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正面攻撃ルート-2

 織田軍は麓に立ち止まっていた。兵士は何故動かないのか、とざわついた。

 信長は白い馬に乗って軍の先頭に立っていた。心配した柴田勝家、森可成、丹羽長秀が信長の元にやってきた。


 雨風は益々激しくなってきた。

 木々は吹き飛んだ。冷たい大粒の雨が背中にぶつかった。地面はぬかるみ、泥の小川が出来た。元々の川は増水した。

 視界悪化で南の丘の敵部隊は見えなくなった。当然向こうもこちらが見えていなかった。


 信長は空を見上げた。


「船上山に降る雨もこのようなものであっただろう」


 南北朝の戦いで、官軍百五十は船上山に逃げ込んだ。幕府軍三千は山を包囲して攻め込んだ。その時、突然暴風雨が起こった。幕府軍は大慌てになった。官軍は一気に攻め込んで千人を討ち取った。

 この勝利によって後醍醐天皇は勢力を回復し、鎌倉幕府を滅ぼす事が出来た。突然の天気が歴史を変えた一例である。


 勝家は勇気付けた。


「殿の願いに熱田大神がお応えになったのです。

 我々は神軍です。この雨は神の矢。この風は神の刃です。流れは確実に我らにあります。凡将は流れに逆らって自滅し、名将は流れを察知して乗ります。

 今なら朝比奈勢に気付かれずに田楽坪に突入出来ます。裏崩れを起こして船上山の戦いを再現しましょう」


 長秀は懸念を伝えた。


「義元が今どこにいるかはっきりしません。田楽坪にいるのは確かですが、詳しい居場所は簗田の報告待ちです。その簗田はまだ戻ってきていません。

 場所が分からないと、義元を取り逃がすかもしれない。予定通り太子根に移動して、簗田と合流する方が安全です」


 可成はまとめた。


「この雨はいずれ止むでしょう。敵がいつまで田楽坪にいるか分かりません。

 雨を味方に最短で田楽坪に突入するか。時間はかかるが安全な東の山道へ向かうか。勝負するか。安定を取るか。

 殿がどちらをお選びになっても、我々は殿に付いていきます」


 信長は部隊に指示した。


「これより長坂道に向かう。

 先鋒は可成。長秀は副将として俺を支えろ。

 田楽坪に入った後は二手に分かれる。俺は二千を率いて義元を追う。勝家は千を率いて田楽坪の敵を片付けろ」


 織田軍は森可成隊を先頭に東海道に入った。


 南の丘には今川家の重臣、朝比奈泰朝隊千五百が展開していた。

 織田軍三千は雨風に紛れて朝比奈隊の正面を通過していった。


 この時、朝比奈隊は数百メートル先が見えない状態だった。

 指揮官の朝比奈泰朝は持ち場を守りつつ、周辺諸隊に救援要請を送った。

 豪雨の中、自分から二倍の敵に攻めかかれば壊滅する。

 しかし周辺部隊をかき集めれば四千五百にもなった。これだけあれば本隊が来るまで十分守り切れるだろう。

 泰朝は織田軍が中島砦にいると思っていた。


 織田軍は東海道の分岐点から長坂道に入った。

 急激に強まった雨は急激に弱まった。


 長坂道の入り口に高根山という丘があった。丘の頂上に監視所があった。

 監視所は織田軍を発見して鉦を打ち鳴らした。

 麓で雨宿りしていた兵士はうろたえた。

 勇敢な少数の兵士は木の下から飛び出した。

 前線に盾のバリケードが築かれていた。勇敢な兵士は盾の後ろに移動して武器を構えた。

 大半の兵士は木の下に留まって出ようとしなかった。青ざめた顔で逃げ出す兵士もいた。


 雨が止んだ。空から光が差し込んできた。正面に敵の怯えた顔が見えてきた。

 信長は槍を振って叫んだ。


「よし、かかれ!かかれ!」


 織田軍は麓の敵陣に向かって突撃した。

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