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信秀は小型馬に乗って本陣にいた。
小さい馬は安全だが、大きい鎧を着て長時間乗ると疲れて動いてくれない。戦闘中何度か替えの馬に乗り換える必要があった。この乗り換える時が非常に無防備になる。軽装で小型馬に乗るのがトータルで一番安全だった。
物見の伝令騎兵が入れ代わり立ち代わりやってきて、前線の状況を信秀に伝えた。
信秀には優秀な弟が二人いた。
一人は三兄の織田信光。織田家最強の猛将として知られ、三河戦で活躍した。
もう一人は次兄の織田信康。兄の代理として各勢力との交渉を担当した。
二人は大型馬に乗って信秀の両脇を固めていた。
信光は報告を聞いて機嫌を良くした。
「勝ったな!」
信康は慎重だった。
「こんな所で負けたら困る。小僧に勝って喜ぶな」
「勝ちは勝ちだよ、兄上。素直に喜ぼうぜ?」
また伝令兵がやってきた。
「柴田隊、敵を城まで退却させました。お味方大勝利です!」
信光は兄に助言した。
「やるぅ~。長兄、勝家大先生に何かくれてやってもいいんでない?」
信秀は助言を受け入れた。
「俺が乗ってきたアラブ馬をやろう。前に欲しがっていた」
信光も羨ましがった。
「あの子は俺も狙っていたんだ!いいなあ!」
「俺もだ。勝家にはもったいない」
信秀はフフっと笑った後、弟二人に指示した。
「敵は夜の内に逃げるだろう。追わなくていい。
こちらは三手に別れる。信康、信光。お前達は領内の村々を襲って焼き払え。取れた物はくれてやる。家臣と均等に分けろ。全部焼いたら稲葉山城下に集結だ」
信康と信光は頷いた。
信秀は稲葉山城がある北の方角を眺めた。
「城から出てきてくれたらさっさと終わるんだがなあ……」
初戦に勝利した織田軍は複数の部隊に別れて各地に進軍した。斎藤軍の守備隊は撃破されて本拠地の稲葉山城まで後退した。
住民を守る者はいなくなった。織田軍は村や町に侵入した。
織田軍は家に押し入って食料や衣服、牛馬を奪った。子供や女性は街の奴隷市で売り飛ばすために拉致した。
残った住民は寺の境内に集めた。織田軍は彼らの前で家に放火し、先祖の墓石を蹴り倒した。
織田軍が来る前に山に逃げた村もいた。織田軍は井戸や畑に毒を投げ込み、空の家々を焼き払った。