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9-10

 浮野の戦いから数日後、織田軍二千は城攻めの準備を整えて清州城から再び出撃した。今度は単独出兵だった。

 岩倉軍は城下町の住民を取り込んだ。兵数は五百人まで回復した。

 織田軍は城下町を取り囲んで火矢、松明を投げ入れた。無人の街は一晩に渡って燃え続けた。

 翌朝、織田軍千は廃墟と化した城下町に突入して城を包囲した。残り千は斎藤家に備えて清州城に帰還した。


 織田軍はジグザグの塹壕を多数掘って城に迫った。城からの攻撃は盾と掘り出した土で作った土壁で防いだ。

 織田軍は城から三十メートルの場所に高さ四メートルの土塁を多数築いた。ここから城壁を飛び越えて城内を攻撃する事が出来た。

 織田軍は土塁から城内に弓鉄砲を連日打ち込んだ。


 岩倉軍は必死に抵抗した。戦いは長期化した。織田軍はローテーションを組んで休みながら攻め続けた。


 斎藤家から援軍が来ない限り、城が落ちるのは時間の問題だった。一か月経っても、二か月経っても、その斎藤家は動かなかった。

 その間に織田軍は三の丸、二の丸を落とした。残すは本丸だけになった。


 十月、丹羽長秀は柴田勝家を連れて清州城の信長の茶室を訪ねた。

 中庭にある小さな茶室である。「矩庵」のようだった。

 信長は二人に茶を点てた。


「二人で来るのは珍しいな?」


 長秀は要件を説明した。


「昨日、私と修理亮(勝家)殿の手勢が岩倉城の二の丸館を落としました。その時、館の書庫からこのような物が出てきました」


 長秀は信長の前に起請文を置いた。信勝、信賢、高政が秘密同盟を約束した内容だった。

 信長は起請文を見てため息を付いた。

 長秀は「謀反の決定的な証拠です」と断言した。

 信長は勝家を見た。


「お前の事だ。謀反の事は知っていたが、物証が出るまで黙っていたんだろう。陰口だと思われるからな」


 信勝は津々木を重用して勝家を軽視した。津々木は勝家をあざ笑った。

 津々木は信勝に愛されて強気になった。津々木の愛で信勝も強気になった。愛の循環で強気になった二人は雑に陰謀を企んだ。計画はすぐにばれた。

 勝家は早い段階で計画の存在を知った。しかし讒言と取られかねないので、決定的な証拠が入るまで信長への報告は控えていた。


 勝家は説明した。


「末森殿は裏では『弾正忠』を名乗り、篠木庄の横領を再び目論んでいます。竜禅寺城も岩倉城に備えた城ではありません。守山城を攻めるための城です。

 末森殿、岩倉殿、稲葉山殿の三家連合で清州を攻めるのが当初の計画でした。しかしながら上総介様の速攻で岩倉城が攻められたため、計画は破綻しました。今では末森殿と稲葉山殿で清州を南北挟撃し、岩倉殿を救う計画が新たに建てられています」


「いつ攻める気だ?」


「分かりません。条件で折り合いが付かないようです。しかしここまで岩倉殿が追い込まれたら、条件を棚上げにしてでも出てくるでしょう。

 末森城だけが相手なら勝てます。しかし稲葉山城から二万の兵が南下してきたら勝てません」


 長秀は決断を迫った。


「明日、総攻撃をかけて岩倉城を落としましょう。末森殿はもう生かしてはおけません。ここで許してもまた背きます。落城後、直ちに仕物(暗殺)にかけるべきです」


 信長は勝家の意見を尋ねた。


「五郎佐殿と同意見です。殺せと仰るなら私が殺します。

 私はお二人の判断の速さの違いが今の結果を生んだと考えています。上総介様はすぐに岩倉城を攻めた。末森殿は二か月間交渉を重ねて動かなかった。

 上総介様の速さが常に清州城に勝利をもたらしてきました。今ここで悩んで時間を潰せば勝利は遠のきます」


 信長は勝家の前に茶を置いた。


「許す理由がなくなってしまったな……

 岩倉城に降伏の使者を送る。応じなければ総攻撃だ。

 城を落としたら信勝と津々木を殺す。俺は今日から仮病を使うから、勝家は『見舞いに行け』と二人に提案しろ。後はこっちでやる。

 処罰対象は二人だけだ。信勝の妻と息子三人はこちらで責任を持って養育する」


 十月下旬、信長は岩倉城に無条件降伏の使者を送った。

 信賢は責任を取って自刃した。主を失った岩倉軍は降伏した。三か月に及ぶ攻城戦はこうして終了した。

 信長は犬山城と有利に戦後交渉を進めた。浮野で詰めを誤り、攻城戦にも参加しなかった犬山城の発言力は低かった。信長は岩倉領の大部分を接収した。

 生き残りの岩倉軍は織田家と犬山家に組み込まれた。

 エースの蜂須賀正勝は犬山家に再仕官した。彼が真の主に出会うのはこれより数年後である。


 落城後、信長重病の噂が国内に流れた。

 信長は超絶健康体だった。毎日乗馬で体を鍛え、暖かい時期は水泳、寒い時期はイノシシ狩り、暇さえあれば鷹狩に出向く男が突然病に倒れた。しかも部屋に籠って誰にも会わないという。

 普通ならば怪しいと思う。だが普通でない精神状態なら、好機がやってきたと思うだろう。

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