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織田軍は盾を構えてにじり寄った。
敵第一部隊は盾を並べて待ち構えた。
敵味方は距離二百メートルから弓攻撃を開始した。百メートルからは鉄砲も加わった。距離五十メートルで射撃戦はピークを迎えた。両軍の間を矢玉が激しく飛び交った。
味方は盾と盾の間から敵を狙って打った。打った後は盾の後ろに隠れて玉をセットし、またすぐ構えた。
敵は相手のいる方に適当に打ってすぐ隠れた。ちゃんと狙わないので当たらなかった。打った後は長い時間盾の後ろに隠れた。出来るだけ攻撃に身を晒したくなかった。
味方は命中率の高い攻撃を切れ目なく打ち込んだ。敵は当たらない攻撃を散発的に繰り返した。
味方は敵を猛射撃で圧倒した。反撃が目に見えて減った。
味方は更に二十メートルまで前進した。
こちらの玉は九割当たった。相手の玉は全て外れた。反撃は徐々に少なくなり、最後は止まった。
森可成は盾の後ろから飛び出した。槍足軽が彼に続いた。
森可成を頂角に、槍隊は二等辺三角形の陣形で突撃した。敵は武器を捨てて逃げ出した。槍隊は敵を追って前進した。
三角形の陣形が長方形の陣形を左右に断ち割った。敵の一列目は壊滅した。
敵の二列目は逃げてくる一列目を収容しつつ、追ってくる森隊を迎撃した。
森隊は槍隊を下げて、盾隊と弓鉄砲隊を前線に出した。
敵味方は再び盾を並べて打ち合った。
柴田隊は東に向かった。佐久間隊は前進して森隊の後ろに付いた。
犬山軍と岩倉第二部隊は一進一退の攻防を繰り広げていた。
柴田隊は岩倉第二部隊二列目の左側面に突撃した。
柴田隊は左側面から突っ込み、中央を食い破って右側面から飛び出した。
第二部隊二列目は壊滅した。それを見て第二部隊全体が動揺した。
犬山軍は猛攻をかけて一列目を撃破した。三列目と本陣は退却した。
柴田隊と犬山軍は第二部隊を追撃した。
第一部隊も動揺した。
森隊は第一部隊二列目に猛射撃を叩き込んだ。二列目からの反撃が止まった。
森隊は槍突撃を敢行した。二列目は敗走した。
三列目と本陣は退却した。
森隊は追撃した。佐久間隊、本陣も掃討戦に加わった。
戦いは数時間で終わった。味方は千二百人を討ち取った。生き残った敵は何とか岩倉城に逃げ込んだ。
織田、犬山連合軍は城下町に突入した。敵は城に籠って出てこなかった。
織田軍は岩倉城の南の正門、犬山軍は北の裏門を囲んだ。しかし敵が出てくる様子はなかった。
信長は全軍に命じた。
「今日はこれで勝ちとしよう。全軍撤退だ。
佐久間右衛門尉(信盛)はしんがりに立て」
織田軍、犬山軍は囲みを解いた。織田軍は警戒しながら、犬山軍は無防備で城下町を出た。
岩倉軍五十人が南北の城門を開いて打って出てきた。
北の部隊二十人は蜂須賀家の卍の旗を掲げていた。
蜂須賀正勝。岩倉軍のエースである。以前は道三に側近として仕えていた。長良川の戦いの後、信賢に仕えて信安、信家追放で功績を上げた。
蜂須賀隊は犬山軍の背後から襲いかかった。犬山軍のしんがり部隊はパニックになった。
蜂須賀隊は弓鉄砲を乱射し、槍を構えて突撃した。しんがり部隊は武器を捨てて逃げた。
犬山軍はパニックを起こした。蜂須賀隊二十人は銃を乱射して千人を追い回した。犬山軍は岩倉城の三キロ北まで逃げた。
南の部隊三十は前田家の梅の旗を掲げていた。
前田兼利。前田利家の叔父に当たる人物で、岩倉軍の司令官を務めていた。
前田隊は織田軍の背後から襲いかかった。
佐久間隊は冷静に盾を並べて迎撃した。前田隊は猛射撃で溶けた。
信長は丹羽長秀に精鋭三百を付けて犬山軍の救援に送った。
丹羽隊は岩倉城の三キロ北で犬山軍と合流した。犬山軍はようやく落ち着きを取り戻して踏み止まった。
蜂須賀隊は戦わずに城に帰還した。
織田軍、犬山軍はその日の内に城に帰還した。




