奇襲ルート-2
信長達は丘の上から一帯を眺めた。
太子ヶ根の南側に東海道が東西に走っていた。
東海道の南側には複数の丘があった。この丘の向こうに田楽坪があるはずだが、山影に遮られてここからは見えなかった。
可成は山向こうの敵の姿を想像して奮い立った。反対に三人の気持ちは沈んでいた。
中島砦で引き留めた平手久秀はかつての筆頭重臣、平手政秀の息子だった。
七年前、政秀はメンタルに不調をきたして自殺した。
久秀の顔を見て、三人は久しぶりに政秀の事を思い出していた。中途採用の可成には彼らの悲しみが分からなかった。
勝家は信長をいたわった。
「まだ忘れられませんか?」
「毎日思っている。
こんな風に大雨が降ると、政秀は魂が抜けたようになった。話しかけても答えない。じっと床を見つめているんだ。あの時は何も話せなかったが、今は違うと思いたいな」
簗田政綱がやってきた。彼は蓑笠を被って農民に変装していた。
政綱は四人に一礼した後、東海道の南側の情報を伝えた。
「今川軍は田楽坪で休憩中です。しかし義元は田楽坪にいません。入る手前の松原で休んでいます。
殿、あちらをご覧ください」
東海道を挟んで太子ヶ根の南東に丘があった。政綱はこの丘を指差した。
「仮にあれをいろは丘と呼びます。いろは丘の東の麓に義元の本陣があります」
東海道を挟んで太子ヶ根の南西に二つの丘があった。政綱は今度はこちらの丘二つを指差した。
「東側がほへと丘。西側はちりぬる丘。丘の間の細道を南に進むと田楽坪に出ます」
信長は四人に指示した。
「二手に分かれる。
俺は二千を率いていろは丘の西の麓に待機する。狙いは本陣だ。可成と長秀は俺と来い。
勝家は千を率いてほへと丘とちりぬる丘の間に待機しろ。田楽坪に突入して暴れるだけ暴れてこい。道案内に簗田を付ける。利家、成政もお前に預ける。
雨が上がったら鏑矢を打つ。それが合図だ。上がらなければ鉦を打つ。聞き逃すな」
勝家は頭を下げた。
「ご武運を。次に会う時、殿は天下人だ」
信長は爽やかに笑った。
「義元の首一つで買えるほど天下は安くないぜ?」




