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10-3

 秀吉はほろ酔い気分で本丸館に戻った。

 本丸館の南に二階建ての櫓があった。ここは信長の住居として使われていた。

 櫓の前に人が集まって騒ぎになっていた。

 人だかりの中心に血まみれの利家が立っていた。足元には十阿弥の死体がうつ伏せに倒れていた。後頭部には刀が刺さっていた。

 秀吉は頭を抱えた。そんな事をする男だった。


 利家に追いかけられた十阿弥は信長に助けを求めて南櫓にやってきた。利家は櫓の入り口前で追い付いて、背中から突き倒した。


 一階玄関から信長が、続いて柴田勝家、森可成が出てきた。

 信長は唖然とした。「え?お前何してんの?」という顔で利家を見た。利家は悪びれもせずにその場に立っていた。

 勝家と可成は信長の前に回り込んで土下座した。

 勝家は地面に額を擦り付けて頼んだ。


「利家は無類の律義者(真面目で義理堅い人間)!それがこのような所業に出たのは止むに止まれぬ事情があったからに違いありません!ここで怒りに任せて利家に切腹を命じるのは簡単な事!しかしここは堪えて理由を聞いていただきたいのです!」


 可成は地面に額を何度も叩き付けて頼んだ。


「何とぞ公正無私な仕置きをお願いします!申し開きも許さず無闇に重い罰を与えれば、法は乱れて国が滅びます!

 私は個人的感情から利家を守りたいのではありません!愛する尾張を守りたいのです!殿を斎藤山城(道三)のようにしたくはないのです!」


 上司二人が必死に頭を下げている間、利家はふて腐れたようにその場に立っていた。

 秀吉は慌てて利家の首根っこを掴んで土下座させた。そして自分も必死に頭を下げた。


「この通り利家も罪を悔いております!どうか寛大な仕置きをお願いします!」


 信長は困った顔で空を見上げた。

 一回目のミスは基本的に許す方針だった。今回も許す気ではいたが、三人にこうも頭を下げられると自分からは言い出せなかった。


 法に照らせば、利家には両成敗で切腹を命じる所だった。しかし勝家、可成の減刑嘆願と、犯行に至った事情を斟酌して、信長は懲戒免職に留めた。利家は清州城から追放された。


 利家は勝家の斡旋で熱田に移り住んだ。家臣は譜代の村井長頼を除いて皆離れていった。同僚は誰も訪ねて来なかった。

 利家は将来を悲観して酒浸りになった。勝家と可成だけが頻繁に家を訪ねて「必ず再仕官出来る」、「時期を見て殿に取り成してやる」と利家を励ました。

 金がないので生活に苦労した。戦場ではどんな大軍にも怯まなかったが、金がないと道端で会う子供さえ恐ろしく感じた。

 秀吉は利家に算盤をプレゼントして、使い方を教えてやった。利殖の知識も授けた。利家は簿記や金融を猛勉強して内政面の才能を開花させた。

 失意の時、飲酒ではなく勉強を選んだ事が利家を大きく飛躍させた。これは本人の努力はもちろんだが、支え続けた友人の存在も大きいだろう。

 後年、利家は不遇の浪人時代をこう語っている。


―「右肩上がりの時は勝手に人が集まってくるが、落ち目になれば誰も来ない。苦しい時に訪ねてくるのが真の友だ。

 浪人した時、兄弟同然に仲良くしていた同僚達は誰も来てくれなかった。ただ森殿と柴田殿の他、数人が来てくれたのみだ」


 友人は数より質だ。

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