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6-6

 翌二十日朝、信光は南の櫓の入り口前で坂井を待った。

 完全武装の鎧武者百人が櫓の中で待機していた。

 可成は一階の入り口後ろに潜んでいた。金と黒の鎧、金箔押色々威伊予札胴丸具足を着ていた。

 可成は表の信光に話しかけた。


「来ませんね……」


 信光は前を向いたまま答えた。


「まだ寝てるのかもなあ。最後、残った酒を全部池に注いで泳いでたぜ」


「屋敷に向かいますか?」


「いや、待とう。

 あいつが櫓に入ったら玄関を閉める。全員で囲んで確実に仕留めろ。終わったら本丸館の信友だ」


 坂井が大きな馬に乗ってやってきた。

 信光は笑顔で手を振った。

 しかし坂井は何かを感じて立ち止まった。

 信光は「おはようございます!」と明るく挨拶した。

 坂井は馬を返して逃げ出した。

 信光は驚いた。


「ここで気付くかよ!?何だあいつ、犬みたい鼻だな!」


「追いましょう!」


 櫓から森隊百人が飛び出した。

 武士の一人は蟇目鏑矢(ひきめかぶらや。笛のような音が出る特別な矢。合図に使う)を空に向かって放った。


 城内各地の信光隊は反乱を起こした。部隊は兵舎を攻撃し、城門を占拠した。


 坂井は本丸北の門に向かった。この門を抜ければ二の丸だった。

 北の門が開いて、坂井政尚率いる騎馬隊三十が飛び出した。皆小型馬だが、美濃出身の政尚は大型馬だった。

 坂井は九十度カーブして東に向かった。政尚隊は彼を追った。


 東は塀で行き止まりだった。その先は五条川だった。

 坂井は塀を飛び越えた。そして土手を駆け下りて馬で五条川に飛び込んだ。

 坂井は馬を泳がせて向こう岸を目指した。


 政尚隊は馬から飛び降りて塀をよじ登った。小型馬では塀を飛び越えられなかった。

 政尚隊は塀の上から矢を打った。

 矢は馬の尻に二本当たった。しかし馬は止まらなかった。

 政尚は大型馬で塀を飛び越えた。そして土手を駆け下りて川岸で立ち止まった。

 坂井はもう川の真ん中まで逃げていた。

 政尚は馬上で弓を構えて打った。

 矢は坂井の右肩を射抜いた。坂井はよろけた。

 政尚はもう一度弓を構えた。

 坂井は川を渡って土手を駆け上がり始めた。

 政尚は矢を打った。

 矢は坂井の腹を貫いた。坂井はお辞儀するように体を前に倒した。

 馬はそのまま土手を登り切ってどこかに走っていった。


 信光と森隊は本丸館に突入した。信友の家臣五十人は刀を抜いて応戦した。

 敵は二日酔いで動きが鈍かった。顔もむくんで目も赤かった。森隊は酔っ払いを簡単に切り倒した。


 可成は大広間に一番乗りした。

 信友は部屋の隅にいた。屈曲な家臣四人が彼を守っていた。

 可成は大声で名乗った。


「織田上総介の家来、森三左衛門可成!大和守に見参仕る!」


 家臣Aが正面から切りかかってきた。

 可成は下から跳ね上げて刀を弾いた。そして鋭く踏み込んで胸を突いた。槍の穂先が背中から飛び出した。

 家臣Bは可成の左に、Cは右に回り込もうとした。

 可成はBの首目がけて槍を右横に払った。

 Bは刀を垂直に持ってガードした。槍は刀を上下二つに叩き切り、Bの首を横一文字に切断した。

 右に回った家臣Dは可成の背後を取った。

 可成は石突きで真後ろのDの胸を打った。Dは胸骨を折られて仰向けに倒れた。

 信友は家臣Dの後ろに隠れた。

 可成は槍を構えてDに正面突進した。槍はDと信友を同時に貫いた。


 信友は可成に打ち取られた。

 坂井は今川領内に亡命したと言われるがよく分からない。亡命後の記録が一切ない事から、逃げ込んだ直後に死んだと考えられる。


 二十一日、信長は清州城に入った。

 城下町はまだ復興していなかった。城内も荒れていた。信長は再建を急いだ。


 五月、一通りの再建が終わった。

 尾張守護の斯波義銀は津島から清州城に戻った。信長は本丸館を義銀に譲り、自分は北の櫓に移った。義銀は信長に守護代の地位を与えた。

 信長は義銀を通じて尾張全土に号令出来る立場になった。


 空になった那古屋城には信光が入った。

 信光の元の居城は守山城だった。信長はここに叔父の織田信次を入れた。

 信次は萱津の戦いで負けて人質になった男だった。

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