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6-10

 六月、守山城主の織田信次は城の北を流れる庄内川で家臣と釣りをしていた。

 馬に乗った男が後ろの土手を通りがかった。男は勝色の立派な着物を着て、笠を被っていた。

 男は信次達を土手から見下ろす形になった。しかも馬に乗って笠を被っていた。

 信次の家臣達は怒った。


「おい!そこのお前!」


「馬から降りて挨拶に来い!殺すぞ!」


 男は馬の脇腹を蹴って逃げ出した。

 家臣の一人が弓を構えて矢を放った。矢は男の背中を貫いた。

 男は落馬した。馬はそのまま走り去った。

 家臣は土手を駆け上がって男の笠を取った。


 信長の弟、織田秀孝。当時十七才。資料には「例えようがないほど美しい少年」だったと記されている。

 肌はおしろいを塗ったように白く、唇は紅を塗ったように赤い。眼差しは優しげで、顔の形は誰よりも麗しかった。


 家臣の肌は例えようがないほどの恐怖で真っ青になった。


 信長には十二人の男兄弟がいた。信長は次男で、信勝は三男。秀孝は八男だった。


 信勝は守山城から四キロ先の末森城に住んでいた。信長の清州城は守山城の十二キロ先にあった。情報はまず末森城に入った。

 信勝は首脳陣を本丸館広間に集めて会議を開いた。

 出席者は林通勝、通具兄弟。柴田勝家。佐久間信盛。佐久間盛重。そして津々木蔵人である。

 津々木蔵人は色黒の美青年で、信勝とは恋愛関係にあった。最初は側近の一人だったが、主君の愛で重臣まで高速出世していた。


 信勝は直ちに復讐の軍を起こそうとした。

 林兄弟と津々木は賛成した。「織田家の当主として一族を殺した罪を償わせないといけない」と。

 佐久間信盛、盛重は反対した。「無意味な戦争だ」と。

 柴田勝家は中立を保った。ただし「信長は動くと早いから、決めるならすぐ決めるべきだ」と進言した。

 信勝の独断で出兵が決まった。


 信勝軍五百は守山城に押し寄せた。

 城主の信次は既に城を捨てて逃げ出していた。重臣の角田新五は動揺した家臣を取りまとめて籠城した。

 信勝軍は城を攻めた。角田軍は抵抗した。信勝は勝家と津々木に城下町に火をかけるように命じた。


 秀隆の情報が清州城にも入った。

 信長は一人で白馬に乗って飛び出した。家臣は慌てて彼を追った。


 信長は日頃から馬を鍛えていた。

 しかし家臣の馬は鍛え方が足りなかった。馬は途中で息が上がって次々脱落した。無理がたたって途中で死ぬ馬もいた。

 信長は十二キロの道のりを一人で駆け抜けた。


 信長は川岸に到着した。この川の向こうに守山城があった。城の方角からは黒煙が立ち上っていた。

 信長は川のほとりで後続を待った。喉が渇いた馬は川の水をおいしそうに飲んだ。

 守山城の方から信次の家臣がやってきた。家臣は対岸に立って叫んだ。


「お一人で来られたのですか!?危ないです!」


「俺はいい。叔父上は?城は?」


「末森城の軍勢が攻めてきて、ご城主様はどこかにお逃げになられました!城下町は焼けてもう駄目です!」


 信長はため息を付いた。


「ここまでだな。

 責任ある立場の人間が、護衛も連れずに一人で出歩くからこうなる。自業自得だ」


 清州城から家臣が続々とやってきた。馬は疲れて汗をかいていた。城を出る時は馬に乗っていたのに、着いた時には徒歩の家臣もいた。

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