かった。
だがケンジは動かない。逆にリーゼントが膨れ上がる。なんとリーゼントは丸太のように伸びたのだ。リーゼントはモヒカンたちの顔に衝突する。
「ヒデオッ!!」「アベサダッ!!」「ズワイガニッ!!」「チバァッ!!」
モヒカンたちは奇声を上げて地面に倒れた。彼等は全員気絶している。
「ふんっ。約束通り、俺は手を出さなかったぜ」
「……あなた、いつからリーゼントに細工を仕込んだのですか?」
「ああ、三日前の学校帰りの夜に空飛ぶ円盤に拉致されたのさ。そこには餓鬼みたいに小さくてデカい目の銀色の肌の人間がいたのさ。そいつらと来たら超能力を与えるとか言って、人の頭にノミを入れやがった。まったく人の頭にノミを入れるなとおばあちゃんに教わらなかったのかねぇ?」
「ケンジ、それって宇宙人じゃん、アブダクションじゃん!! 頭が痛いと撫でていたのはそのせいなわけ!?」
ヒロミが突っ込んだ。彼女はUFO関係の番組が大好きなのだ。
「ああ、ちょっと頭がひりひりしたな」
「頭痛いですませないでよ!! というか超能力っていうけど、リーゼント伸ばすのが超能力なわけ!!」
ヒロミが突っ込むが、ノブオは静かに切れていた。
「フォッフォッフォ。初めてですよ、私をこけにしたお馬鹿さんは」
「いっつもケンジにこけにされてるじゃん。何、某冷蔵庫の名を持つボスの真似をしているのさ。そんなに龍の玉を集めるのが好きなわけ? あたしはいっつもスランプな博士の話が好きだけどね」
ヒロミは煽る。ノブオの額に血管が浮き出た。
「黙れクソアマ!! 時代遅れのリーゼント野郎にしっぽを振る雌犬め!! 元々人質などいなくともお前は私に倒される運命なのだッ!!」
ノブオは切れた。するとノブオは両足を広げ始める。まるでヨガのように身体が柔らかく水平になった。すると両足があり得ない方向に曲がっていく。
さらに勢いをつけて回転し始めた。ぶるぶると両足が飛行機のプロペラのように回転していく。
するとノブオの身体が宙に浮いた。脚を回転させることで空を飛んでいるのだ。
「―――!? ノブオ、お前も超能力を身に付けたのか!!」
「その通りだ!! 私も宇宙人にアブダクションされて、超能力を得たのだ!! 奴らは私たちに超能力を与え、争わせて楽しみたいらしい。だが向こうの事情など知ったことか!! 私はお前を地べたに這わせるためならなんでももらうさ!!」
ノブオは飛行機のように空を飛ぶ。ケンジはリーゼントを伸ばすも、さすがに空までは届かない。
「ちくしょう!! さすがの俺も空飛ぶ相手をしたことはないぜ!!」
「普通の人は、空を飛ばないけどね」
囚われのヒロミが突っ込んだ。しかしケンジには関係ない。相手が自分に敵意を向ける、それだけで戦う理由になる。
「くらえ!!」
ノブオは空を飛びながら眼鏡をはずす。すると目玉が二つ飛び出した。柔らかい眼球が鉄のように固くなる。近くに生えていた枯れ木が粉々に砕け散った。
「ファッファッファ!! 私の目玉は鉄砲玉だ!! しかも何度も再生する!! お前は私の目玉で蜂の巣になるがいい!!」
ノブオの高笑いが空に響く。ケンジは顔を真っ赤にして怒っている。空を飛ぶならともかく、目玉を飛ばしてくるのは不良の喧嘩の範囲を超えていた。
「いや、人間の限界も超えてるよね? 普通の人は目玉が取れても再生しないから」
「そんなのは関係ない!! ノブオが空を飛んで目玉を発砲するのは事実だ!! 俺はその現実から目を反らす気はねぇ!!」
ケンジはノブオの目玉をリーゼントで払う。正面から叩き落すのではなく、横から叩くのだ。
