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4-5

 甚介隊二百は増援三百を得た。

 甚介は最後尾の本陣から戦況を眺めた。体は赤尾の返り血で真っ赤だった。

 親衛隊は半数に減っていた。残った兵士も体力が落ちていた。長槍は縦に持てず斜めに持っていた。地面に置いて肩で息する兵士もいた。

 五百対二百五十の戦いだった。すぐに押し返せるはずだった。

 黄色と黒の旗が最後尾の本陣に迫ってきた。絶叫や銃声もどんどん大きく聞こえてきた。

 数人の兵士が真っ青な顔で本陣脇を抜けて逃げていった。親衛隊は「逃げるな!」と怒鳴ったが止まらなかった。

 逃げてくる兵士は四人、五人と増えてきた。やがて二十人ほどの兵士が塊になって逃げてきた。

 親衛隊は無言で長槍を構えた。甚介は火縄銃を手に取った。


 正面右側から勝家隊が雪崩れ込んできた。先鋒は勝家本人が務めていた。槍の穂先は真っ赤だったが、本人は血一つ付いていなかった。

 正面左側から長秀隊が雪崩れ込んできた。先鋒は利家。黄金の鎧は血で赤く染まり、十文字槍は右側が欠けていた。しかし本人は無傷だった。

 甚介は長秀の小型馬を狙撃した。弾丸は馬の胸に命中した。長秀は倒れる馬から軽々と飛び降りた。

 長秀隊は二十メートル先からローマ兵のように槍を投げた。槍は親衛隊の足や肩に刺さった。長秀隊は抜刀して切り込んだ。

 勝家隊は槍を構えて突撃した。

 両隊は手負いの親衛隊を吹き飛ばして突き進んだ。


 勝家、利家は左右から最後尾の甚介に迫った。甚介は背中を見せて逃げようとした。

 勝家は舌打ちして槍を投げた。槍は馬の尻に突き刺さった。馬は前方に急発進して甚介を振り落とした。

 甚介は背中から地面に落ちた。親衛隊二人は甚介を囲んで守った。

 利家、勝家は親衛隊A、Bに切りかかった。

 利家は刀でAの顔を突いた。勝家は出鼻小手でBの手首を切り落とした。

 甚介は獣のような叫び声を上げて立ち上がった。

 利家は左側に、勝家は右側に回り込んだ。甚介は腰の刀二本を抜いて二刀流になった。

 二人は両サイドから切りかかった。

 甚介は左の刀を横一線に薙いだ。利家はしゃがんで左足を切り付けた。甚介の横薙ぎで細長い兜が上下二つに切り裂かれた。

 勝家は大きく振りかぶった。甚介はとっさにボクシングの十字ブロックで身を守った。勝家は手甲で守られた腕ごと甚介を叩き切った。


 信光は槍を掲げて指示した。


「今だ。全軍俺に続け」


 信光隊は信光を先頭に時計回りで北側に回り込んだ。目の前には敵本隊の大膳隊がいた。

 信光軍は大膳隊の北側から飛び込み、内部を食い破って南側から飛び出した。

 清州軍は総崩れになった。敵兵士は背中を見せて逃げ出した。

 信長軍は追撃を開始した。信長本隊も追撃戦に加わった。


 信長は小型の馬に乗って前線まで移動した。周囲は池田恒興率いる親衛隊が守った。恒興は深紅の鉄朱漆塗本小札具足を着ていた。

 清州軍は二列目の那古屋隊がしんがりに立って退却していた。那古屋隊は信長軍の攻撃を必死に防ぎながら徐々に後退した。

 指揮官は十五才の少年、那古野弥五郎である。スケキヨのような肉色塗入道頭形兜を被り、大きな馬に乗って部隊を回っていた。

 勝家配下の弓の名手、太田牛一は遠距離から弓で那古屋を打った。

 矢は那古屋の額に当たった。しかし額がへこんだだけで致命傷にはならなかった。

 周りは慌てて那古屋に駆け寄った。那古屋は兜を取った。

 那古屋は色白の絶世の美少年だった。額から血が一筋垂れて鼻まで伝っていた。


 信長は前線の勝家、長秀の元までやってきた。

 二人は頭を下げた。信長は彼らを褒めた。


「見事だ。血汗馬は赤兎馬の元になった馬という。勝家が呂布なら、長秀は張遼のようだ」


 勝家は抗議した。


「私は裏切りません」


「例えだよ。お前は張良の百倍の働きをした。これが終わったら紙をやる。欲しい物を書いて渡せ」


「ならば清州衆を地の果てまで追う権利をいただきたい。このまま追撃して一人残らず討ち取りましょう」


「任せる」


「それでは失礼いたします」


 勝家は数歩歩いて立ち止まった。

 勝家は振り返って信長に教えた。


「上総守様は今、仮に上総守を名乗っておられますが、上総守という官位はございません」


「えっ」


「上総守は親王しか名乗れません。不敬に当たりますので、名乗りは上総介に改めた方がよろしいかと。

 失礼!」


 勝家は頭を下げて立ち去った。勝家隊も前進した。

 信長は長秀に尋ねた。


「えっ、そうなの?」


「えっ、敢えて不敬の名を名乗っているんじゃなかったんですか?殿らしくて素晴らしい名乗りだと思っていましたが」


 萱津の戦いは信長軍の勝利に終わった。清州軍は横槍を食らって総崩れになった。

 信長軍は清州城まで敵を追撃した。清州軍は何とか城に逃げ込むと、門を閉じて守りを固めた。


 織田秀敏隊は三本木村に突入して敵を追い散らした。敵は深田城に逃げていった。


 両佐久間隊は守りを固めた間島村に突入した。

 敵味方は市街地で銃撃戦を繰り広げた。慌てて出てきた敵の弾薬保有量は少なかった。両佐久間隊は長時間打ち合って消耗戦に持ち込み、玉切れを待って総攻撃を仕掛けた。敵は松葉城に逃げていった。


 秀敏隊は深田城、両佐久間隊は松葉城を取り囲んだ。敵は降伏して城を差し出した。救援作戦は成功した。


 午後、三部隊は清州城前で合流した。敵は城から出てこなかった。信長軍は城周辺の農作物を根こそぎ刈り取って退却した。

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