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12-3

 織田軍三千は善照寺砦を出て、丘の東側に集まった。ここから中島砦に向かう道は山影になっていて、鳴海城からは見えにくかった。

 善照寺~中島間は湿地帯で道が細かった。織田軍は一本道を一列になって進んだ。


 鳴海城には今川家最強の武将、岡部元信が二千の兵で籠っていた。

 この状況で攻撃されたら非常に危なかったが、岡部隊は出てこなかった。


 織田軍は無事湿地帯を渡り切り、中島砦まで移動した。

 砦の東には丘陵地帯が広がっていた。小高い丘が連なり、雑木林が生い茂っていた。

 砦から東進すると山道に入った。丘を避けて南東に進むと東海道に入った。

 川を挟んで砦の南側に複数の丘があった。幾つかの丘の麓に敵部隊計三千が展開していた。


 信長は南東の街道を見つめた。散発的な銃声が聞こえたが、すぐに止んだ。

 信長は南の丘を見つめた。動く気配はなかった。

 信長は北の鳴海城を見つめた。こちらも動かなかった。


 敵はこちらの存在に気付いているのに動かなかった。本隊が来れば無理して攻めなくとも勝てる、という判断だろう。

 敵は本隊がいつ到着するか分かっていて、予定通りの時間に来ると考えている。だから焦らず、動かない。

 銃声もすぐに聞こえなくなった。本隊が予定を崩して中島砦に逆襲してくる可能性は低い。


 信長はリスクを取って勝負に出た。


「よし、続行だ」


 家臣数名が信長の馬の前に回り込んで土下座した。彼らはこのまま踏み殺されても構わないという気持ちだった。

 家臣は林、平手。蜂屋頼隆。池田恒興。長年仕えてきた側近の長谷川橋介。林、平手はともかく、他のメンバーは信長とも個人的に親しかった。皆織田家の将来と信長の身を案じていた。

 林は必死に頼んだ。


「ここが織田家が滅ぶか、生きるかの分かれ道です!なにとぞ清州城にお戻りください!この林、身命を賭して今川軍を追い払ってみせましょう!」


 信長は南の丘の部隊を指差した。


「向こうの敵は戦い続けて疲れている。我々はどうだ?後十回は戦えるぞ。

 これより田楽坪に向かう。道を駆け抜けて本陣に突入し、敵を捻り倒し、追い崩す。

 敵は逃がすな。残らず食らい付け。しかし首は取るな。重くなる。

 戦に勝てば、ここにいる者の名は永遠に残る。ひたすらに励むべし」


 部隊は旗を丸めて隠した。足の遅い補給部隊はこの場に残された。


 佐々政次隊の生き残りが街道方面から戻ってきた。

 部隊三百人の内、死者五十人。負傷者百五十人。しんがりを務めた前田隊、佐々成政隊計百人は無傷だった。もう一戦出来る余裕があった。


 利家と成政は信長の前に進み出て土下座した。

 利家の家臣、村井長頼は荷車を引いた馬を信長の前に着けた。荷車には血まみれのズタ袋が幾つも載っていた。

 村井は馬から下りて利家の後ろで土下座した。

 信長は褒めた。


「二人共よくやった!

 成政!お前の兄はこの戦一番の功労者だ!重く報いる!

 利家!後百個首を取ったら許してやる!俺と一緒に来い!」


 二人は喜んで礼を述べた。


「ありがとうございます!兄も報われます!」


「この前田利家!殿のために義元の首を百万個取ってまいります!」


 ある資料によれば、この戦で最も大きな褒賞をもらったのは簗田ではなく、佐々政次だという。信長は政次の息子も成政も重く取り立てた。

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