13-11
緊急事態を知らせる鐘が鳴らされた。
三人は山門の方に向かった。
昨日騙した一揆勢が山門前に集まっていた。数は倍増えて二千になった。
頭目は門越しに叫んだ。
「松平元康を出せ!拒否するなら寺を焼くぞ!」
一揆勢は大声を上げて威嚇した。
松平隊や門徒兵が山門裏に集まってきた。全員不安そうな顔だった。
元康達もやってきた。
家臣は元康に「殿」、「殿」と声をかけた。
元康は落ち着かせた。
「子供の頃、河原で石合戦を見た。人数が多い方が負けたよ。
向こうは寄せ集めだ。やる気があるのは先頭の何人かだけ。他は彼らに引っ張られている。先頭集団を叩けば簡単に追い散らせる」
家臣の一人は元康に「鎧をお召しになっては」と勧めたが、元康は拒否した。
「要らない。それより刀を。
亀丸、新しい旗を掲げなさい」
亀丸は厭離穢土の旗を掲げた。
朝四時、水野軍二千は知立城を出発して岡崎城に向かった。
信元は馬に乗って部隊の中央を進んでいた。彼は永楽銭をあしらった熊毛の鎧、永楽銭紋入黒熊毛入二枚胴具足を着ていた。
前から伝令騎兵がやってきた。
騎兵は早口で信元に告げた。
「岡部元信勢、刈谷城に夜襲をかけました!城は落城!ご城主水野十郎左衛門様はお討ち死に!」
水野家の本拠地、小川城は知多湾の西岸にあった。小川城の対岸に信元の弟、水野信近が城主を務める刈谷城があった。
刈谷城の南に市原稲荷神社という神社があった。神社は燃えていた。
岡部元信は鳥居の前に座って、炎上する刈谷城を眺めていた。手には血まみれの唐冠形兜を持っていた。信近が被っていたものだった。
大樹寺の一揆勢は塀越しに松明を数本投げ込んだ。門を蹴ったり、木槌で叩いたりもした。
頭目は叫んだ。
「十数える!それまでに嘘吐きの元康を出せ!
十、九……」
元康は大声で指示した。
「門を開けろ!」
寺の僧侶はためらった。
元康は刀を抜いて、門のかんぬきを二度切り付けた。
「アブレ・ラ・プエルタ!アオーーーーラッ!(スペイン語。訳・門を早く開けてください)」
家臣は驚いた。門徒兵は震え上がった。
この時、初代暴れん坊将軍と化した元康が切り付けたかんぬきは、現在も大樹寺に「貫木神」として保管されている。
頭目はカウントを続けた。
「六、五……」
僧侶Aは急いで門のかんぬきを外した。僧侶B、Cは門の扉を押した。
門が大きな音を立てて開いていく。
元康は二千人の敵に向かって一人で駆け出した。
この日、戦国の世に怪物が放たれた。
(完)
ご一読いただきありがとうございました!
この作品を出版してみたいのですが
何をどうしたらいいのか全く知識がありません
事情に明るい方 お力をお貸しください!