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8-6

 八月二十三日、大雨が降った。庄内川の水位は上がった。


 朝、信勝は末森城の本丸館に首脳陣を集めて対策を話し合った。

 勝家と通具は名塚への即時出撃を提案した。

 通具は天気を理由にした。


「私の軍配者に占わせた所、この雨は明日の昼まで続くそうです。清州衆は増水した川を渡れません。

 孤立した盛重をこの隙に全軍で叩きましょう。裏切り者は決して許されません。那古屋の準備は万端です!」


 勝家は作戦を理由にした。


「上総介様は川を曲げても名塚に来ます。

 佐久間大学殿はいわば人質です。名塚を叩いて清州城から主力を誘き出し、こちらの全力で叩く。

 兵の準備は既に整っています。明日尾張を取りましょう」


 信勝は津々木の美しい顔を見つめた。

 津々木は発言した。


「今川の動きに備えて、末森と那古屋に部隊を残しておきましょう。それなりの余力を残しておけば、名塚で負けた場合でも交渉で勝てます」


 通具は大声を出した。


「戦う前から負ける事を考える馬鹿がいるか!」


「信長は恐ろしい男です。だから負けた時の作戦も考えておく。負けない負けないと言い張って何の対策も考えない人間より私はずっと勇敢です」


 通勝は弟をなだめた。


「お前も正しいが津々木殿も正しい。

 ともかく、今は斎藤家と伊勢守家に援軍を要請しましょう。兵は多いほどいい。

 弾正忠様、ご決断をお願いします。長々と考えていたら清州衆に負けます」


 信勝は四人の意見を採用した。


「援軍を要請し、城に抑えの兵を残して名塚に出陣する。

 林佐渡は両家と交渉しろ。

 那古屋勢は美作が率いろ。城は佐渡が守れ。

 末森勢は修理(勝家)が率いろ。城は私と蔵人が守る」


 諸将は頭を下げた。


 二十三日午後、豪雨の中、末森城から柴田勝家隊七百が、那古屋城から林通具隊七百が出陣した。両城には三百の兵が残った。

 部隊は全員蓑を着て、武器に袋を被せていた。

 名塚は那古屋城の北に位置していた。

 柴田隊は西へ、林隊は北へ向かった。夕方には途中の寺に停泊した。


 翌二十三日朝、小雨の中、岩倉城から重臣の山内盛豊隊三百が出陣した。山内隊は柴田隊と合流した。

 高政は二千の兵を準備した。しかしこちらは決戦には間に合いそうもなかった。


 二十三日朝、織田軍七百は清州城から出陣した。

 信長は黒い馬に乗って部隊の先頭に立った。彼はスイカバーのように縦に長い兜を持つ鎧、黒革包畦目綴二枚胴具足を着ていた。


 庄内川は昨日の大雨で増水していた。

 織田軍は浮き橋を架けて東岸の名塚に渡り、盛重隊と合流した。

 盛重隊は手を叩いて喜んだ。信長は盛重にここを守るように命じて更に前進した。


 名塚の東に稲生村という村があった。

 昼前、織田軍は稲生村の東口に移動した。

 村の東口から南へ街道が真っ直ぐ伸びていた。街道の左右には収穫済の田んぼがあった。地面は雨でぬかるんでいた。

 街道は数百メートル南に進んだ所で十字路に分かれていた。十字路の東から柴田隊が、南から林隊が来ると考えられた。


 雨が止んだ。

 織田軍は蓑を脱ぎ、武器を取り出した。馬は降りて木に繋いだ。銃の火縄には火を点けた。

 部隊は百人で長方形の陣形を七個作った。


 軍は二隊に分かれた。

 信長隊四百は縦四段に並んで南東に進んだ。

 大叔父の織田秀敏隊三百は縦三段に並んで南に進んだ。


 柴田隊千は十字路の街道を西へ向かっていた。

 林隊七百は街道を北へ進んでいた。


 昼過ぎ、信長隊は街道を西に進む柴田隊千を発見した。

 先鋒は柴田勝家率いる勝家隊四百。中央は守山城主の角田新五率いる角田隊三百。後衛は山内隊三百だった。全員まだ蓑を着て武器に袋を被せていた。

 信長隊は喊声を挙げて田畑を駆け抜けた。


 秀敏隊は街道上に盾を並べて敵を待ち構えた。

 南から林隊がやってきた。

 秀敏隊は射撃を開始した。

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