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6-3

 三月、駿河東部の善徳寺に今川、北条、武田の重臣三人が集まった。

 名前は寺だが実際は城だった。壁は高く、水堀まであった。


 話は数度の事前交渉でまとまっていた。今日はただ条約文書にサインするだけだった。

 今川家の代表、太原雪斎は本尊と向き合う形で座った。

 雪斎は今川家の筆頭重臣である。外交、内政、軍事、立法、宗教政策。今川家の全てに携わっていた。

 雪斎を頂角として、右の底角に駒井高白斎が座った。

 駒井は武田家の外交を取り仕切る重臣である。外務大臣として周辺諸勢力との外交を長年担当してきた。

 左の底角に松田盛秀が座った。

 松田は北条家の筆頭重臣である。「北条三家老」と呼ばれる重臣グループの中でも筆頭の地位を与えられていた。言わば北条家の総理大臣だった。

 三人の真ん中には青い瀬戸火鉢が置かれていた。


 今川家と武田家は以前から婚姻同盟を結んでいた。一年前、武田家と北条家は新たに婚姻同盟を結んだ。

 今年二月、北条家は今川家と開戦した。武田家は今川家に味方した。

 しかし武田家は北条家との関係を維持したい気持ちを持っていた。

 今川家も西の織田家との戦いに集中するために、西の北条家と和睦したい気持ちを持った。

 北条家も今川家と和睦して関東制圧に集中したかった。

 今川家と北条家は武田の仲介で和睦した。雪斎のタフな交渉で和睦条件は今川有利になった。

 北条家は人質として当主氏康の息子の氏規を今川家に送る事になった。また娘を義元の長男、今川氏真と結婚させる事にした。今川家からは誰も出さなかった。北条家は外交的に敗北した。


 寺の僧侶数名が筆記用具をお盆に乗せてやってきた。

 僧侶は三人に起請文各二枚と筆、硯を渡した。


 起請文とは「〇〇する事をお約束します。約束を破ったら日本中の神々の怒りで滅びても文句は言いません」という内容の文書で、神罰文とも呼ばれる。文章の後ろには神を示すマークが描かれていた。

 余談だが、キリシタン大名に対する起請文は「日本中の神々の怒り」ではなく「ゼウス様の怒り」になる。


 三人は起請文の最後にサインを入れた。


 新たに僧侶数名が手取釜(鉄のやかん)や盃をお盆に乗せてやってきた。

 僧侶は網を敷いて小田原製の手取釜(鉄のやかん)を火鉢にかけた。

 三人は予備の起請文を火鉢にくべた。身延竹炭の熱で紙が焼けて煙が立った。

 釜の口からアルコール混じりの湯気が出てきた。中にはお神酒が入っていた。


 酒は十分に温まった。僧侶は三人の盃に熱燗を注いだ。

 三人は熱燗を一口で飲み干した。


 神に誓った証文(で温めた酒)を体の中に入れた。もう取り消す事は出来ない。

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