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筆頭幹部の死は信長派を動揺させた。
三月、斎藤利政の使者、安藤守就が那古屋城を訪れた。
美濃三人衆と呼ばれる重臣グループの一人である。美濃西部に勢力を持っていた。
信長は本丸館の広間に首脳陣を集めた。そこで安藤からの口上を聞いた。
「斎藤山城守(利政)は上総介様に出来る限り早い段階で直接お会いしたいと言っています。
織田と斎藤の同盟が健在である事を内外に示すのです。そうすれば動揺するご家中も静まりましょう。清州城の大膳も愚かな考えを捨てるでしょう。ご一考願いたい」
「美濃五十五万石の太守が手ぶらで娘婿に会う訳にもいかないだろう。
土産が欲しい。親父殿の全面支援の確約だ」
「同盟を強化したい、という事でしょうか?」
「そうだ。維持するだけでなく、深化させたい。会見の場で『力を貸す』と言明して、書面に残して欲しい。どうだろうか」
「一旦持ち帰らせていただきまして、検討の上、ご回答させていただきます」
「うん。何度でも話し合おう。
私達は親戚だ。どういう結果になろうとも、この繋がりは大切にしていきたい。親父殿にもそう伝えて欲しい」
安藤は頭を下げて退室した。
首脳部は利政の要請について話し合った。
利政は暗殺と裏切りを繰り返してきた。自分のためなら主君や娘婿もすぐ殺した。戦国一の剛腕は何故か不気味なほど信長に優しかった。
裏があるのでは、という意見が半数を占めた。のこのこと会見場に出かけたら拉致されるんじゃないか。食事に毒を混ぜて殺されるのではないか……
行くべきだ、という意見も半数あった。美濃との同盟強化こそ唯一の打開策だ。頭を下げて助けを求めるべきだ……
長秀は折衷案を出した。
「暗殺を防いで会えばいい。会見場所を全軍で取り囲みましょう。
今のままでは切り崩されて死にます。同盟を強化して今川、清州と戦うべきだ」
信光は疑問を述べた。
「依存しすぎるのも危険だな。犬山(城主の織田信清。利政と組んで独立勢力として活動している)のように取り込まれるかもしれない」
秀敏は楽観論を述べた。
「犬山は美濃と商売しないとやっていけない。あそこは地形的に美濃に吸い寄せられる運命にある。知多が尾張に吸い寄せられるのと一緒でな。
しかし那古屋と犬山は違う。那古屋の銭は美濃を飲み込むぞ。
それに山城守は意外と話の分かるお人だ。利用価値がある限りは裏切らない。むしろここで力を見せておかないと食いに来るだろう」
信長は決断した。
「軍勢を率いて会見する。その場で全面支援を引き出す事が出来れば大勝利だ。
全員、武具の手入れを怠りないように」
信長は財務担当の村井貞勝を紹介した。
身なりのいい上品な中年男性である。ヤカラ揃いの織田家の中では得難い存在だった。
「村井だ。金がない奴はこの村井に言え。貸してやる」
村井は頭を下げた。
信長は全員に言った。
「会見場には全員で最高にお洒落して行こう」
その後、両家の家臣の間で何度か話し合いがもたれた。会見のスケジュールが詰められていった。
場所は尾張、美濃国境に近い冨田の聖徳寺。時期は来月。斎藤家は全面支援を確約する……




