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5-7

 二十一日朝、織田軍千三百は那古屋城から出発した。

 信長は先頭に立って部隊を率いた。烏天狗形兜を被って黒い羽毛の陣羽織、鳥毛揚羽蝶模様陣羽織を羽織り、黒いフリージアンホースに乗っていた。

 林兄弟の兵七百は出撃を拒否して荒子城(那古屋城の南にある城)に籠った。

 午後、織田軍は那古屋城の南の熱田に入った。その日はそこで宿泊した。


 熱田は東海道最大の宿場町である。

 東から北へとL字の街道が街の中心を通っていた。その街道の左右に二階建ての宿屋が建ち並んでいた。酒場や劇場もあった。

 街の北東に熱田神宮があった。南には大きな港があった。岸壁に沢山の船が停泊していた。


 織田軍は海路で知多半島入りする計画を立てていた。

 明日船で出発して知多半島を逆時計回りに南下。師崎(知多半島南端の岬)を回って大井港(諸崎の北にある渥美湾側の港)に上陸。そこから北上して緒川城に入る予定だった。


 二十二日、「伊吹おろし」という強い風が吹いた。海は荒れた。

 港の前で織田軍首脳部と船頭衆は「出せ」、「出せない。死ぬ」と押し問答になった。

 信長は海を眺めた。

 北西から冷たい風が吹き付けていた。空は灰色の曇り空。波は大きくうねっていた。

 信長は船頭衆に命じた。


「逆櫓の松で言い争った時もこんな天気だったに違いない。

 吉兆だ。金は二倍倍払う。死んだら俺が責任を取る。風が収まったら馬走瀬まで船を出してくれ」


 源平合戦の時、源義経は平家を討つために大阪から屋島に渡ろうとした。しかしその日は暴風雨でとても船を出せなかった。義経は家臣の反対を押し切って強引に船を出し、勝利を収めた。

 信長はこの天気は縁起がいいと考えた。


 昼前、風は一時的に弱まった。

 織田軍は複数の船に分乗して熱田を出発した。船団は一時間ほど南に進み、藪城北西の馬走瀬海岸に到着した。

 織田軍は海岸から東に進み、藪城の北を横切って、藪城北東の木田城に入った。ここは織田方の荒尾善次が守っていた。

 城では盛大な歓迎を受けた。信長は大変喜び、荒尾の娘を弟の織田信時の妻に迎えたい、と申し出た。荒尾は快く了承した。

 その晩、織田軍は木田城に泊まった。


 二十三日、織田軍は木田城を出発して南東の緒川城方面に向かった。

 叔父の信光隊三百は先行して村木砦に移動した。部隊は砦に通じる道を遮断した。

 本隊千は緒川城に入った。

 城門前で水野信元と兵三百が出迎えた。

 水野信元は知多半島を治める水野家の当主である。外交と謀略に優れた男だった。永楽銭をあしらった熊毛の鎧、永楽銭紋入黒熊毛入二枚胴具足を着ていた。


 夜、信光隊も緒川城に帰ってきた。

 織田軍首脳陣は本丸館に集まって作戦を話し合った。

 信長は一番奥の当主席に座った。信元は対面に、家臣団は部屋の左右に座った。

 信元は村木砦の絵図を使って状況を説明した。


 村木砦はDの形の砦である。東に向かって突き出た土地に建っていた。

 中央に本丸館があった。あちこちに井楼櫓(木製の櫓)が建っていた。敷地は木の板と空堀で囲まれていた。


 砦の北は川に面していた。ここは一面泥だらけの湿地で、人も船も入れなかった。

 東も川に面していた。ここは衣ヶ浦という入江になっていて、船を着ける事が出来た。砦の正門はこちらにあった。

 西は野原だった。枝や葉に鋭いトゲのある低木が生い茂っていて、動物も嫌がって通らなかった。砦の裏門はこちらにあった。

 南はただの平地だった。ここが砦の弱点だったが、敵はここに障子堀というワッフル状の空堀を築いていた。

 堀の幅は三十メートル、深さは五メートル。南は砦の中で一番攻めにくい場所になっていた。


「敵は千人。こちらは水野家の兵三百を合わせて千六百人です。

 守山殿が砦に通じる西の道を遮断しております。しかし東の重原城から船で救援が来る可能性があります」


 信長は全員に指示した。


「叔父上は西の裏門をお願いします。水野下野(信元)は東の正門を頼む。衣ヶ浦を抑えれば敵も入城出来ない。南は俺が攻める」


 その晩、織田軍は緒川城に宿泊した。


 二十三日明け方、水野隊三百は船で出発した。部隊は村木砦の東の海上を封鎖した。

 早朝、信光隊、信長隊は徒歩で出発した。部隊はそれぞれ西と南の攻め口に着いた。

 朝八時、三隊は同時に攻撃を開始した。

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