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翌日、信長は那古屋城の本丸館に首脳陣を集めた。
信長の対面に側近の河尻秀隆が座った。秀隆は状況を説明した。
「若武衛(義銀)様を津島の大橋屋敷までお送りました。今は落ち着いておられます。直ちに仇討ちしたいので兵を貸して欲しい、との事です」
信長は首脳陣に命じた。
「三日で兵を集めろ。十七日にここに集まり、十八日の初七日に清州衆を討つ。
この戦いの勝利は大きいぞ。全員、念を入れて準備するように」
柴田勝家が注文を付けた。
「恐れながら上総介様。
この戦いの総大将を私に任せていただきたい」
「それは弟がそう言ってるのか?主君殺しの悪党を倒したのはこの信勝だ、と言いたい?」
「はい。この条件が飲めないなら兵は出さないとの事です」
信長派の家臣は勝家を睨んだ。
勝家は戦場の無数の矢にもひるまない男だった。家臣の憎しみの視線を浴びても堂々としていた。
信長は条件を飲んだ。
「まあ、しょうがないな。しかし負けは何としても許さないぞ」
「お任せください。必ず勝ちましょう」
会議は終わった。出席者は広間を退室した。
勝家と丹羽長秀は並んで廊下を歩いた。長秀は彼を気遣った。
「お互い主君が大たわけで苦労するな。転職の相談ならいつでも乗るぞ?」
勝家は何も答えなかった。
会議の後、信長は叔父の信光、大叔父の秀敏、信勝派の重臣佐久間信盛を館内の私室に密かに呼んだ。
信盛は末森城内の状況を報告した。
筆頭重臣の林兄弟が信勝を焚き付けている事。信勝もすっかりその気で、周囲に自分を「弾正忠(織田家の当主が使う名乗り)」と呼ばせている事。重臣の柴田勝家、佐久間盛重は信勝の動きを苦々しく思っている事。
信盛は最近転職した訳ではなく、家督継承当初から信長派だった。彼は末森城に送り込まれたスパイだった。
信盛は退却戦が得意で「退き佐久間」というあだ名を持っていたが、経歴を見ると謀略面での功績が目立つ。長篠の戦いでは武田家に偽りの寝返りを申し出て、武田軍を三千丁の鉄砲が待つ決戦場に誘き出した。