だが数が多すぎる。ノブオの目玉はマシンガンのように尽きることがない。
それに空を飛んでいるから、ケンジのリーゼントは届かないのだ。
「ファッファッファッ!! 私は無敵だ! お前は私に殺されるべきなのだッ!!」
「殺すだとッ!! ガキの喧嘩に殺しあいを持ち込むんじゃねぇ!!」
ノブオの言葉にケンジは切れた。喧嘩は楽しくが信条であり、命の奪い合いではない。
ケンジは怒った。頭の中が溶岩で満たされた気分になる。ケンジの額に欠陥が浮き出た。
ケンジは踏ん張る。気合を入れる。
「ヌオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
ケンジのリーゼントは爆発した。いや、リーゼントはまるで天昇る龍の如く、ノブオに向かっていく。
「ぐへぇ!!」
ノブオはリーゼントによって叩き落された。まさに怒髪天を突くを、字で表した結果である。
ノブオは地面に叩きつけられた。もう戦えない。それでもノブオはあがいた。
「……負けるものか、負けるものかッ!! 僕は学校で一番の成績だったんだ、スポーツだって僕が一番活躍できたんだ。それなのになんでお前ばかりがちやほやされるんだ!!」
ノブオは血を吐くように叫んだ。ああ、彼は嫉妬していたのだ。不良ではあるが筋を通し不正を許さず、真っすぐに生きるケンジに魅了されていたのだ。
でもプライドが許さない。だからノブオは非行に走った。親の金を使って兵力を集めた。しかし結局何の意味もなかったのだ。
「ノブオ。お前は馬鹿だ。俺より頭がいいのに、呆れるほど頭が悪い」
ケンジはリーゼントに櫛を入れている。その目に憎しみはない。キラキラと澄んだ泉の様だ。
「俺とダチになりてぇんなら、なってくれと言えばいいんだよ。まったく賢しい野郎だぜ」
「だっ、誰がお前なんかと友達に―――!!」
「いいや、今決めた。今日から俺たちはダチだ。仲良くやろうぜ」
ケンジはノブオの右手を握ると、彼を起こした。ノブオの目に涙が浮かんでいる。
ケンジは鼻をさすりながら、照れ臭そうに笑う。ノブオは目をこすり、泣き出した。
「それに俺たちは同じ超能力者、エスパーって奴だろ? 俺みたいな不良と同じさ。皆に嫌われる。だがこの力を世間の皆様に迷惑をかけないように使いたいわけだ。お前の頭脳なら可能だろう?」
「いや、僕らのは超能力じゃない。はっきり言えば改造人間だ。真っ当な人生なんて歩めないよ」
「いンだよ、細けぇことは。どんなものでも最初は敬遠されるもんだ」
ノブオは渋るが、ケンジは細かいことを一切気にしない。なぜか二人の距離は縮まっていた。その様子をヒロミは後ろから見ていた。
「ああ、いがみ合っていた二人が肌を近づけている……。このまま布団の中で張り切ってもらいたいわ……。もしくはズギューーーーンと口づけしてもいいわ」
なぜかヒロミはうっとりとした目つきになっている。彼女はヤオイ本が好きなのだ。それを聞いたケンジとノブオは言った。
「俺は変態じゃねぇぞ」「そうだ、なんで男同士でキスしないといけないんだ」
二人はヒロミを汚物を見るような眼を向けていた。この時二人の気持ちは一つになったのである。
モデルは1985年にセガのアーケードゲームから出た青春スキャンダルです。
小学生時代にCMを見たのですが、敵が空を飛んで襲ってくるように見えました。
実際は45度の角度で敵が飛んでいったのです。
当時はビデオがなく、記憶がうろ覚えになっており、それがノブオのモデルとなったのです。
いや、説明されても意味が分からないと思う。なので今回はジャンプ関係のパロディが多めです。