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6-11

 翌日、信勝は勝家と津々木に命じて城を攻めさせた。信長も軍を出して城を包囲した。

 城は落ちなかった。

 信長派と信勝派の話し合いが持たれた。この席で角田との和睦、そしてその条件がまとめられた。

 佐久間信盛は一人で城に入って角田と和睦をまとめた。

 角田は忠義と武勇を評価されて無罪となった。彼はそのまま守山城の重臣として織田家に仕える事になった。

 後任の城主には信長の弟で二十才の織田信時が入った。


 数日後、守山城の家臣は新城主を迎えるため、本丸館に集まった。

 正面奥の城主席は空だった。部屋の右側奥には筆頭重臣の角田が座っていた。

 信時が広間にやってきた。家臣は頭を下げた。

 信時は城主席に座った。

 家臣は頭を上げて顔を見せた。信時は一人の美少年に目を奪われた。

 坂井孫平次。小柄で色白。美少女のような十四才だった。着物には白檀(線香)の香りを焚き染めていた。

 角田は信時に家臣を説明した。


「ご城主様、よくぞおいで下さいました。私は角田新五。城の筆頭家老を務めております。

 不幸な事件がありましたが、我々と上総介様、武蔵守(信勝)様の絆は決して壊れず、むしろ強まったと確信しております。これからも協力して織田家を盛り立ててまいりましょう。

 家臣団を説明させていただきます。

 これなるは高橋与四郎殿。喜多野下野守殿。坂井七郎左衛門殿。坂井喜左衛門殿……」


 信時は話を聞いていなかった。彼は妖精のように可愛らしい孫平次をただじっと見ていた。

 孫平次は城主の視線を感じて頬を赤らめた。


 挨拶の後、信時は館の私室に孫平次を呼んだ。

 書院造の部屋である。二人は向き合って座った。

 信時は茶を振舞った。孫平次は緊張した様子で一口飲んだ。


「警戒しないでくれ。俺はただお前と仲良くなりたいだけなんだ。

 何か欲しいものはあるか?何でも言ってくれ」


「家に帰りとうございます……」


「ハハ……まあ、そうだなあ。じゃあ、お茶を飲んだら終わりにしよう。

 甘い物は好きか?」


「はい」


「私はこの城の事を何も知らない。早く良い城主になりたい。その手助けをお前にしてくれると嬉しい。城の事を色々教えてくれないか?

 明日もまた来て欲しい。甘い物を用意して待っている」


 孫平次は小さく頷いた。信時は笑顔になった。


 孫平次は信時の私室に毎日通った。

 最初の内は二メートル以上距離を離して座っていた。会話も弾まなかった。豪華なお茶菓子を出しても遠慮して手を付けなかった。


 夏になるとクグロフを食べながら楽しく語り合った。距離は一メートル。何を話しても楽しかった。二人は大声で笑い合った。


 秋になると縁側に並んで座って庭の紅葉を眺めた。距離は五十センチ。会話は少なかったが、一緒にいるだけで心が満たされた。

 信時は勇気を出して手を握った。孫平次は恥じらいながら手を握り返してきた。


 冬になると私室に枕を並べて一緒に昼寝した。距離は〇メートル。会話はなかった。

 孫平次は満ち足りた表情で目を瞑り、信時の肩に身を寄せた。信時は彼の額に口付けした。孫平次は幸せな顔で微笑んだ。


 二人は深く愛し合うようになった。孫平次は主君の愛で高速出世した。

 角田は二人の関係を苦々しく思った。林兄弟は角田に接近した。

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