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6-5

 信光と坂井は水面下で接触した。森可成と坂井政尚が信光側の交渉を担当した。


 交渉一回目、二人は守山城下の寺の本堂で坂井側の使者二人と会った。

 交渉はトントン拍子に進んだ。坂井側は上手すぎる話に疑いを持った。


 交渉二回目、二人はまた同じ寺で使者と会った。

 可成は相手を安心させるために起請文を用意してきた。しかも起請文七枚を巻物のように繋げた「七枚起請」という最高の形式の起請文だった。

 坂井側の使者は七枚起請を見て一安心した。彼は「裏切ったら日本中の神が七回神罰を下しますよ」と冗談を言った。可成と政尚は笑った。


 交渉三回目、四人は再び同じ寺に集まり、信光の入城時期や具体的な待遇などを話し合った。


 交渉は二週間で完了した。

 可成と政尚は那古屋城の本丸館に上がり、信長、信光、秀敏に交渉終了を報告した。

 信光は褒めた。


「いや、恐れ入った!上手いな!上手いし早い!お前らすげぇな!」


 二人は「ありがとうございます!」と嬉しそうに頭を下げた。

 床の間に十文字の朱槍が二本飾られていた。信長は自ら二人にこの槍を渡した。


「おう、褒美だ!いい槍だぞ!」


 二人は恐縮して受け取った。

 秀敏も上機嫌だった。彼は信光に言った。


「後はお前だな?」


「任せてください。数日中に城を落としてやりますよ」


 四月十九日、信光は兵五百を率いて清州城に入城した。


 城の中央に本丸館があった。館の北には三階建ての櫓が、南には二階建ての櫓があった。兵士は数度の敗戦と家臣離反で二百人まで減っていた。


 信光は本丸館の大広間で上守護代の織田信友、筆頭重臣の坂井大膳と面会した。

 坂井は信光が広間に入ってくるなり小走りで駆け寄った。そして両手を握りしめて涙を流した。


「よく来てくれました!これでお家のご運が開けました!」


 信友は一番奥の当主席に座った。信光は上座となる部屋の右側奥に、坂井は対面の左側奥に座った。

 信光は言った。


「今日から守護代は私と守山殿の二人です。尾張半守護代と名乗ってください。ご住まいは今新しく建てています。出来るまでは南の櫓を使ってください」


「分かりました。問題は多いですが、共に支え合って一個一個解決していきましょう」


 坂井は申し出た。


「今夜は半守護代様の歓迎の宴を開く予定です。是非いらしてください!」


「ありがとうございます。ごちそうになりましょう。

 私の方もお返ししなくてはいけませんね。明日櫓にいらしてください。守山から色々持ってきました。ごちそう返しを食らわしてやりますよ」


 夜、本丸館で盛大な宴が開かれた。

 宴会には女性や芸人も呼ばれた。家臣は庭の木を人間と勘違いするほど酔っぱらった。


 信光隊は城のあちこちに分泊した。選りすぐりの精兵百は南の櫓に入った。

 可成は櫓の二階の壁に背を持たれて座り、一人で酒を飲んだ。床には信長からもらった槍が置かれていた。

 櫓の窓は開いていた。外から楽しそうな音楽や男女の笑い声が聞こえていた。

 槍は関兼定という有名な刀工の槍だった。これ一本で城が建つほど高かった。高価な槍が月明りを浴びて優しく光っていた。

 可成は微笑んだ。


「いい家に来れてよかったなぁ……」

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